最高裁判所第三小法廷 昭和62年(し)70号 決定 1988年11月29日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、まず、国選弁護人に支給すべき報酬額の決定に対しては刑事訴訟費用等に関する法律(以下「刑訴費用法」という。)に不服申立の途が設けられていないのであるから、刑訴法上抗告又はこれに代わる異議の申立が許されると解すべきであり、これが許されないと解するときは、憲法一三条、一四条、三一条、三二条、三七条三項、九八条一項の各規定に違反する結果になるというのである。しかしながら、国選弁護人に支給すべき報酬額の決定は、刑訴費用法八条二項の規定に基づく裁判であって、刑訴法上の裁判ではないから、これに対しては刑訴法に準拠する不服申立をすることは許されず、これと同旨の原判断は正当である。また、右裁判の性質にかんがみると、このように解しても、憲法の右各条項に違反するものではなく、このことは、当裁判所大法廷判例(昭和二六年(ク)第一〇九号同三五年七月六日決定・民集一四巻九号一六五七頁、昭和三六年(ク)第四一九号同四〇年六月三〇日決定・民集一九巻四号一〇八九頁、昭和三七年(ク)第二四三号同四〇年六月三〇日決定・民集一九巻四号一一一四頁、昭和三九年(ク)第一一四号同四一年三月二日決定・民集二〇巻三号三六〇頁、昭和三七年(ク)第六四号同四一年一二月二七日決定・民集二〇巻一〇号二二七九頁、昭和四一年(ク)第四〇二号同四五年六月二四日決定・民集二四巻六号六一〇頁、昭和四〇年(ク)第四六四号同四五年一二月一六日決定・民集二四巻一三号二〇九九頁、昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日判決・刑集二巻三号一七五頁、昭和二二年(れ)第一二六号同二三年七月一九日判決・刑集二巻八号九二二頁、昭和二三年(れ)第一六七号同年七月一九日判決・刑集二巻八号九五二頁、昭和二四年新(れ)第二五〇号同二五年六月七日判決・刑集四巻六号九六六頁、昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日判決・民集一八巻四号六七六頁)の趣旨に徴して明らかであり、所論は理由がない(最高裁昭和五八年(行ツ)第二七号同六一年九月八日第二小法廷判決・裁判集民事一四八号四二五頁参照)。
同趣意は、さらに、判例違反をいうが、最高裁昭和五八年(行ツ)第二七号同六一年九月八日第二小法廷判決・裁判集民事一四八号四二五頁を引用して判例違反をいう点は、所論引用の判例は、所論の点に関しなんら法律判断を示しておらず、高松高裁昭和五六年(行コ)第五号同五八年一月一一日判決・訟務月報二九巻八号一五一七頁を引用して判例違反をいう点は、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でないから、いずれも前提を欠き、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。
よって、刑訴法四三四条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。
この決定は、裁判官坂上壽夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
裁判官坂上壽夫の補足意見は、次のとおりである。
所論が特別抗告の理由として採用し難いことは、法廷意見の説示するとおりであるが、なお、事案にかんがみ、私の感ずるところを若干付け加えておきたい。
刑訴法三八条二項は、国選弁護人が報酬を請求できることを定め、その額について、刑訴費用法八条二項は、「裁判所が相当と認めるところによる」としている。この額は、弁護人が被告人の人権を守り社会正義の実現に努める職責を担う法律の専門家であること、当事者主義的色彩の濃い現行刑事裁判制度のもとでその役割が極めて重要であることにかんがみ、これにふさわしい報酬であるべきものと考える。
裁判所としては、予算措置を講じ、刑訴費用法八条二項の運用が不当な事態を招来しないように努めていることは周知のとおりであるが、国選弁護人に支給すべき報酬額の決定については、刑訴法に準拠する不服申立は許されず、刑訴費用法に不服申立の途が設けられていないことにかんがみ、報酬額の個別的決定に当たっては慎重な配慮が望まれるところである。
(裁判長裁判官伊藤正己 裁判官安岡滿彦 裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己)