最高裁判所第三小法廷 昭和60年(オ)122号 判決 1988年1月26日
上告人
永野恵章
右訴訟代理人弁護士
大蔵敏彦
被上告人
広原昌一
右訴訟代理人弁護士
奥野兼宏
河村正史
小倉博
主文
原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
右部分につき、被上告人の本件控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人大蔵敏彦の上告理由第三点について
一原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 本件土地は、もと技研工業株式会社の所有であつたが、同社が破産したため破産管財人の管理に属していたところ、上告人は、昭和四八年八月ころ破産管財人から右土地の処分を委ねられていた小柳理八を通じてこれを一億〇五〇〇万円で買い受けた。
2 小柳は、上告人の承諾のもとに、同年九月二九日山本建設工業株式会社(以下「訴外会社」という。)との間で、代金を一億〇五〇〇万円とするが、坪当りの価格を五七一三円とし、後日実測のうえ精算するとの約定で本件土地につき売買契約を締結し、訴外会社は同日手付金として金額九〇〇〇万円の小切手を小柳に交付し、小柳はこれを上告人に交付した。
3 小柳が自己の名で右売買契約をしたのは、本件土地に小柳を権利者とする所有権移転仮登記がされており、小柳において破産管財人との関係を慮つて、そのようにすることを主張したためである。
4 上告人は、翌三〇日小柳が訴外会社に働きかけて本件土地の実測面積を実際よりも少なくし、その分の代金相当額を両者で折半しようとしているとの情報を得たので、小柳との間で本件土地の所有者が上告人である旨の覚書を取り交わすとともに、小柳をして訴外会社からの残代金受領のための委任状を差し入れさせたうえ、同年一〇月二六日訴外会社に対し、本件土地の所有者は上告人であるから残代金を上告人に支払つて欲しい旨並びに所有者が上告人であることの証拠として右の覚書及び委任状の写を別便で送る旨を通知した。
5 訴外会社は、売買の際小柳から、測量士を知らないので訴外会社が知つていれば頼んで欲しい旨の申出を受け、小柳の承諾のもとに、自らの名義で土地家屋調査士である被上告人に対して本件土地の測量を依頼した。
6 現地での測量は同年一〇月中旬に行われたが、現地に行つたのは小柳及び訴外会社の代表者である山本昭だけであつたので、被上告人は、隣接地所有者の立会を求めて境界を確認してからでなければ測量できないと言つて断つたが、小柳から「測量図は取引の資料にするにすぎないので、取りあえず指示する測点に従つて測量し、その中に食い込む形になる守屋某所有の土地についてはその公簿面積を差し引くという方法で本件土地の面積を算出して欲しい。隣接地との境界は後日確定する。」といわれたので、小柳の指示どおりに測量して、本件土地の面積を一万五一九一坪と算出し、同月二五日ころ訴外会社に測量図及び面積計算書を交付した。
7 上告人は、訴外会社を通じて右測量図を入手したが、いくつかの疑問点があり、改めて独自に専門業者に依頼して測量してもらつたところ、被上告人の測量結果よりも約七二〇坪多かつたため、昭和四九年三、四月ころ訴外会社の事務所に上告人、被上告人、山本昭ら関係者が参集した席上、右測量を担当した業者をして被上告人の採つた測量方法が当を得ていないことを説明させ、被上告人もその測量が前記の方法によつたものであることを認めたので、訴外会社に対し上告人の依頼した専門業者の測量結果に基づいて残代金の精算をするよう要求したが、訴外会社は被上告人の測量結果を盾にとつてこれに応じようとしなかつた。
8 そこで、上告人は、昭和五〇年四月二一日付内容証明郵便で、被上告人に測量を依頼したのは上告人であることを前提として、その測量結果に誤りがあつたため損害を被つたことを理由に五〇〇万円の支払を請求したが、被上告人は、測量は訴外会社の依頼に基づき小柳の指示に従つて実施したもので、上告人との間には直接のかかわりがないことを理由に右請求を拒絶した。
9 なお、小柳と訴外会社との間では、同年六月一〇日ころ両者が改めて依頼した別の業者による測量結果に基づき、上告人には内密にして残代金を精算した。
10 上告人は、被上告人が上告人の依頼に基づき本件土地の測量図を作成した際過小に測量したため、実際の面積より不足する分の土地代金五四四万五〇〇〇円をもらえず同額の損害を被つたとして、被上告人に対して損害賠償を求める前訴を提起したが、被上告人に測量を依頼したのは訴外会社であつて上告人ではないことを理由として、昭和五五年七月一八日上告人敗訴の第一審判決が言い渡され、右判決は昭和五七年九月一四日上告人の控訴取下により確定した。
