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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(オ)68号 判決 1979年5月29日

上告人

稲井良行

外二名

右三名訴訟代理人

土井平一

被上告人

鮒康雄

右訴訟代理人

奥野久之

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人土井平一の上告理由について

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて上告人稲井は被上告人に対し第一審判決別紙物件目録(二)及び(三)の建物につき買取請求権を取得しないものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(高辻正己 江里口清雄 環昌一 横井大三)

上告代理人土井平一の上告理由

上告理由第一点

原判決は借地法第一〇条の建物買取請求権の請求権者の解釈を誤り原判決に影響を及ぼす重大な法令違背がある。

(一) 原判決(第一、二審判決)は、借地法一〇条の建物買取請求権の請求権者とは借地契約当事者並びにその包括承継人以外の第三者すなわち土地賃借権の譲受または転借につき賃貸人の承諾を受けられなかつた建物の譲受人をのみいうものであると判断している。

これはすなわち買取請求権を行使し得るものは建物の譲受人のみに限定する解釈であるが、この解釈は借地法一〇条の解釈を誤つたものであると思料する。

この解釈は、一個の借地上の建物のみについての解釈である。本件のように借地上に数個の建物があり、本件地上建物以外の借地権の譲渡を理由として借地契約全部が解除された場合に譲渡建物について、その建物の譲受人が買取請求権を有するのと同様に譲渡されなかつた建物についてもその所有者は買取請求権を有すると解すべきである。

若し、かように解決しないならば仮りに借地人が借地上に一〇棟の建物を建築し、その内の一棟のみを譲渡して借地契約を解除された場合に他の九棟については建物を取毀し、土地から収去しなければならないのであろうか。

およそ地上建物の譲渡により契約が解除された場合に買取請求権が認められる趣旨は単に借地契約者の信頼関係がなくなつたことのみを理由として高価な建物を収去する経済的損失を防止することと借家人等が居住する場合などの重大な生活権の侵害を防止することを目的とするものである。

近時、建物所有を目的として借地契約が締結された場合、土地所有者は、地代を収受することを唯一の目的とするものであつて、地上建物所有者との信頼関係は地代支払、又は増額の可能性のみに限定されるのである。

このような土地所有者の経済目的からも借地法一〇条の買取請求権者の範囲を解釈するべきである。

若し、一部地上建物の譲渡の事実をもつて他の借地全範囲を解除し得るのであれば、地上建物を規準として買取請求権者を限定するべきではなく、解除される借地範囲を規準に買取請求権者を限定すべきである。

即ち、地上建物の譲渡をもつて借地契約を解除した場合に地主が解除した範囲の借地上に存在するすべての建物の所有者は買取請求権を有すると解釈すべきである。

近時、借地上に鉄筋高層ビルを建築し、建築後、ビル各階、各戸を区分所有とし、その区分所有権を分譲することは、全国いたるところに見られる都市化現象であつて日本住宅公団もかかる借地形態を採用しているところである。

若し、かかる区分所有形態について借地分譲ビルの一戸が、地主の承諾なく譲渡され、ビル全体の借地契約が解除された場合にいかにして地上より分譲された一戸のみを除外して他の建物部分を収去するというのであろうか。

原判決の解決は非合理的な見解というべきであり借地法一〇条の建物買取請求権者の解釈を誤つた違法があるというべきであり、原判決は破棄さるべきである。

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