最高裁判所第三小法廷 昭和59年(オ)923号 判決 1987年4月07日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡田俊男、同関元隆の上告理由第一の一ないし八について
詐害行為取消権の制度は、詐害行為により逸失した財産を取り戻して債務者の一般財産を原状に回復させることを目的とするものであるから、逸失した財産自体の回復が可能である場合には、できるだけこれを認めるべきである(大審院昭和九年(オ)第一一七六号同年一一月三〇日判決・民集一三巻二三号二一九一頁参照)。したがつて、抵当権の付着する土地についてされた贈与が詐害行為に該当する場合において、受贈者が当該抵当権者以外の者であり、右土地の価額から抵当権の被担保債権額を控除した額が詐害行為取消権の基礎となつている債権の額を下回つているときは、右贈与の全部を取り消して土地自体の回復を認めるべきであるが(最高裁昭和五三年(オ)第八〇九号同五四年一月二五日第一小法廷判決・民集三三巻一号一二頁参照)、抵当権の付着する二筆以上の土地について右のような贈与がされた場合において、右土地の総価額から抵当権の被担保債権額を控除した額が詐害行為取消権の基礎となつている債権の額を上回つているときは、特段の事情のない限り、右控除後の残額に被担保債権額を加算した額に近くこれを下回らない価額の土地についての贈与を取り消して土地自体の回復を認めるのが相当である。
これを本件についてみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいては、訴外浜田矢六(以下「矢六」という。)が昭和五〇年七月三一日被上告人に対し原判決別紙目録(一)の1ないし10の各土地についてした贈与のうち、6及び8の各土地についての贈与を取り消して土地自体の回復を肯認した原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第一の九について
原判決が本件詐害行為取消権の基礎となる上告人の矢六に対する債権として所論金額の債権を認定していることは、その判文に照らして明らかである。論旨は、原判決の明白な誤記をとらえてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
同第二について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の矢六に対する債権の保全に必要な限度において本件詐害行為取消権の成立を肯認した原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の認定にそわない事実に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
(裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 長島 敦 裁判官 坂上寿夫)