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最高裁判所第三小法廷 昭和57年(行ツ)1号 判決 1982年9月07日

東京都文京区小日向一丁目一一番一〇号

上告人

宇土芳郎

右訴訟代理人弁護士

新寿夫

東京都文京区春日一丁目四番五号

被上告人

小石川税務署長

黒岩虎一

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第八二号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年九月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人新寿夫の上告理由第一点について

所得税法一四〇条の規定は、課税標準額の算出に当たりその年の翌年において生じた純損失の金額を繰戻して控除することを認めたものではなく、翌年において純損失が生じた場合には前年分の所得税の額のうち一定の金額の還付を請求することができる旨を定めているにすぎないところ、右規定が青色申告書を提出する居住者について右のような所得税の還付の請求を認めているからといって、上告人の行った商品取引による雑所得についてその年の翌年において生じた純損失を繰戻して控除することを認めるべき理由はない。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。

同二点について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木戸口久治 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎)

(昭和五七年(行ツ)第一号 上告人 宇土芳郎)

上告代理人新寿夫の上告理由

第一点 原判決は上告人と所得税法第一四〇条に基ずく青色申告者との間に存する取扱の差をそのまま肯認するが、このような取扱は法の下の平等に反し憲法第一四条第一項に違反する。

なる程、所得税法第一四〇条の場合には単純な通算ではなく前年度に納税した税金を還付するという形をとっているし、前年度の損失との通算ではなく翌年度の損失を調整する形式をとっている。しかし、これらはいずれも徴税および還付の便宜ということに重点を置き技術的にこのように定めているのであり、実質的税負担という見地よりすれば二年度にわたり収益と損失を通算しているのに変りはない。

所得税第一四〇条が青色申告者にこのような条文を定める理由は徴税の便宜ないし納税への協力に対する恩恵以外にはないが、実質的負担の公平が呼ばれる現在、このような理由により憲法の定める法の下の平等の例外を認めることができないのは明らかである。

よって原判決は破棄さるべきである。

第二点 原判決は上告人が昭和五〇年末に所有していた建玉をその時点の相場で評価した場合生ずる損失を所得より控除するべきであるとの主張に対して所得税法第三六条の権利確定主義に反するとしてこれを拒けるが、このような判断は我々の経験則に反する。

即ち、原判決は商品相場の商品は手仕舞により初めて確定するとするが、これは手仕舞により商品が金銭化するのであり商品自体の価値は手仕舞をしなくともその日の取引相場により客観的に確定しているのである。

所得税法第三六条の「収入すべき金額」とは金銭化したものでなければならないとはいえないことは物と物との交換を考えても明らかである。徴税の方法としては金銭であろうと物品であろうとその価値が客観的に定まっていれば課税評準を確定しうるのであり所得税法第三六条もこのことを前提としているのである。

この意味において原判決は右条文の解釈を誤っている。

以上

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