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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(オ)68号 判決

一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1 本件特許発明は、握鋏の製造方法に関するもので、そのストツパー作成に至るまでの工程は、次のとおりである。

(1) 軟鋼ないし極軟鋼の等厚板で、左右両側部分の底面が下方へ凹弧状に膨出した棒状の握持柄素材を打抜き加工で形成する(握持柄形成)。

(2) 良質の刃物鋼板で、その基端面の幅を握持柄素材の左右両側端面の幅より長くした刃形の刃版素材を打抜き加工で形成する(刃版形成)。

(3) 握持柄素材の左右両側端面に刃版素材の基端面を、握持柄素材と刃版素材の各上縁を一致させて、接触するとともに加熱して、握持柄素材の左右両側部分の表裏両面が膨出するように圧接する(接合)。

(4) 右圧接によつて生じた四つの膨出部分のうち、表面の一個又はこれに対角する裏面の一個の膨出を加えた二個の膨出部分を残して他の膨出を研削除去する(ストツパー形成)。

2 従来の手法では、このストツパーを設けるための工程が一回多くなつており、加工も熟練を要していたのに対し、本件特許発明の右工程によれば、握持柄素材と刃版素材に押圧を加えることにより形成する膨出部分を利用して、鋏のストツパーを極めて簡単に作成することができる。

3 被上告人は、原判決添付目録(六)記載の方法(以下「(ニ)号方法」という。)を用いて握鋏を製造販売している。

これをストツパー作成に至るまでの工程について区分説明すると次のとおりとなる。

(1) 軟鋼板を左右いずれかの片側を少し広く打抜いて握持柄素材を形成する(握持柄形成)。

(2) 鋼材(又は複合材)を原判決添付目録(六)1(2)の第2a、b、c図の形状に打抜いて刃素材を形成する(刃版形成)。

(3) 握持柄素材のうち広く打抜いた部分を常温で上下から押圧してストツパー部分を形成する(ストツパー部分の形成)。

(4) 握持柄素材の左右両端側面に刃版素材を溶接部分に膨出部分が形成するように溶接する(接合)。

(5) 右溶接部にできた膨出部分を一箇所又は二箇所残し(二箇所残すときは対角する裏面に残す。)、他の溶接部は膨出部分を落とす(通常は一箇所残し、ストツパーのない方は裏表とも膨出部分を落とし、ストツパーのある方は表側の膨出部分を落とす。)、なお厚い素材のときは全部の膨出部分を落とす(余分の膨出部分の除去)。

二 原審は、右事実関係に基づき、(ニ)号方法における握持柄部分の基端面のいずれか一端を他端より幅広い形状に打抜いている工程(前記3、(1)をいうものと解せられる。)は、その後の接合工程(前記3、(4))で形成する膨出部分を残存させ、右部分をストツパー部分とする工程と技術的関連性があるとし、また、右のように握持柄を形成することが慣用の技術であることを認めることができないとしたうえ、本件特許発明の握持柄形成においては、その基端面の形状をのちのストツパー形成との関連で特定の形状に形成しようという技術的思想を有していないから、右の点において、すでに、(ニ)号方法は本件特許発明の技術的範囲に属しないとして上告人の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。

三 ところで、原審の確定した事実関係によれば、(ニ)号方法のうち、厚い素材で全部の膨出部分を落とす場合(前記3、(5))については、軟鋼板を左右いずれかの片側を少し広く打抜いて握持柄素材を形成する工程(前記3、(1))及び右握持柄素材のうち広く打抜いた部分を常温で上下から押圧する工程(前記3、(3))は、まさにストツパー形成のための工程ということができるが、他方、本件特許発明にはそのような工程がなく、本件特許発明にそのような技術的思想が含まれていないことは明らかである。そうすると、(ニ)号方法のうち厚い素材で全部の膨出部分を落とす場合は、本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべきであるから、(ニ)号方法が本件特許発明の技術的範囲に属しないとした原審の認定判断は、右の場合については、結論において正当として是認することができる。論旨は、右の場合に関しては理由がなく、採用することができない。

