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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)159号 決定 1980年3月04日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人満園武尚の上告趣意は、憲法三一条、三五条違反をいうが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、道路交通法一一七条の二第一号の酒酔い運転も同法一一九条一項七号の二の酒気帯び運転も基本的には同法六五条一項違反の行為である点で共通し、前者に対する被告人の防禦は通常の場合後者のそれを包含し、もとよりその法定刑も後者は前者より軽く、しかも本件においては運転開始前の飲酒量、飲酒の状況等ひいて運転当時の身体内のアルコール保有量の点につき被告人の防禦は尽されていることが記録上明らかであるから、前者の訴因に対し原判決が訴因変更の手続を経ずに後者の罪を認定したからといつて、これにより被告人の実質的防禦権を不当に制限したものとは認められず、原判決には所論のような違法はない。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(横井大三 江里口清雄 環昌一 伊藤正己)

弁護人満園武尚の上告趣意

第一点 原判決は公訴の提起されていない事実について被告人に罰金刑を科し、憲法三一条に違反している。

1 原判決は原審において変更された訴因については正当にその事実の証明のないことを認めている。そして「本件の審理経過等に鑑みれば訴因変更の手続を経ることなく」訴因とは異なる公訴の提起されていない事実(酒気帯び運転の事実)を認定している。訴因はいうまでもなく被告人にとつて防禦の対象であり、これは終始被告人に明らかにされていなければならないことはいまさら言うまでもない。

2 原判決は単に「本件の審理経過等に鑑みれば」といつているだけで本件にあつて訴因変更手続を要しない所以を論じていない。しかし本件にあつては証人水島の第一審における証言から明らかな如く、警察が検察官に送致する段階では酒気帯び運転の事実で送致するか酒酔い運転の事実で送致するかが議論された。本件の審理過程である第一審において訴追側が酒気帯びか酒酔いかについて選択をし、一方に決定したことが明らかである。

3 当事者主義構造をとるわが国の刑事訴訟において、一当事者の側がある選択をなした場合にはその選択を尊重すべきこともまた論を俟たない。訴因の決定そのものがすでに右のような選択であるところ本件では先に述べたように二者のうちから選択したもので、尊重されるべき度合はより大きいというべきである。

4 右のように捜査の段階において酒気帯びか、酒酔いかが検討されている本件のような場合には両訴因の関係にかかわらず訴因の変更手続をしなければ原判決の認定したような事実を認定し、有罪の言渡をすることはできないというべきである。

5 原判決は訴因変更手続を要する場合であるのにこの手続をせず、結局公訴の提起されていない事実について有罪の裁判をなしたもので、被告人は法の定める手続によらず罰金刑を科されたもので原判決は憲法第三一条に違反する。

第二点 <以下、省略>

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