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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)483号 判決 1981年10月13日

上告人

小島延孔

右訴訟代理人

山路正雄

異相武憲

被上告人

寺島方子

右訴訟代理人

東浦菊夫

廣瀬英二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山路正雄、同異相武憲の上告理由第一及び同第二について

記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らすと、被上告人は昭和五〇年七月二九日に訴外寺島照夫から本件建物の贈与を受けて本件建物の所有権を取得するとともに上告人に対する賃貸人の地位を承継した旨の被上告人の主張は、右の時点までにすでに発生した延滞賃料債権及び賃料相当の損害金債権の譲渡を受けた旨の主張をも包含するものと解することがで判旨きないものではない。また、民法四六七条一項所定の通知又は承諾は、債権の譲受人が債務者に対して債権を行使するための積極的な要件ではなく、債務者において通知又は承諾の欠けていることを主張して譲受人の債権行使を阻止することができるにすぎないものと解するのが相当であるところ、記録によれば、上告人は原審において右通知又は承諾の欠缺を主張しなかつたことが明らかであるから、本件建物所有権の譲渡以前に発生した延滞賃料債権及び賃料相当の損害金について譲受人である被上告人の請求を認容した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、被上告人の主張を正解しないか、又は原審において主張しなかつた事項について原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(寺田治郎 環昌一 横井大三 伊藤正己)

上告代理人山路正雄、同異相武憲の上告理由

第一 原判決には、理由不備ないし理由齟齬の違法があるから速やかに破毀さるべきである。

すなわち、被上告人は本訴において本件各建物の明渡し未払賃料(差額分)の支払及び賃料相当損害金の支払を求めているのであるが、原審及び第一審はそのうち、賃料請求権及び損害金請求権の発生要件につき理由不備ないし理由齟齬の誤ちを犯している。

一 まず、未払賃料(差額分)の点についてであるが、上告人は第一審、第二審を通じ後述のとおり昭和四九年二月二五日の賃料増額の合意は存しないと主張してきたものであるが、仮にこの点を措くとしても、賃料(差額分)未払期間は、昭和四九年三月ないし同年九月であるところ、右未払期間の本件各建物の所有者兼賃貸人は、被上告人の夫である訴外寺島照夫(以下寺島という)であり、被上告人は賃貸人ではないのであるから、被上告人が右未払賃料請求権を取得することはないものである。

仮に、寺島の有した右未払賃料債権を、被上告人が爾後譲り受けたとするにしても、既発生の賃料債権は、いわゆる指名債権であるから、民法四七条一項に定める対抗要件(通知又は承諾)の具備の事実につき主張立証が必要であるところ、通知についてそれがないことは明らかであり、さらに承諾についても、上告人としては本件各建物の所有権移転後においても寺島を賃貸人と考えていたのであつて(乙第五及び第六号証)承諾なきことは明白であるので、いかに善解しても主張自体失当というほかないのである。

二 次に賃料相当損害金についてであるが、これについても被上告人が本件各建物の所有権を取得したのは昭和五〇年七月二九日であつて、昭和四九年九月二八日から翌五〇年七月二八日までは所有者ではあり得ず、従つて被上告人が上告人に対し右期間の賃料相当損害金請求権を取得することはないものである。

仮に寺島が取得した右債権を被上告人に譲渡したとしても、右一で述べたとおり、その点につき主張・立証がなされていないのであるから右債務の支払を認めた原判決には理由不備ないし理由齟齬の違法がある。

第二 原判決には審理不尽の違法があるので破毀さるべきである。

すなわち、右第一で述べたとおり、仮に寺島が取得した賃料債権及び損害金債権を、被上告人が譲り受けたものとして、原判決が上告人に対しその各支払を命じたのであれば、債権譲渡の対抗要件具備の点につき、当事者に対し釈明権を行使すべきであつたところ、その行使を怠つたため、著しく不当な結論を導きだしたこととなる。

右は破毀理由としての「審理不尽」というべきである。<以下、省略>

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