しかし、(ニ)号方法のうち溶接部にできた膨出部分を一箇所又は二箇所残し(二箇所残すときは対角する裏面に残す。)、他の溶接部は膨出部分を落とす(通常は一箇所残し、ストツパーのない方は裏表とも膨出部分を落とし、ストツパーのある方は表側の膨出部分を落とす。)場合(前記3、(5))について、原判決添付目録(六)2の図面の記載は、もつぱら残存させた膨出部分がストツパーとして形成されているように図示されており、軟鋼板を左右いずれかの片側を少し広く打抜いて握持柄素材を形成する工程(前記3、(1))及び右握持柄素材のうち広く打抜いた部分を常温で上下から押圧する工程(前記3、(3))がストツパーの形成に対してどのように役立つているのか不明である。もし、右の場合に右各工程がストツパーの形成に対して技術的に全く意味を持たないのであれば、右各工程は、本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断をする際には、無用な工程の付加としてみるほかなく、右各工程が存在するからといつて、(ニ)号方法が技術的思想として本件特許発明と別異のものになるということはできない。したがつて、(ニ)号方法における握持柄部分の基端面のいずれか一端を他端より幅広い形状に打抜いている工程がその後の接合工程で形成する膨出部分を残存させ、右部分をストツパー部分とする工程と技術的関連性があるとした原審の認定判断は、(ニ)号方法のうち溶接部にできた膨出部分を一箇所又は二箇所残し(二箇所残すときは対角する裏面に残す。)、他の溶接部は膨出部分を落とす(通常は一箇所残し、ストツパーのない方は裏表とも膨出部分を落とし、ストツパーのある方は表側の膨出部分を落とす。)場合については、理由不備の違法があるといわなければならない。よつて、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中、右の場合に関する上告人らの主位的請求及び予備的請求を棄却した部分は破棄を免れない。そして、右の点についてはさらに審理を尽くす必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

〔編註その一〕 本件に関する上告理由は左のとおりである。

第一原判決は、被上告人の握鋏製造方法((ニ)号方法)は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断するが、右は以下に述べるとおり特許法第七〇条(特許発明の技術的範囲)の解釈適用を誤り、かつ経験則に反し、審理不尽ないし理由不備の違法があり、民事訴訟法第三九四条後段もしくは同法第三九五条第一項第六号に該当する違法があり、原判決は破棄を免れないものである。

一、原判決は本件特許発明の構成要件を次のとおり認定する。

(1) 軟鋼ないし極軟鋼の等厚板で、左右両側部分の底面が下方へ凹弧状に膨出した棒状の握持柄素材を打抜き加工で形成し(握持柄形成)、

(2) 良質の刃物鋼板で、その基端面の幅を握持柄素材の左右両側端面の幅より長くした刃形の刃版素材を打抜き加工で形成し(刃版形成)、

(3) 次いで、握持柄素材の左右両側端面に刃版素材の基端面を、握持柄素材と刃版素材の各上縁を一致させて、接触するとともに加熱して、握持柄素材の左右両側部分の表裏両面が膨出するように圧接し(接合)、

