最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)85号 判決 1982年2月09日
上告人
泉井
上告人
泉井伊津子
上告人
泉井一郎
右三名訴訟代理人
片山俊一
被上告人
西京運輸株式会社
右代表者
高田輝夫
右訴訟代理人
徳田勝
主文
原判決中、上告人らの請求を棄却した部分を破棄する。
右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人片山俊一の上告理由第一点について
本件につき適用がある昭和四一年法律第八三号による改正前の商法二〇五条一項が、記名株式の譲渡は株券の裏書又は株券及びこれに株主として表示された者の署名のある譲渡を証す書面の交付によつてなす旨規定している趣旨は、記名株式の譲渡方法を右の二つの方法に限定した法意にほかならないから、右規定に定める方法によらない記名株式の譲渡は無効と解するのが相当である。そうすると、記名株式はその譲渡の合意及び株券の交付によつても譲渡移転することができるとした原審の判断には、右法条の解釈を誤つた違法があるものといわなければならず、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点において理由がある。
よつて、その他の上告理由についての判断をするまでもなく、原判決中上告人らの請求を棄却した部分を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、右破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(寺田治郎 環昌一 横井大三 伊藤正己)
上告代理人片山俊一の上告理由
第一点 原判決は、本件株式が昭和二八年中に弘三から新吉に譲渡されたものとし、その株式譲渡につき、裏書又は譲渡証書の添付が存在しなくとも、譲渡の合意及び株券の交付によつて譲渡移転は有効に行ない得る旨認定している。
しかしながら、右認定は明らかに改正前の商法二〇五条の解釈及び適用を誤つた違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
即ち、弘三より新吉への株式譲渡が昭和二八年と認定する以上改正前の商法第二〇五条の適用を受け、この場合裏書又は譲渡証書の交付は株式譲渡の効力要件であることは通説判例の認めるところであり、単に資格授与力のみの問題でなく、裏書又は譲渡証書の交付を欠く株式譲渡は無効と言わなければならない。
なお、本件の場合、株式譲渡が昭和二八年になされたと原判決が認定し、訴外高田博康も昭和二九年頃に譲渡を受けたとして被上告人に対し名義書換を請求しているのであるから、昭和四一年商法改正付則三条の適用をすることは許されない(同条は昭和四二年四月一日以後に株券を占有している者より株券の譲渡を受くべき者にとつて、右占有が右日時以前の原因によるか以後の原因によるか判別できないので、これを保護する趣旨の規定である)。<以下、省略>