最高裁判所第三小法廷 昭和60年(オ)1076号 判決 1986年1月21日
上告人 長江義久
被上告人 長江操
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、その過程に所論の違法はない。右の事実関係のもとにおいて、上告人と被上告人との間に出生した良の親権者を被上告人と定めるのが相当であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
なお、本件上告の申立は、記録によれば、離婚請求を認容すべきものとした原判決に対しその附帯処分の一つである親権者指定に関する部分に限定してされたものであるが、このような上告の申立も、これを不適法として許されないものとすべき実質的、合理的な理由はないから、適法なものというべきである。
よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 長島敦)
上告人の上告理由
(法令違背)
一 原判決は、上告人、被上告人間の長男良の親権者を被上告人とした一審判決を支持して控訴を棄却した。しかし、これは、親権者の指定に関する法令の解釈、適用を誤ったものである。
二 民法819条には、裁判上の離婚の場合いかなる基準によって親権者を定めるべきかについては定めはない。しかし、子の福祉を最大限尊重するという観点から親権者を定めるべきだという解釈については異論をはさむ余地はない。
三 原判決は、上告人、被上告人双方の事情を検討したうえで、親権者を被上告人と指定したが、子の福祉という点からみて全く不当な指定という他はない。上告人、被上告人双方とも、昼間は双方の母親が良の面倒を見ることが可能である。昼間の養育条件という点では双方差異はない。経済的条件では明らかに上告人の方が優っている。加えて本件においては、良が長期間にわたって上告人の下で健全に養育されているという事実が最も重要である。安定している良の養育環境を急変させることは、良に悪影響を及ぼすことは明らかである。上告人が親権者に指定されることこそ良にとって最も幸福をもたらすものである。
一般論としては、幼児には母親が必要だといえても、本件のように長期間、父親の下で子が養育されている事案については、現状維持という点が重視されるべきである。又、被上告人には母親としての自然な情愛が認められないのであって、この点においても親権者として適当ではない。被上告人は、2年以上にわたって良と面会すらしていない。この点につき、被上告人は、不安定な状態のまま子供の奪い合いをすることの子供に対する影響を考えたからだと弁解しているが、被上告人には母親としての愛情が欠落していることは誰の目にも明らかである。上告人の下で今後も養育されることこそ、良の幸福なのである。
四 以上の次第で、上告人こそ良の親権者に指定されるべきである。
しかるに原判決は、親権者の指定に関する法令の解釈、適用を誤った結果、控訴を棄却したもので、破棄を免れない。