(4) 右圧接によつて生じた四つの膨出のうち、表面の一個又はこれに対角する裏面の一個の膨出を加えた二個の膨出を残して、他の膨出を研削除去し(ストツパー形成)、

(5) さらに、握持柄素材の中央部分を加熱するとともに、上下から押圧を加え、表裏両面方向にのみ膨張させ(握持柄第一次加工)、

(6) 加熱によつて生じた酸化鉄(ベト)の層を除去して地肌を出し(表面処理)、

(7) 再度膨張部分を常温のもとで上下から押圧して伸展させて、薄くて広いネバリのあるバネ面を形成し(握持柄第二次加工)、

(8) この後刃版素材に刃付するとともにバネ面で折返し仕上げの研磨をして完成させる(仕上げ)握鋏の製造方法。

二、而して原判決は被上告人の握鋏製造方法((ニ)号方法)の構成を次のとおり認定する。

1 軟鋼板を、左右いずれかの片側を少し広く打抜いて握持柄素材を形成し(握持柄形成)、

2 鋼材(又は複合材)を別紙目録(六)第2a、b、c図の形状に打抜いて刃素材を形成し(刃版形成)、

3 握持柄素材のうち広く打抜いた部分を常温で上下から押圧してストツパー部分を形成し(ストツパー部分の形成)、

4 握持柄素材の左右両端側面に刃版素材を溶接部分に膨出が形成するよう溶接し(接合)、

5 右溶接部にできた膨出を一箇所又は二箇所を残し(二箇所を残すときは対角する裏面に残す)、他の溶接部は膨出を落す(通常は一箇所残し、ストツパーのない方は裏表とも膨出を落し、ストツパーのある方は表側の膨出を落す。)、なお厚い素材のときは全部の膨出を落す(余分の膨出の除去)、

6 握持柄素材全体を加熱するとともに、中央部分を最強に、残した膨出部分を次に強く押圧し(握持柄第一次加工)、

7 加熱によつて生じた酸化鉄を薬品で除去し(表面処理)、

8 握持柄素材部分の中央部を常温で押圧し(握持柄第二次加工)、

9 握持柄素材部分の中央部分を折曲げ(かつ刃版素材に刃付して)、鋏を完成させる(仕上げ)握鋏の製造方法。

三、而して原判決は本件特許方法と(ニ)号方法を対比し、その差異を次のとおりであるとする。

1 製造工程に関し、本件特許発明においてはストツパー部分の形成が接合工程に包含されているのに対し、(ニ)号方法においては接合段階の前にストツパー部分の形成段階が独立に存在する、

2 握持柄形成について、本件特許発明は何らの限定を加えていないのに対し、(ニ)号方法は左右基端面のいずれか片側を少し広くして打抜加工している(この部分は次に常温下で上下より押圧して扁平なストツパー部分になる)、

3 刃版形成について、本件特許発明は基端面の幅が握持柄の側端面の幅より長くするよう限定しているのに対し、(ニ)号方法はこれについて特段触れていない、

4 握持柄と刃版の接合について、本件特許発明は加熱下における圧接としているのに対し、(ニ)号方法は溶接としている、

5 膨出の研削除去について、本件特許発明は表面の一個又はこれと対角する裏面の一個を加えて残すとしているのに対し、(ニ)号方法はストツパーのある方の裏側の膨出を残す、又はこれと対角する裏面の一個を加えて残す、なお、厚い素材のときは全部落すとしている、

6 握持柄の第一次加工について、本件特許発明は中央部を表裏両面方向にのみ膨張させるのに対し、(ニ)号方法は残した膨出部分を含め握持柄全体を押圧する、

四、而して原判決は右差異の内、3刃版形成の差異については本件特許発明の技術的範囲に属するとするも、右1、2の握持柄形成の差異について次のとおり(ニ)号方法は本件特許発明の技術的範囲に属しないとしている。

即ち、

「(ニ)号方法は、前述のとおり、握持柄部分の基端面のいずれか一端を他端より幅広い形状に打抜いているところ、これはその後の接合工程で形成する膨出部分を残存させ、右部分をストツパー部分とする工程と技術的関連性があることが、前認定事実より明らかである。一方、前認定事実によれば、本件特許発明の握持柄形成においては、その基端面の形状を後のストツパー形成との関連で特定の形状に形成しようという技術的思想を有していないことが認められる(このことは、本件特許発明において膨出部を残すのは握持柄両端部のいずれか一方、すなわち任意選択であることからも裏付けることができる)。そして、本件全証拠によつても、(ニ)号方法のように握持柄の形状を形成することが慣用の事実であることを認めることはできないから、控訴人(上告人)ら主張のように、右の差異を製法上の微差に留まる、ということはできない。

