大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)936号 判決 1983年2月08日

上告人

松田正男

外三三名

右三四名訴訟代理人

石川克二郎

被上告人

吉田孝夫

外六四名

右六五名訴訟代理人

伊藤俊郎

伊藤直之

畑山尚三

主文

原判決中確認請求にかかる訴えに関する部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

その余の本件上告を棄却する。

前項についての上告費用は、上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川克二郎の上告理由第一について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。そして、右事実関係のもとにおいて、被上告人らに対し、本件山林につき共有持分権の移転登記手続を求める上告人らの請求を棄却すべきであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論は、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決を論難するものにすぎない。論旨は、採用することができない。

同第二について

思うに、入会権の目的である山林につき、入会権を有し入会団体の構成員であると主張する者が、その構成員である入会権者との間において、入会権を有することの確認を求める訴えは、入会団体の構成員に総有的に帰属する入会権そのものの存否を確定するものではなく、右主張者が入会団体の構成員たる地位若しくはこれに基づく入会権の内容である当該山林に対する使用収益権を有するかどうかを確定するにとどまるのであつて、入会権を有すると主張する者全員と入会権者との間において合一に確定する必要のないものであるから、いわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきものではなく、入会権を有すると主張する者が、各自単独で、入会権者に対して提起することが許されるものと解すべきである。記録によれば、本件において、上告人らは、本件山林が、中沢郷会なる団体に帰属し、かつ、共有の性質を有する入会山であり、上告人らが個別的に右中沢郷会に加入を認められたこと(いわゆる新加入)によつて入会権を取得した旨主張し、右団体の構成員であつて入会権者である被上告人らとの間において、上告人らが、本件山林につき、被上告人らの権利と同一内容の「植林、用材及び雑木の伐採、採草等を目的とする共有の性質を有する入会権」を有することの確認を求めていることが明らかであるから、上告人らの右確認の訴えは、上告人らが、各自単独で、提起することが許される通常訴訟というべきである。

しかるに、原判決は、入会権確認の訴えは、入会権者が全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟と解すべきであるとしたうえ、上告人らが確認を求めている右山林についての入会権は、その主張によれば、上告人らがいわゆる新加入によつて取得したものであるが、このような新加入者には上告人らのほかに訴外菅野三吉、同菅野清十郎及び同高井元治郎の三名がいるところ、この三名が本件確認の訴えの当事者となつていないとの理由のみで、右訴えを当事者適格を欠いた者が提起した不適法なものであるとして却下しているが、この判断は当事者適格に関する法令の解釈適用を誤つた違法なものというべきであり、この違法は原判決中入会権の確認を求める訴えに関する部分の結論に影響を及ぼすことが明らかである。したがつて、この点の違法をいう論旨は理由があるから、原判決中右訴えに関する部分を破棄することとし、上告人らが本件山林について入会権を有するかどうか、その内容いかんについて、さらに審理を尽くす必要があるので、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、九三条一項、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(伊藤正己 横井大三 木戸口久治 安岡滿彦)

上告代理人石川克二郎の上告理由

第一、原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な事実について理由の不備又は理由の齟齬がある。

本件山林は共有地である。

本件山林はもと官有地であつたが明治九年に払下げ当事の中沢部落民六七名の同等共有持分の共有になつたことは当事者間に争のない事実である。

多数共有者の新な一員としてこれに加わり、以後共有者の一員となることは法律の禁ずるところではない。

不動産共有者、特に山林、原野等の共有の場合、新に共有者の一員とならんとする者は共有者の集会に出席し、共有者の一員となることの承認を得て、以後共有者の一員となるのが一般に行われている共有参加の方法である本件に隣接する下組野沢山組合は本件中沢郷会と同じ会則で運営されたのであるが右組合は新規加入者についてその加入年月日、加入者を組合書類に記載している。(甲第四三号証)

右甲号証によると大正五年二月八日総会において高橋虎蔵、瀬川春治の両名に金七円五〇銭づつ出金させて加入を承認していることが明記している。

同様に大正一〇年の総会では松田吉五郎は加入金一五円大正一五年の総会では松田忠吉外五名が加入金三五円(五ケ年年賦)で加入が承認されている。

上告人等の前主は明治二一年以降いずれも中沢郷会の総会において加入の承諾を得祝酒を提供し且つ加入金を支払つたもので中沢部落では当初の共有者である被上告人等は旧加入者又は旧加盟者、払下以後の加入者は新加入者又は新加盟者と呼ばれていたものである。

