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最高裁判所第三小法廷 昭和61年(あ)1297号 判決 1992年9月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

一  上告趣意に対する判断

1  弁護人日沖憲郎、同横井大三、同佐久間幾雄、同鵜澤秀行、同竹田穣の上告趣意第一点について

(一)  所論のうち、憲法三一条違反をいう点は、所論の指摘する議院における証人尋問の範囲、方法等についてどのように規定するかは本来立法政策の問題であり、これらの点に関する規定を欠いた議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(昭和六三年法律第八九号による改正前のもの、以下「議院証言法」という)に基づいて証人尋問を行っても、直ちに違憲の問題を生ずるものではないから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。

(二)  所論のうち、憲法三八条一項違反をいう点は、議院証言法四条は民訴法二八〇条の規定に該当する場合に証言を拒むことができる旨を規定し、証人自身が刑事上の訴追又は処罰を招くおそれのある事項に関する証言を拒絶する権利を保障しているのであるから、議院証言法に基づく証人尋問が憲法三八条一項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁)の趣旨に照らしても明らかであり、所論は理由がない。

(三)  その余の所論は、違憲をいう点を含め、その実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

2  同第二点について

所論のうち、判例違反をいう点は、原判決は、所論指摘のような事実のみによって本件外国為替及び外国貿易管理法違反の罪について共謀共同正犯としての責任を負うとの判断を示したものではないから、所論は前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも適法な上告理由に当たらない。

二  職権による判断

上告趣意第一点のうち、議院証言法六条一項の偽証罪に関する告発の効力の点につき、所論にかんがみ職権により判断する。

1  記録によれば、全日本空輸株式会社(以下「全日空」という)代表取締役であった被告人は、昭和五一年二月一六日及び同年三月一日、衆議院予算委員会において、全日空における航空機採用の経緯等に関して証人として出頭を求められ、同年六月一八日、同委員会からその証人尋問の際偽証したとして告発されたこと、同委員会の告発状には、右両日にされた、被告人の前任者である大庭哲夫とマクダネル・ダグラス社との間に航空機の発注に関するオプションがあったことは知らなかった旨の陳述(以下「大庭オプション関係の陳述」という)は摘示されているが、右二月一六日にされた、全日空がロッキード・エアクラフト社から正式の契約によらないで現金を受領してこれを簿外資金としたことはない旨の陳述(以下「簿外資金関係の陳述」という)は摘示されていないにもかかわらず、検察官は大庭オプション関係の陳述のほか簿外資金関係の陳述についても公訴を提起したこと、第一審判決は本件告発の効力は簿外資金関係の陳述についても及ぶものとし、原判決もこれを是認したこと、が認められる。

2  所論は、本件偽証罪に関する公訴提起の範囲は告発者の明示の意思に従うのが相当であるところ、本件簿外資金関係の陳述部分については、意識して告発状の記載から除外されたものとみるべきであるから、前記委員会の告発がなく、訴訟条件を欠くものとして公訴を棄却すべきであるのに、これを否定した原判決の見解は、刑訴法上の原則にすぎないいわゆる告発不可分の原則を議院証言法に基づく議院等の告発についてまで適用し、国会の自律権を侵害するものである旨主張する。

3  しかしながら、議院証言法六条一項の偽証罪について同法八条による議院等の告発が訴訟条件とされるのは、議院の自律権能を尊重する趣旨に由来するものであること(最高裁昭和二三年(れ)第一九五一号同二四年六月一日大法廷判決・刑集三巻七号九〇一頁参照)を考慮に入れても、議院等の告発が右偽証罪の訴訟条件とされることから直ちに告発の効力の及ぶ範囲についてまで議院等の意思に委ねるべきものと解さなければならないものではない。議院証言法が偽証罪を規定した趣旨等に照らせば、偽証罪として一罪を構成すべき事実の一部について告発を受けた場合にも、右一罪を構成すべき事実のうちどの範囲の事実について公訴を提起するかは、検察官の合理的裁量に委ねられ、議院等の告発意思は、その裁量権行使に当たって考慮されるべきものである。そして、議院証言法六条一項の偽証罪については、一個の宣誓に基づき同一の証人尋問の手続においてされた数個の陳述は一罪を構成するものと解されるから(大審院大正四年(れ)第二八二八号同年一二月六日判決・刑録二一輯二〇六八頁、大審院昭和一五年(れ)第一二九八号同一六年三月八日判決・刑集二〇巻五号一六九頁参照)、右の数個の陳述の一部分について議院等の告発がされた場合、一罪を構成する他の陳述部分についても当然に告発の効力が及ぶものと解するのが相当である。

したがって、本件告発の効力が大庭オプション関係の陳述のみならず簿外資金関係の陳述についても及ぶとした原判断は、結論において正当である。

よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官貞家克己 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎)

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