最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)851号 判決 1982年9月07日
上告人
額賀孝司
右訴訟代理人
人見孔哉
被上告人
小岩井邦廣
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人人見孔哉の上告理由について
約束手形の第一裏書人及び第二裏書人がいずれも振出人の手形債務を保証する趣旨で裏書したものである場合において、第二裏書人が所持人に対し遡求義務を履行して手形を受け戻したうえ、第一裏書人に対し遡求したときは、第一裏書人は、民法四六五条一項の規定の限度においてのみ遡求に応じれば足りる旨を主張することができ、右の遡求義務の範囲の基準となる裏書人間の負担部分につき特約がないときは、負担部分は平等であると解するのが相当である。これと同旨の原判決の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(寺田治郎 横井大三 伊藤正己 木戸口久治)
上告代理人人見孔哉の上告理由
一、第一審及び原審は、「共同保証人間に負担部分につき特約がない場合には、その負担割合は原則として平等である……。」として、本件当事者間には、その負担部分につき何らかの特約がなされたことを認めるに足る証拠がないから、両名の負担割合は相等しく、従つて被上告人は本件請求金額の半額金一〇〇万円とこれに対する満期の月から年六分の割合による利息の限度の償還義務を負うと云う。
二、共同手形行為者の責任が合同責任であるという点は既に判例として確立していると云つてよい(最判昭三六・七・三一民集一五―七―一九八二)。従つて手形共同保証人は手形所持人に対してそれぞれ該手形金全額を弁済すべき義務を負うのである(従つて、手形共同保証人間には分別の利益はない)。
三、処で、上告人と被上告人は、本件約束手形につき、いわゆる隠れたる手形保証(保証のための裏書)をなしたものであるが、両名間には何らの主観的関連もなく、負担割合についての何らの特約も存しない。
このような場合の各手形債務者は手形所持人に対しては該手形額面全額について支払義務を負うと云うことには異論はない。上告人は、償還義務を履行して手形を受戻した手形所持人であり、しかも被上告人との間に負担割合等についての特約も存しないことは前叙の通りであるのに、本件第一審、原審判決は、上告人の被上告人に対する本件、償還請求については、両者間に負担部分、負担割合を認めるとする。
しかし右、両判決の結論は単なる連帯債務者の求償権行使と何ら異なるところがなく、それは手形共同行為者の責任を合同責任とする判例理論を無視するばかりでなく、手形法第四七条、同法第四八条、同法第七七条、ひいては手形の要式性や独立の原則を無視することになると思料する。
四、手形の共同保証人間の求償権、遡及権の行使は純然たる手形理論により解決されなければならない。そうであれば、本件は被上告人の人的抗弁の問題としてのみ解決されるべきものであるところ、被上告人には隠れたる手形保証であるとの点の他、負担部分、負担割合についての特約についての抗弁の立証はない(形式的に手形裏書をしている以上、右の証明責任を負担すると云うべきである)のであるから、被上告人は、上告人に対して、同人が償還した本件金員全額について支払う義務を負担しているのである。
五、よつて、第一審及び原審には手形行為の解釈についての判例違反、又は重大なる事実誤認があり、右は、審理不尽の違法があることは明白であるから、判決に影響を及ぼすことも又明白である。