五 然しながら、右判断は本件特許発明の技術的範囲を誤つて解釈するものである。

即ち

1 従来の握鋏の製造方法と本件特許発明の握鋏の製造方法(技術的思想)との差異。

原判決は、前記のように、本件特許発明と(ニ)号方法との差異の最重要要件として、「(ニ)号方法には接合段階の前にストツパー部分の形成段階が独立に存在し、そのストツパー部分は、握持柄素材の左右基端面のいずれか片側を少し広くして打抜加工して形成する」と要旨そのように判示する。しかしながら、右判示の要件((ニ)号方法)と判断した部分は本件特許発明の技術的思想に包含されているものであつて、原判決はその判断を誤つているものである。その為にはまず本件特許発明の技術的思想を、右原判決の判示事項に関する部分に限定して述べてみることとする。

(一) 従来の握鋏の製造方法(検甲9~12)

(1) 握鋏全体の形成方法

従来は、握鋏の握持柄部分の素材を適宜の長さに裁断し、その端面に、別個に製作されている刃部分の素材の基端面を溶接(主としてガス)によつて接合し、そのようにして一応の形成がなされた鋏全体、主として接合部分と握持柄部分を鍛造によつて一定の規格まで、形状・寸法を形成・加工(接合時より長くなる)して製作していた(バネ面の形成に関する部分は省略する)。

以上を要するに従来の方法は、一応形成された握鋏を鍛造の方法によつて予定された規格に合致するように形状・寸法を作出していた。

(2) ストツパーの形成方法

ストツパーの部分は、右握持柄素材と刃素材とを溶接によつて接合する際できる溶接媒体(溶接棒等)によつてできる金属の盛りあがり部分を、右一応の形成がなされた鋏全体を一定の規格に形成するための鍛造工程の中で同時に作成していたのである。

(二) 本件特許発明の握鋏の製造方法(技術的思想――検甲13~17)

(1) 握鋏全体の形成方法

本件特許発明の握鋏の製造方法は、握鋏の握持柄素材を、一定の規格の形状と寸法のもとに打抜加工で形成し、その左右両側端面に、別個に、一定の規格・形状・寸法のもとに打抜加工で形成した刃素材の基端面の各上縁を一致させて接触するとともに加熱して握持柄素材の左右両側部分の表裏が膨出するように圧接することによつて鋏を製作する方法である。

以上を要するに本件特許発明の方法は、予め予定された規格に合致するように、握持柄および刃部分の素材を打抜・加工し、両素材を結合することによつて鍛造の方法によることなく、直ちに予定の規格に合致する形状・寸法を得ることにある。(バネ面の形成に関する部分は省略する)

(2) ストツパーの形成方法

ストツパー部分は、右握持柄素材と刃素材とを接合させる際に圧接によつて握持柄素材の左右両端が膨出するようにして形成する。

(三) 本件特許発明の握鋏の製造方法と従来のそれとの技術的思想の差異。

(1) 握鋏の形状・寸法の規格化。

イ 従来の方法によると握持柄素材と刃素材とを一応接合させて、その後において鍛造によつて一定規格の形状・寸法に形成していた。従つて、その形成・加工には熟練を要し、何人でも容易に形成・加工するということが出来ないばかりでなく製品にもムラが生ずるという欠点があつた。

ロ 本件特許発明の方法によると、握鋏柄素材および刃素材を当初から一定の形状・寸法のもとに打抜加工によつて作出し、そのような一定の形状・寸法を有する握持柄素材と刃素材を単に圧接することによつて一体化することによつて握鋏を製造するものであるから、両素材が結合した時に同時に一定規格の形状と寸法が得られる。この方法によると両素材を結合した後、鍛造によつて一定規格の形状と寸法を得る方法に比べ、熟練を要しないし、出来上つた製品のムラもなくなるのである(ちなみに本件特許方法ではバネ面形成についても鍛造工程を要しない)、

(2) ストツパー部分の作成

イ 従来の方法によると握持柄素材と刃素材とを溶接によつて結合させる際に、溶接媒体(溶接棒等)によつて作られる盛り上りの部分を、前記鍛造工程のなかで段差(ストツパー部分)ができるように鍛造して作成していた。