11 上告人は、前訴の提起当時、訴外会社に対する本件土地の売主は小柳ではなく上告人であり、被上告人に対する測量の依頼も訴外会社を通じて上告人がしたものであると思つていたが、これは上告人が本件土地の実質上の所有者であつたためである。
12 被上告人は、前訴の追行を弁護士に委任し、その報酬等として八〇万円を支払つた。
二原審は、右事実関係のもとにおいて、被上告人の実施した測量結果により算出された本件土地の面積が実際のそれより少なかつたからといつて、上告人が被上告人に対し、委任、請負等の契約上の責任はもとより、不法行為上の責任も問いえないことは明らかであり、上告人が前訴において敗訴したことは当然のことであるとしたうえ、前訴の提起に先立ち、まず、被上告人に対し測量図等が何人のどのような指示に基づいて作成されたかについて事実の確認をすることが通常人の採るべき常識に即した措置というべきところ、上告人が右のような措置を採つていれば、容易に測量図等が作成されるまでの経過事実を把握することができ、被上告人に対して損害賠償を請求することが本来筋違いであることを知りえたものというべきであるのに、上告人は右の確認をすることなくいきなり前訴を提起したのであるから、前訴の提起は被上告人に対する不法行為になるとし、上告人は被上告人に対し、被上告人が前訴の追行を委任した弁護士に支払つた報酬等相当の八〇万円を損害賠償として支払う義務がある旨判示している。
三しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。
以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。
これを本件についてみるに、原審の確定した事実関係は前記のとおりであり、上告人は、被上告人が上告人の依頼に基づき本件土地の測量図を作成した際過小に測量したため、実際の面積より不足する分について土地代金をもらえず損害を被つたと主張し、被上告人に対して損害賠償を求める前訴を提起し、被上告人に実際に測量を依頼したのは訴外会社であつて上告人ではないことを理由とする敗訴判決を受けたが、前訴提起の当時、訴外会社に本件土地を売り渡したのは上告人で、被上告人に対する測量の依頼も訴外会社を通じて上告人がしたことであつて、被上告人の誤つた測量により損害を被つたと考えていたところ、本件土地が上告人の買い受けたもので、小柳は、破産管財人との関係を慮り、上告人の承諾を得たうえ自己の名でこれを訴外会社に売り渡す契約をしたのであり、しかも、右契約は精算のため後日測量することを前提としていたのであるから、実質上、小柳が上告人の代理人として売買契約及び測量依頼をしたものと考える余地もないではないこと、上告人が、小柳において訴外会社に働きかけて本件土地の面積を実際の面積よりも少なくし、その分の代金相当額を訴外会社と折半しようとしているとの情報を得て、訴外会社に対し、本件土地の所有者は上告人であるから残代金を支払つて欲しい旨の通知をしていたのに、訴外会社が被上告人の測量結果を盾にとつて精算に応じようとしなかつたことなどの事情を考慮すると、上告人が被上告人に対して損害賠償請求権を有しないことを知つていたということはできないのみならず、いまだ通常人であれば容易にそのことを知りえたともいえないので、被上告人に対して測量図等が何人のどのような依頼や指示に基づいて作成されたかという点につき更に事実を確認しなかつたからといつて、上告人のした前訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず、したがつて、被上告人に対する違法な行為であるとはいえないから、被上告人に対する不法行為になるものではないというべきである。そうすると、原審の前記判断には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記の事実関係及び右に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は理由がないから、これを棄却した第一審判決は相当であり、被上告人の本件控訴は理由がないので棄却すべきである。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官長島敦 裁判官伊藤正己 裁判官安岡満彦 裁判官坂上壽夫)
上告代理人大蔵敏彦の上告理由
第一点<省略>
