最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)194号 判決 1981年7月14日
上告人
満足株式会社
右代表者
中田延蔵
右訴訟代理人
中田長四郎
被上告人
日産サニー群馬販売株式会社
右代表者
佐田一郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中田長四郎の上告理由1について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同2について
原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が上告人に対し所有権に基づき本件自動車の引渡しを求める本訴請求が権利の濫用にあたるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。
同3、4について
所論は、判決の結論に影響を及ぼさない部分について原判決の違法をいうか、又は原審が認定しない事項について非難するものにすぎず、論旨は、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(伊藤正己 環昌一 横井大三 寺田治郎)
上告代理人中田長四郎の上告理由
1 契約の成立及び意思表示の解釈に対する審理不尽・理由不備
原判決は訴外株式会社エイコーオート(以下訴外会社という)は太田市所在の各種自動車の販売及び修理を業とする会社で、購入者から自動車の注文を受けると購入者との間で車種、代金額、下取車の評価などを定めて売買契約を締結し、同時に購入者から注文自動車の自動車登録料、強制賠償保険などの諸費用の支払いを受けたうえ、被上告人その他の自動車販売会社との間で購入者に対する受注を履行するため自動車売買契約を締結し、購入者から受領した諸費用の金額を販売会社に前払いし、右諸手続を履行してもらい、受注車を流通に置ける状態になして販売会社から受領しこれを購入者に引渡す手順で受注契約を完結する取引を業とし、この方法で被上告人は期間昭和四七年三月から同四九年五月まで、数量合計一一台の日産サニーを所有権留保付売買をなしていた事実を確定した。
ところで右訴外会社と被上告人との間で自動車売買契約をなし、これによつて購入者との自動車受注契約を完結するということは、所有権留保で買つた自動車を売主である訴外会社の承諾を得て訴外会社が購入者に転売し、転売代金を訴外会社の権限で受領し被上告人に対する訴外会社の前記期間にわたりかつ前記数量に達する転売承諾を存続したことを実証するものである。そして購入者としては被上告人から訴外会社に対する転売権限を信じ、信ずるにつき正当の理由があるということができる。
しかるに原判決は後記のように被上告人の訴外会社に対する転売権を否定しているから右判断は経験則に違反するか又は理由不備の違法に該当し明らかに判決に影響を及ぼす。
2 法令の適用解釈の違背
ユーザーがサブディーラーからディーラー所有の自動車を買い受け代金を完済して引渡しを受けている場合において、ディーラーがユーザーのための車検手続等を代行するなどユーザー、サブディーラー間の自動車売買契約の履行に協力しておきながら右売買契約を完結するためにサブディーラーと締結した当該自動車についての所有権留保付売買契約をサブディーラーの代金不払いを理由として解除したうえ、留保所有権に基づく自動車の返還請求権をユーザーに請求することは、ディーラーがサブディーラーに対して自ら負担すべき代金回収不能の危険をユーザーに転嫁しようとするものであり、代金を完済したユーザーに対し不測の損害をこうむらせるもので権利の濫用として許されないことは最高裁判所昭和五〇年二月二八日判例の明記するとおりである。
しかるに原判決は前記のとおりディーラーにあたる被上告人は本件自動車のユーザーにあたる上告人を直接認識していなかつたことを確定し、右事実に基づき被上告人は上告人に対する本件自動車売買の履行に協力したとはいえないと判示した。
ところで前記判例の明記するディーラーの協力というのは特定のユーザーを個別的に認識して車検手続などを代行する場合に限定するものではなく上記1記載の確定事実の方式を用い、ディーラーとサブディーラーとの間で個々のユーザーの氏名を表示しないで所有権留保付売買の履行を完結する方法で権利濫用の適用をたやすく免脱し、自動車流通系列における所有権留保についての理論形成に第一歩を踏み出した前記リーディングケースの意義を無効にするからである。原審はこの理解を欠き本事件第一審判決がリーディングケースの創始した権利濫用の要件事実を完成するために示した成果を一顧することもなく葬むり去つたと言える。
右の理由で原判決の違法は重大であつてしかも判決に影響を及ぼすことも明らかである。
3 弁論主義の違背・証拠に基づかない事実認定・審理不尽
原判決は上告人が、被上告人と訴外会社との間で被上告人が訴外会社に売渡す新車については群馬県外で販売することを禁止する旨の合意をしたから本件自動車の登録名義が被上告人になつているとの主張を原審に対してなしたと摘示している。しかし上告人が右主張をしていないことは記録上明白である。
(反対に上告人を本件自動車の使用者として登録しないのは自動車登録の記載・編成に関する技術は個々の権利変動ごとに記録する「年代順編成主義」に属し、群馬陸運事務所では埼玉管内の上告人のために使用者登録は制度上不能であるためである。)
ところで被上告人と訴外会社との間で県外販売禁止の合意をしたとの事実は上告人はもとより、被上告人も主張していないことは記録上明白であるのに原判決は弁論主義に違背し、その事実を確定し、さらに同事実に基づき訴外会社が被上告人との間で群馬県外では新車販売を禁止する合意をしていたことは被上告人が訴外会社と群馬県外のユーザーである上告人との間の第二売買の履行に協力しなかつたことを推認させる旨を判示している(原判決書一七丁裏1〜8行)。
そこで右判示事実は弁論主義に違背し、その違背は明らかに判決に影響する。
4 理由不備
原判決は、被上告人は昭和五一年九月一八日ころ本件(一)(a)の自動車につき、また同月二四日ころ同(一)(b)の自動車につきそれぞれ自動車仮処分の執行をしたから、上告人は本件自動車代金を弁済しても自動車所有権を取得できないことを知つていた、そして上告人は訴外会社に交付した為替手形額面金九一万円は適宜の措置により決済をしないことによつて損害を回避し得たはずであるのに、その措置をとらなかつたと判示した。しかし原審の確定したとおり上告人は昭和五一年七月三日右手形を訴外会社に交付し、訴外会社は上告人の紹介を得て右手形を第三者木村弘に譲渡し、割引代金を取得したものである(原判決書一六丁裏5ないし一七丁表4行)から、最終支払義務者である上告人において決済をなさず措置することは手形法上不能である。すなわち原審は法律上不能である措置を可能であると判示するもので理由そごは明白であり明らかに判決に影響する。
(付記)
原審は最高裁判決を二回の口頭弁論で否定したもので、その所論について審理不尽は当然である。このため上告人は原審に提出すべきであつた添付三通の文書を供閲し被上告人の県外販売禁止の合意の主張が虚構であること、反対に右文書に記載するとおり被上告人自身が自動車仮処分の最中に日産サニー一台を上告人に対し県外販売している事実を上申する。