最高裁判所第三小法廷 昭和54年(オ)46号 判決 1979年7月31日
上告人
古賀俊一こと
洪斗儀
右訴訟代理人
中沢信雄
被上告人
佐野英夫
右訴訟代理人
湯木邦男
打田千恵子
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中沢信雄の上告理由第一について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二について
記録によれば、本件第一審判決は、昭和五二年一二月二七日名古屋地方裁判所において言い渡され、同日公示送達の方法により上告人に送達され、翌二八日送達の効力を生じたものであるところ、上告人は、その控訴期間経過後である昭和五三年一月二三日に至り、弁護士中沢信雄を訴訟代理人として名古屋高等裁判所に控訴を提起したものであることが、明らかである。
所論は、右控訴の提起が控訴期間経過後にされたことにつき上告人の責めに帰することのできない事由によるものではないとして控訴の追完を許さなかつた原審の判断は違法である、というのである。
しかしながら、原審の確定した事実関係によれば、(1) 被上告人と上告人を代表者とする有限会社古賀鋳工所とは、ともに、本件訴訟の背景となつている別件の名古屋地方裁判所昭和四八年(ワ)第一三一八号事件において被告の一人とされていた、(2) 被上告人は、同訴訟において、上告人に対して不動産の不法占拠に基づく損害賠償請求権のあることを主張し、別途その請求をすることを匂わせていた、(3) 右別件訴訟においては、被上告人の訴訟代理人の一人は本件訴訟の訴訟代理人である弁護士湯木邦男であり、有限会社古賀鋳工所の訴訟代理人は本件訴訟の訴訟代理人である弁護士中沢信雄であつて、両代理人とも別件訴訟における右の状況を了知していた、(4) 被上告人は、昭和五二年四月二一日、弁護士湯木邦男を訴訟代理人として本訴を提起したが、上告人に対する訴状等の訴訟書類の送達は数次にわたりいずれも送達不能となり、被上告代理人の数回にわたる調査上申にもかかわらず上告人あての送達がされないまま経過した、(5) その後、たまたま被上告代理人が上告代理人に会つた際、被上告代理人から、上告人を相手方として訴訟を提起した上告人の住所が明確でなく書類が送達不能になつていることを伝え、上告人の住所がわかつていれば教えてほしい旨を依頼した、(6) 上告代理人は、昭和五二年秋ごろ、被上告代理人から申出のあつた事項を上告人に伝えた、(7) 上告人及び上告代理人ともこのころには被上告人から上告人に対して訴訟が提起されていることを確知した、というのである。
右の事実関係のもとにおいては、他日判決が言い渡されるであろうことは十分予想され、しかもその内容が上告人にとつて不利なものとなることも優に予側されるのであるから、上告人がなんらの調査もせずに控訴期間を徒過したことは重大な怠慢というべきであつて、右判決の送達が公示送達によつてされたからといつて控訴期間を遵守することができなかつたことが上告人の責めに帰することのできない事由によるものであるということはできないとした原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 江里口清雄 高辻正己 環昌一)
上告代理人中沢信雄の上告理由<省略>