ロ 本件特許発明の方法は前記のように握持柄素材と刃素材を結合した後に鍛造によつて形成するのでなく、両素材の結合時にストツパー部分となる段差を形成させようとするものである。

右方法によると、両素材の結合段階でストツパー部分の基礎部分は同時に作出されるので、従来の鍛造方法によつて作られるのと異なり、工程も省略され、形状・寸法にもむらを生ぜず、又熟練をも要しないのである。右方法の特徴はストツパー部分となる段差を、両素材の結合時に同時に形成してしまおうという技術的思想であるから、握持柄部分の膨出をもたらす方法は全て包含されるものである。

すなわち、結合前に握持柄素材の方を刃素材より厚く製作しておく(現実には殆んどこの方法によつている)方法や結合時に握持柄部分に若干のバリを残存させるなどの方法などが考えられる。

ハ 本件特許発明の明細書中の「膨出」なる用語は、特許請求範囲記載の「……底面が下方へ凹弧状に膨出した……握持柄素材」の様に、「ふくらみ」または「出つぼり」の意味に使用されている。又クレーン中、膨出の作成方法については何ら限定していない。後に述べる様に原判決は「膨出」を「バリ」のみを意味するものと誤解したため、誤つた認定判断に至つたものである。

2 (ニ)号方法と本件特許権の侵害

(ニ)号方法は、本件特許発明の方法の技術的範囲と同一ないし製法上の微差もしくは均等の範囲内に止まり、本件特許権を侵害するものである。

(一) 原判決が判示する本件特許発明と(ニ)号方法との差異(前記第一の三項記載)。

(1) 原判決判示の第一点は、

「製造工程に関し、本件特許発明においてはストツパー部分の形成が接合工程に包含されているのに対し、(ニ)号方法においては接合段階の前にストツパー部分の形成段階が独立に存在する、」である。

イ しかしながら、本件特許発明の技術的思想は前記のようにストツパー部分となる段差の形成を両素材の結合ののち、鍛造などの方法によつて形成するのではなく両素材の結合時同時に形成させることにあるのであつて、判示、(ニ)号方法にいうストツパー部分作成は、両素材結合時においてストツパー部分となる段差を作出するための単なる準備であつて、前記のように予め握持柄部分を厚く、刃部分を薄く作成しておくのと何ら異なるところないものであるから、本件特許発明の技術的思想に牴触するものである。

ロ 又右判示方法で直線の段差形状のストツパー部分の段差が出来るか否かは経験則上極めて疑問であり、かつ理由が不備である。すなわち、単なる上下よりの押圧ではストツパー部分となる段差の形状はいびつな形状となる筈である。

ちなみに(ニ)号方法では判示方法によることなく刃素材と握持柄素材との厚さの差によつてストツパー部分を作出している。 即ち、甲6号証、甲35号証の2に明らかなごとく握持柄素材は厚さ三・二mmないし三・六mmの鉄板であり、刃素材は厚さ二・八mm(現実には打抜部分は二・五mm)であつて、(ニ)号方法はこの方法によつて段差を作出していることが明らかである。更に、被上告人は後記(5)で述べるように「厚い素材のときは全部のバリ(判示(ニ)号方法は「全部の膨出」と書替えているが、この点については後記のとおり)を落す」((ニ)号方法2(3))と主張し、自ら両素材厚さの差の必要性がストツパーの形成に必要不可決であることを自認している。

(2) 原判決判示の第二点は、

「握持柄形成について、本件特許発明は何らの限定を加えていないのに対し、(ニ)号方法は左右基端面のいずれか片側を少し広くして打抜加工している(この部分は次に常温下で上下より押圧して扁平なストツパー部分になる)、」である。