第二点<省略>
第三点
一、原判決は、被上告人の本件測量について、「小柳理八の指示するところに従いその測量結果が山本建設と小柳間の売買の資料に供されるにすぎないとの認識のもとに、本件土地の測量を実施したのであ」ると判示する(原判決七枚目裏)。
二、しかし、被上告人の第一審証言によれば、「本件土地の測量の目的は、売買代金の清算のためということはわかつていました」(二三項)というのであつて、原判決のいうように、単に「売買の資料に供されるすぎない」という程度の認識でなかつたことも明らかである。
三、被上告人の測量方法は官民境界も、隣地との境界も確定せず、また隣地周辺部を併せ測量し、それを公簿面で差引くという方法をとつており、それが小柳らの指示によるとしても、この方法は売買目的物の面積の実際を測量して算出するものとは到底いえないものである。
しかも、被上告人は測量士・土地家屋調査士という資格を有するが故に、本件測量の依頼を受けたのである。そして、同人が作成した乙第五号証の図面には「実測求積平面図」と表示してあつて、右のような到底実測といえない方法で測量した旨の記載は全くない。
四、これは、本件土地の実質上の所有者であつた上告人にとつては見逃すことのできない不利益であり、これによつて損害を蒙るのは上告人のみであることも自明のことである。
現に、山本建設が上告人に手交した乙第四号証により、実測費用として金八三二、〇〇〇円が差引かれているが、被上告人は山本建設より受領したのは約七〇万前後と述べている(同人の第一審調書二三項以下)。
そして、被上告人の右の方法により算出した坪数で売買代金を算出して、手付金として支払つた九〇〇〇万円では三、二四六、三一〇円の過払いがあると乙第四号証で山本建設は被上告人に通告しているのである。
五、さらに、上告人は東日測量に改めて測量させた結果にもとづき、昭和四九年三月、四月ころ、山本建設の事務所に山本昭、被上告人、上告人、東日測量ら関係者が参集した席上、上告人は被上告人の測量方法の不備を指摘したところ、同人はそれを認めたので、山本建設に対し、東日測量により残代金の支払を求めたが、山本建設は被上告人の測量結果を盾にこれに応じようとしなかつたことは原判決認定のとおりである(原判決六枚目裏)。
六、山本建設の代表者山本昭は、被上告人の義兄(妻の兄)であり、二〇数年にわたり親戚づきあいをしており、被上告人は山本建設からしばしば測量を依頼されている(同人の第一審調書二一項)。
山本建設は、かゝる関係にある被上告人に本件土地の測量を依頼し、上告人が実質上の所有者であることを知りながら、測量する日時も知らせず、上告人に測量の立会の機会を与えず、しかし測量費を水増しして、実際に被上告人に支払つた金額より多額に上告人に請求するという不誠実な行為をなしている。
しかも、山本建設は上告人が被上告人に対し昭和五〇年四月二一日付内容証明郵便で過少測量を理由に損害賠償を請求したところ、上告人には全く内密に小柳と意を通じ、田村測量士に本件土地を測量させ、それにもとづき本件土地の残代金を支払つていることも原判決の認定したとおりである。
これは、山本建設や小柳が、被上告人のなした測量が過少測量であることを十分認識していたことを示すもので、被上告人は測量士・土地家屋調査士でありながら、かゝる不明朗な取引きに手を貸したものといわざるをえない。
七、さて、原判決は上告人が前訴提起に先立ち、
(1) まず、被上告人に対し測量図面等が何人の、どのような依頼や指示に基づいて作成されたかについて事実の確認をすることが通常人の採るべき常識に則した措置というべきであり、
(2) そのような措置を採つていれば、上告人は容易に先に認定した測量図面等が作成されるまでの経過事実を把握することができ、
(3) したがつて、被上告人に対し本件土地の測量につき損害賠償の請求をすることは、本来筋違いであることを知り得たものというべきである。
(4) 上告人は、前訴の提起当時、前述した事実確認の措置を怠らなければ被上告人に対する請求が理由がないことを知り得たものであるから、上告人による前訴の提起は被上告人に対する不法行為を構成する。
というのである。
八、上告人は原判決の右判示には全く承服できない。
上告人は被上告人作成の乙第五号証の「実測求積図」、乙第六号証の計算書を入手し、かつ山本建設より乙第四号証の精算書を渡され、山本建設が乙第五・六号証にもとづき売買代金の精算をなす旨通告され、乙第五・六号証を検討してもらつた結果、種々の疑点が出たので東日測量に改めて測量を依頼し、その結果、被上告人の本件測量が実測とはいえないものであり、過少測量であることが判明した。
