最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)809号 決定 1980年2月29日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人成田健治の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余は、憲法三一条違反をいう点も含め、実質は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
なお、原判決の認定するところによれば、被告人両名は、共同して、街頭に掲示された日本共産党所有の同党演説会告知用ポスターに表示された同党幹部会委員長宮本顕治の肖像写真や氏名の部分などに、「殺人者」などと刷られた原判示のシールを貼りつけたというのであつて、被告人両名の右所為が右ポスターの効用を滅却したものとして暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)の罪にあたるとした原審の判断は、正当である。
所論は、本件ポスターの掲示は公職選挙法一二九条、一四三条一項に違反するから、このようなポスターは刑法二六一条の保護を受けず、その効用を滅却しても同条の器物毀棄罪は成立しない旨主張するが、公職選挙法上の選挙運動に関する右禁止規定と暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)とでは、それぞれ立法の目的、保護の法益を異にするのであつて、たとえ本件ポスターの掲示が所論のように違法であるとしても、そのことから直ちに右ポスターが同法律一条(刑法二六一条)の罪の客体として保護されないものとは解しがたく、論旨は理由がないことが明らかである。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(江里口清雄 環昌一 横井大三)
弁護人成田健治の上告趣意<省略>