最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)144号 判決 1979年4月03日
那覇市首里赤平町二丁目三八番地
上告人
安里宗次郎
右訴訟代理人弁護士
安里積千代
平良清仁
沖縄県浦添市字宮城六九七番地の七
被上告人
北那覇税務署長
黒島直次郎
右当事者間の福岡高等裁判所那覇支部昭和五三年(行コ)第一号贈与税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人安里積千代、同平良清仁の上告理由について
所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顯 裁判官 環昌一)
(昭和五三年(行ツ)第一四四号 上告人 安里宗次郎)
上告代理人安里積千代、同平良清仁の上告理由
一、本件の争点は、上告人が金一〇万ドルを亡マサ子から贈与を受けた時期が、昭和四六年一二月二四日であったか、昭和四七年七月七日であったかの一点である。
上告人は前者即ち沖縄の復帰前の所得であるとして、当該法令に基く一時所得として申告した。これに対し被上告人は後者即ち復帰後の昭和四七年七月七日であるとして、贈与税を課税したことを不当とする訴訟である。
従って、本訴においては、納税者の申告に反して、その所得の生じた時期を認定した被上告人にその立証責任のあることは当然である。
而して、亡マサ子が被上告人認定時に上告人に贈与した、即ち上告人の所得がその時に生じたとする積極的な立証はない。逆に上告人はその時期を積極的に立証している。
被上告人の立証は、この贈与事実とは関係のない他の事実、即ち亡マサ子が取得した土地の売買代金が内部関係において共有者があり、それぞれの所得として申告したのを不当として斥けたことや、課税の軽減をねらったものとする想像に基き認定したに過ぎない。
そもそも納税は国民の義務であるが、それは結局納税者の財産の一部を国が取りあげることで、いわば財産権を侵すものであるから、確実な証拠に基かない限り納税者の意思に反する課税上の措置はあってはならない。
疑しいことは納税者の意思を尊重し、その利益に解することが徴税上の原則であるべきであり、納税者は常に税金を免れたり、軽減をはかることを意図するものだと疑い、或は悪意をもって臨むことは妥当ではない。
従って、本件において、贈与者の意思を勝手に推則して贈与を受けた者の財産上の権利の帰属をゆがめて認定するのは、税法の精神に反し、税務訴訟上許されないことである。
結局、原判決は立証の責任を転嫁し、自由心証主義を免脱し、理由不備の違法がある。
二、原審は「金城ウシ名義の金一〇万ドルの定期預金は、亡マサ子に帰属していた」と認定しているが、それならば亡マサ子が金城ウシ名義の定期預金証書とそれに使用した印鑑を所持し、自己の意思で自由に処分できる立場にあったことを合理的に説示して、はじめて右定期預金が亡マサ子に帰属していたと認定できるのに原審が認定した事実からは全く右事実は窺われない。
反対に右「定期預金に使用した印鑑は、上告人の妻が所持し、亡マサ子死亡後その印鑑は、相続人に引渡された」と認定している。
このことは、亡マサ子において右定期預金を自己の意思で、自由に処分できる立場でなかったことを意味するもので、右定期預金が亡マサ子に帰属していたとの判示は、証拠によらない認定である。少なくとも理由齟齬である。
三、原審は「亡マサ子は、昭和四六年一二月二四日金一〇万ドルを琉球銀行本店に金城ウシ名義で六ケ月定期預金をなした」と認定している。証拠上、金城ウシ名義で金一〇万ドルを琉銀本店に六ケ月の定期預金したのは、上告人夫婦で、これに使用した印鑑も上告人が買い求め、亡マサ子死亡後まで所持していたことは前述のとおりである。
この定期預金証書を所持していたのは上告人であり、満期になった昭和四七年七月七日上告人名義に書替えたのも上告人であるこれを否定する証拠はない。これら重要な証拠を無視し、金城ウシ名義で金一〇万ドルの定期預金をしたのは亡マサ子であるとしたのは、証拠に基かない違法な認定である。
四、原審は「金城ウシ名義の金一〇万ドルの定期預金の解約時の支払利息金七四万五、五八九円は琉銀本店振出の自己宛小切手で支払われ、右小切手は亡マサ子名義の裏書を経たうえ、同日沖縄相互銀行の亡マサ子名義普通預金口座に入金された」と認定しているが、利息を誰が受け取ったかは、定期預金が誰のものであったかを裏付ける重要な証拠の一つである。この自己宛小切手は、上告人が申込み、申込人が取得したことは申込書(乙第六号証ノ二)記載により明らかである。上告人は、この小切手を亡マサ子の夫盛吉への借金の返済に支払い、借用書(甲第二号証)の返還を受けたものである。
亡マサ子は、これを自己の普通預金口座に振込んだ(小切手の裏書に亡マサ子となっていることは取引上当然である)。
原審が申込書(乙第六号証ノ二)の文言に反し、定期預金の利息の取得者が亡マサ子であると認定するには、それ相当の理由を示さなければならない。これらの理由を示さず、右書証に反する認定をすることは、採証の法則に反する。
以上