そのため、昭和四九年三、四月ころ、山本建設の山本昭、上告人、被上告人、東日測量ら関係者が参集したのである。原判決は「右測量を担当した業者をして上告人の採つた測量方法が当を得ていないことを説明させ、また被上告人も同人の測量は前記の方法によつたものであることを認めた」と原判決は認定している(六枚目表から裏にかけて)。
原判決のいう被上告人の測量は「前記の方法によつたものであることを認めた」というのは、主として原判決理由一4に判示してある事実を指すのであろう。
とすれば、上告人は被上告人のなした本件測量が、「何人のどのような依頼や指示に基づいて作成されたか」については被上告人の説明により知り得たのである。
にもかゝわらず、原判決は、さらに前訴提起前、上告人にこの点を更にいかなる方法で誰から事実の確認をしなければならないというのであろうか。
全く理解に苦しむところであつて、承服のできないところである。
九、さらに、原判決はこのような措置をとつていれば、被上告人に対し、本件土地の測量につき損害賠償を請求するのが本来筋違いであることを知り得たものというべきであるといつている。
しかし、原判決も認定しているとおり、上告人は「前訴提起当時、山本建設との本件土地の売買における売主は小柳ではなく、上告人であり、被上告人に対する本件土地の測量の依頼も山本建設を通じて上告人がしたものであるとの認識を持つていた」のである(原判決八枚目表)。
実際に上告人は小柳に対し、一億五〇〇万円を支払つて本件土地を買い受けており、小柳からは白紙委任状、印鑑証明書、登記済証、覚書、代金受領の委任状の交付を受けており、かつこれらを買主山本建設に示しているのである。
そして、契約時にも立会い、山本建設が支払つた九〇〇〇万円も上告人が受領しているのであるから、上告人が売主と認識するのも当然で、上告人がこのように認識することに何等の過失もない。
また、被上告人に対する測量依頼も、測量費を上告人が負担することを約しており、また、その測量により売買代金が最終的に確定するのであるから、被上告人に対する測量依頼は山本建設を通じて上告人もなしたものと上告人が認識することも当然である。
一〇、そうであれば、上告人にとつて、上告人ではなく山本昭に本件測量の依頼を受けたという被上告人の主張をにわかに是認することはできないのは当然である。
また、被上告人の測量方法が小柳や山本の指示によりなされた旨の主張も、測量士であり土地家屋調査士の資格を有する者として、このような測量をすること自体看過できないし、まして、被上告人の作成した乙第五号証には実測求積図と表示しており、あたかも実際の面積を実測したかの如き図面が作成されており、それによつて、上告人は残代金の支払を受けられず、損害を蒙つているとみられる以上、前訴が「本来筋違い」だと上告人が知り得たという原判決の判示は到底承服できないものである。
一一、裁判を受ける権利は憲法上保障された国民の人権である。
したがつて、訴訟の提起自体が不法行為を構成すると断定するには慎重でなければならない。
訴提起にあたり、上告人において請求に理由がないことを明らかに知りながらあえて訴を提起したとか、請求に理由のないことを容易に知ることができる立場にありながら、それをせずして訴を提起した場合においてのみ不法行為の成否が問題になるであろう。
単に敗訴したからといつて、たゞちにその訴の提起が不法行為になるわけはないのである。
本件において上告人の前訴提起行為にかゝる点が皆無であることは右に述べたとおりである。上告人としては本件土地の売主として山本建設からの代金支払の確保のため、小柳に対しても万全の措置をとり、山本建設と交渉してきた。被上告人が測量士であり、土地家屋調査士であるということを信頼していたのにかゝわらず、被上告人の測量は実測といえないものであることを被上告人自身の口から上告人は聞いてもいる。たゞ被上告人は測量は上告人に依頼されていないというのであるが、上告人としては、実測費用も負担しており、その測量結果により代金の増減という深刻な利害関係のある立場である。
上告人が山本建設を通じ、本件測量を被上告人に依頼したと主張することに上告人の故意も過失もない。上告人が被上告人に測量を依頼したということになれば、被上告人のなした測量方法は、上告人に対し職務上の義務違反となるものである。このように依頼の有無をめぐり紛争が起き、上告人の前訴の提起となつたもので、上告人の前訴提起自体が不法行為を構成することにはならないものである。
原判決は民法七〇九条の解釈適用を誤つたものであり、破棄さるべきものである。