しかしながら、この点についての本件特許の技術的思想は、鋏全体の形状・寸法を一定の規格にするために、握持柄部分と刃部分の素材を、一定の規格の形状と寸法のもとに打抜加工をなすということにあるのであつて、(ニ)号方法はまさに右目的のもとに打抜加工をなしているのであつて本件特許発明の技術的思想に牴触することは明白である。又(ニ)号方法が左右基端面のいずれか片側を少し広くして打抜加工しているという点は、本件特許が握持柄素材の形成のための打抜加工に限定を加えていないのみならず、(ニ)号方法は前記のようにストツパー作成の準備のためであるから、いずれの点においても本件特許発明の技術的思想に牴触する。ストツパーが判示方法で作成できないことは前記(1)ロ、で述べたとおりである。

(3) 原判決判示の第三点は、

「刃版形成について、本件特許発明は基端面の幅が握持柄の側端面の幅より長くするよう限定しているのに対し、(ニ)号方法はこれについて特段触れていない、」である。

この点は原判決も本件特許発明の技術的思想に抵触することを認めている。

(4) 原判決判示第四点は、

「握持柄と刃版の接合について、本件特許発明は加熱下における圧接としているのに対し、(ニ)号方法は溶接としている、」

である。

しかしながら、「溶接」というも「圧接」の一方法であり握持柄素材と刃素材とを結合させる方法であつて、特にこの点において著しい差異はない。

(5) 原判決判示第五点は、

「膨出の研削除去について、本件特許発明は表面一個又はこれと対角する裏面の一個を加えて残すとしているのに対し、(ニ)号方法はストツパーのある方の裏側の膨出を残す、又はこれと対角する裏面の一個を加えて残す、なお、厚い素材のときは全部落すとしている、」である。

原判決判示の趣旨が判然としない。

すなわち、「(ニ)号方法はストツパーのある方の裏側の膨出を残す」とあるが、「膨出」とはストツパーを作成するための素材のふくらみ部分又は素材と素材との段差のことであつて、それがまさしくストツパー部分の基盤である。従つて、膨出によつてストツパーは作られるのであるから、ストツパーのある方の裏面の膨出という観念は発生しない。又ストツパーが作成された残余の膨出は不要であつて残すことはない。

原判決は前記のように「膨出」を「バリ」(溶解部分のはみ出た部分)そのもののみと誤解している。右は被上告人主張の(ニ)号方法2、(3)の「全部のバリ」を「全部の膨出」(前記第一、二、5)と誤判していることからも明らかである。

(6) 原判決判示第六点は、

「握持柄の第一次加工について、本件特許発明は中央部を表裏両面方向にのみ膨張させるのに対し、(ニ)号方法は残した膨出部分を含め握持柄全体を押圧する、」

である。

この差異は本件特許発明の技術的思想と(ニ)号方法との技術的思想との差異という程のものではない。すなわち、この握持柄部分の押圧は弾性力を発生させるためであつて、本件特許発明においても同様である。

第二 原判決は、釈明権の不行使の違法がある。

原審の審理は記録上明らかな様に、(ニ)号方法が本件特許発明に抵触する事を前提とするかの様な審理に終始し、原判決判示事項については実質的な審理を尽していない。

原判決の如き判断をなすのであれば、このような長期の審理は全く不必要であつて、訴訟経済にも反し、当事者の裁判所に対する信頼をも著しく毀損し、ひいては裁判制度に不信を戴くものである。

原審において争点および証拠でも一回でも整理しさえすれば以上の如き事態は避けられた筈である。又上告人も更に主張を尽し、裁判所も前述の如き簡単な誤解をすることもなく事案に即した解決が図れたものである。

以上釈明権の不行使の違法は逃れない。

〔編註その二〕 本件における主文は左のとおりである。

原判決中、原判決添付目録(六)記載の方法のうち溶接部にできた膨出部分を一箇所又は二箇所残し(二箇所を残すときは対角する裏面に残す。)、他の溶接部は膨出部分を落とす(通常は一箇所残し、ストツパーのない方は裏表とも膨出部分を落とし、ストツパーのある方は表側の膨出部分を落とす。)場合に関する上告人らの主位的請求及び予備的請求を棄却した部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

上告人らのその余の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。

(裁判官 木戸口 裁判官 伊藤 裁判官 安岡 裁判官 長島)

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