新加入者若くは新加盟者の呼称被上告人の仲間入りし共有者の一員となつたことの意味であることを端的に表わすものである。

原判決は上告人等の権利は共有権でなく入会権と認定している。

然し乍ら入会権ならば上告人等が中沢部落に分家したときに当然発生し、何等加入行為を必要とせず、祝酒の提供も加入金の支払も必要としない筈である。

上告人等が分家したばかりで資産も収入も少い経済的弱者であり乍ら多額の加入金を支払つて加入したのは本家と同じ権利を得んためである。

特に明治年代に加入した一五名は大正初期において追加して金一五円づつ旧加盟者側に支払つたのは何のためか原判決はこれについて理由を述べていない。

これは新加入者が旧加入者に比して配当等において不利益な取扱を受けていたのでこれを是正して同じ権利となるために拠出したものである。

このことは上告人側の証人、本人等の供述によつて十分認めうるにも拘らず郷会において議決がなされたことを認める証拠がないとの理由でこれを認めない。

然し被上告人等は中沢郷会関係の記録は火災によつて焼失したとして、郷会の規約等一切の記録を法廷に提出しないのであるから、甲二六号証乙四二号証の反証は被上告人側の立証責任である。

反つて乙二七号証には新加盟者より追加して加盟金を受取つたことが明記されておりこのことは総会において被上告人等が追加金を受領したことを認めた重要な証拠であつて総会において新加入者を旧加入者と同じ権利とすることが承認されたことが認定できる。

従つて原判決中「組合の総会においてそのような議決がなされたことを認めるに足りる証拠がない……」の認定は重大な判断の過誤である。又原判決は甲二六号証乙二四号証は旧加入者と新加入者との間に差があつたのを将来なくすることを合意したと解するのが合理的と述べているが差をなくするということは旧加入者と新加入者と同じ権利となることと同じ意味ではないのか、何故ならば賦役等の義務について新旧加入者と何等差異がないことは証人、本人が全員認めているところであり、本件紛争の発端は配当に差があるという一点から生じているからである。だとすれば追加加入金の支払は新旧加入者の差をなくすることであり、即ち共有者の一員となることである。この点にも原判決は理由の齟齬がある。

又原判決は昭和一五年一六年頃の加入金と、共有持分権買受価額を比して低額であると述べているが、この理由は納得できない。

物価を比較すると(昭和五五年度の週刊朝日に、連載の値段の風物史による)豆腐は明治四一年一銭、昭和一五年六銭、煙草(ゴールデンバット明治三九年四銭、昭和一六年一〇銭、汽車賃明治二二年新橋―大阪間三円五十六銭、昭和一五年五円九十五銭、そば明治一〇年八厘、昭和一五年一五銭、白米明治一〇年五一銭、昭和一四年三円二五銭)等であり平均約七倍である。

本件山林払下当時の最低額拠出者は金二〇銭であり、昭和一五年当時の金一五円はその七十五倍であり物価に比して決して低額でない。

むしろ上告人等は前述の如く分家であり、経済的弱者であること、戦時中は政府物価抑制策をとり、統制経済により物価が統制されていたことを考えると、加入金を大正時代のそれに倣つて十五円として増額しなかつたことは当然である。

従つて昭和一五年一六年当時の加入金が低額であることが共有加入金として適当でないとの認定は誤りである。

第二、原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

原判決は上告人等の予備的請求である入会権確認に対し入会権者全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟であるところ菅野三吉、菅野清十郎、高井元治郎の三名を欠くので当事者適格を欠く不適法なものとして却下した。

右三名は上告人等と同じ「分家」であるが各人の本家である被上告人等の強い圧力により上告人等の必死の説得にも拘らず遂に本件訴訟に加らなかつたものである。

被上告人である本家側の圧力は今後強まることがあつても弱まることがないとすれば上告人等は共有の性質を有する入会権、或いは共有の性質を有せざる入会権について訴訟においてその権利を確認する途がないことになる。訴訟提起から現在二〇年、被上告人側と同じ岩手県下の小繋事件のような暴力的紛争を避け、ひたすら裁判所の判断によつて平和的に解決しようとして努力してきた、上告人にとつて共有持分がないとするならばせめて入会権だけでも裁判所によつて確認して貰うことが残された途であるにも拘らず原判決の如くこれも不可能であるとするならば、上告人等は如何にして自らの権利を主張しこれを証明することができるのであろうか。

本件の如く入会権者の大部分が訴訟を提起し、その一割にも満たない少数者が地主側の分家という特殊な関係のためその圧力等により訴訟提起に加わらない等の特殊な事情の場合は必ずしも権利者全員による訴訟でなくてもその適格を認めるべきである。

原判決は固有必要的共同訴訟につき法令の違背がある。

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