最高裁判所第三小法廷 昭和61年(オ)1512号 判決 1990年11月06日
上告人
株式会社富士プロパンガス商会
右代表者代表取締役
伊藤晋
右訴訟代理人弁護士
中村光彦
被上告人
藤田徹也
被上告人
株式会社藤田アーティストハウス
右代表者代表取締役
藤田徹也
右両名訴訟代理人弁護士
吉村浩
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中村光彦の上告理由第一について
所論指摘の事実関係は、第一審第一回口頭弁論期日以降、被上告人らが明確に主張してきたところであって(訴状四枚目、第一審判決三枚目及び関係の口頭弁論調書参照)、論旨は採用の限りでない。
同第六について
原審が適法に確定したところによれば、(一)本件ガス消費設備は、本件建物の外壁に沿って集合装置を取り付け、ここにガスボンベを設置し、ボンベのバルブから本件高圧ゴムホースで導管に、導管でベーパーライザーに、それぞれ接続するという構造のものであって、一体としてその機能を果たすものである、(二)導管は、下端を地中に埋め、上端を本件建物の軒下に固定した鉄製パイプ、本件建物の外壁及び本件建物に隣接する作業場建物の外壁にそれぞれ金具で固定されていた、(三)ベーパーライザーは、本件建物内玄関前に打たれたコンクリート上に置かれ、コンクリート面にビスを埋め込んで固定されていた、(四)本件高圧ゴムホースは、ねじと充てん剤で接続されているもので比較的容易に着脱することができるものではあるが、一年から数年程度の期間にわたり導管との接合を同一にしたまま使用されるものである、というのである。右の事実関係のもとにおいては、本件ガス消費設備はそれ自体一体として民法七一七条一項にいう土地の工作物に当たり、本件高圧ゴムホースはその一部をなすものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
同第二、第七について
本件ガス消費設備は、上告人が所有するもので被上告人会社に無償で貸与していたものであり、専ら上告人がその保守、管理及び操作を行うことが合意され、上告人の従業員はガスボンベ取替えのため定期的に集合装置の設備してある場所に出入りし、被上告人らもこのことをあらかじめ許諾していたとの原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯することができる。原審は、右事実関係のもとにおいて、上告人は、保守、管理及び操作に関しては本件ガス消費設備に対し直接的、具体的な支配を及ぼしていたから、民法七一七条一項に規定する占有者に当たるとしたものであって、右判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
その余の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして正当として是認することができ(ちなみに、上告理由第九にいう藤田についての損害「合計四五〇九万八二九八円」は、被上告人藤田の本訴請求金額であって、原判決による認容金額ではない)、その過程にも所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解若しくは原審の認定しない事実に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官可部恒雄 裁判官坂上壽夫 裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎)
上告代理人中村光彦の上告理由
第一 <省略>
第二 原判決は次の点で民法二四二条に違背し、その違背が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
原判決は、「本件ガス消費設備は被控訴人が所有し、無償で控訴会社の利用に供したものであり」と認定する(一二丁表)。
一方原判決は「本件高圧ゴムホースはガスボンベ据付場所付近(本件建物北東側)で金属製導管に接続されていたが、右導管は、その付近で本件建物外壁及び下端を地中に埋め、上端を右建物軒下に固定した鉄製パイプにそれぞれ金具で固定されていたこと、右導管はそこから東に本件建物東隣りの作業場建物の西側外壁に沿って這い、更に本件建物の内玄関付近で本件建物軒下に戻り、内玄関前に打ったコンクリートの上に置かれたベーパーライザーに接続されていたが、その間本件建物の東側の外壁及び作業場建物の外壁にも金具で固定されていたこと、ベーパーライザーは右コンクリート面にビスを埋めこんで固定されていたことが認められ(……)この認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実及び本件ガス消費設備が一体としてその機能を果たすものであることに照らせば、右設備は一体として民法七一七条にいう土地の工作物たる性質を有するものというべきである。」と判示している(一七丁裏、一八丁表裏)。
右の土地の工作物に関する判示からすれば本件ガス消費設備は一体として、本件建物及び作業場建物に従として附合したものと認められ、本件ガス消費設備は、民法二四二条により本件建物及び作業場建物所有者の所有に帰したものと解しなければならない。
本件ガス消費設備は被上告人らの主張によっても、訴外セントラル瓦斯株式会社が設置したものである。本件ガス消費設備全体を一旦設置された後に、取りはずして他に設備するなどということは実際にできるものでなく、かかる設置変えは予想されないのである。特に集合装置、高圧ゴムホース、導管において設置変えなどということは、全く予想されない。同訴外会社において設置時に本件ガス消費設備を所有する意思のなかったことは明らかである。
第三ないし第五<省略>
第六 原判決は、次の点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
原判決は「ゴムホースが本件ガス消費設備の他の部分と右のように一体的に結合して使用され、右設備がその機能を果たすために不可欠なものであるところからみて、右ゴムホースも土地の工作物の一部分をなすものとみるべきである。」と判示する(一九丁表)。
高圧ゴムホースについて、原判決が「ネジと充填剤とで接続されているものと認められ比較的容易に着脱することができるものと考えられる」と認定しているように容易に着脱できるものである。
高圧ゴムホースはネジによって一旦導管に結合されても、依然高圧ゴムホースとしての独立性を有しており、同ホースは導管とガス容器にネジで結合されている以外どこも他に固定されていない。右のネジを外せば、同ホースは全く独立したものになる。そしてその取り外しは容易である。
かかる独立性を有する動産が脱着可能な状態で導管に結合されただけで、民法七一七条の土地の工作物に該当することになるのであろうか。
土地の工作物であるためには、土地の工作物そのものであるか、土地の工作物に結合され、破壊という手段によらないとその結合を解除できない程度に土地の工作物と一体化していることが必要といわなければならない。
独立性を有する動産で、土地の工作物に付加脱着せしめられる態の物は、いまだ独立物であり、土地の工作物とすることはできない。
右の点で原判決は、民法七一七条の解釈、適用を誤ったものである。
第七 原判決は、次の点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
原判決は「右設備について控訴人の占有を全く否定することはできないにせよ、被控訴人もまた控訴人らとともに自己の所有する右設備に対し直接の支配を及ぼし、これを占有していたものというべきであり、むしろ、右設備の保守、管理、操作に関連する限りでは、控訴人らよりも被控訴人の方がより直接的、具体的な支配を及ぼしていたと認められる」と判示し(二〇丁表)上告人の占有を肯定している。
「右設備について控訴人らの占有を全く否定することはできないにせよ」と原判決はいう。しかし藤田が本件ガス消費設備を占有していたことは疑いない。右設備は窯の設備である。窯は藤田が操作運転していたものであり上告人が操作運転していたのではない。右設備の利用を支配していたのは藤田である。
上告人会社と右設備との関係を具体的にみると、藤田からガスの注文があり、ガスの入った容器を運搬して行き、容器を脱着する際、一時的に設備の一部に支配を及ぼした状態となる。又臭いという連絡があって、上告人会社の者が藤田宅に出向き調査したことがあるが、それはわずかな回数である。右が実体であって、上告人が本ガス消費設備を具体的に占有しているという状態にはなかった。
民法七一七条における占有は、具体的で且つ現実の支配を必要とし、観念上の占有は含まないものと解する。
原判決は右の点で民法七一七条の解釈、適用を誤っている。
第八ないし第一〇<省略>