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最高裁判所第三小法廷 昭和60年(秩ち)1号 決定 1985年11月12日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意のうち、憲法三一条、三二条、三三条、三四条、三七条三項、八二条の各違反をいう点は、法廷等の秩序維持に関する法律及び同法に基づく本件の監置決定が憲法の右各条項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二八年(秩ち)第一号同三三年一〇月一五日大法廷決定・刑集一二巻一四号三二九一頁)の趣旨に徴して明らかであるから、所論は理由がなく、その余は、判例違反をいう点を含め、その実質は、本件の監置決定の違法をいう単なる法令違反の主張であって、法廷等の秩序維持に関する法律六条一項の適法な抗告理由に当たらない。

よって、同法九条、法廷等の秩序維持に関する規則一九条、一八条一項により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官伊藤正己の補足意見は次のとおりである。

本法による制裁は、裁判所又は裁判官が法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際して、その面前その他直接知ることのできる場所で行われた言動に対して、裁判所又は裁判官自体によって科されるものであるから、その制裁を科する手続は通常の刑事裁判の手続に比して簡易なるものではあるが、それによって憲法の保障する人権を侵害するおそれがないと考えられる。したがって、本法の定める制裁に関する規定は所論指摘の憲法の諸条項に違反するものではない。しかし、本法による制裁も一種の処罰であることに変りがないのであるから、その制裁の手続が憲法三一条以下の刑事裁判に関する憲法上の保障の埓外にあると解すべきではない。法廷意見においてその趣旨を引用されている前記大法廷決定が「この場合……刑事裁判に関し憲法の要求する諸手続の範囲外にある」といっているのも、本法の制裁手続においては刑事裁判に関して憲法の保障している諸手続はそのままの形では適用されないという趣旨を簡潔に表現しているにすぎないと理解すべきものである(最高裁昭和三五年(秩ち)第三号同年九月二一日第一小法廷決定・刑集一四巻一一号一四九八頁は、これを「刑事裁判に関し憲法の要求する諸手続の適用が排除されるもの」という趣旨に解するが、この判示はその措辞がやや適切を欠くように思われる。)。

右のように考えると、本法による制裁手続についても憲法適合性が問われることがありうるのであり、その運用いかんによっては違憲の問題を生ずる余地がないわけではないので、この点を法廷意見に補足しておきたい。なお、このような私の見解に立っても、原審の確定した本件事実関係のもとにおいて、右の違憲の問題の生じないことは明らかである。

(裁判長裁判官 長島 敦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡滿彦)

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