大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和22(れ)140 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人大貫大八上告趣意書第一点は、原判決ハ其理由中ニ於テ「被告人ハ昭和二

十二年五月三日午前零時頃栃木県塩谷郡a村大字bC番地A方居宅内ニソノ表出入

口カラ侵入シ同家台所ニ置イテアツタ同人所有ノ中古自転車一輛(時価約金千円相

当)ヲ窃取シタルモノテアル」ト犯罪事実ヲ認定シ「以上ノ事実ハ被告人ノ当公廷

ニ於ケルコレト同趣旨ノ供述トAノ提出シタ被害始末書中ノコレニ照応スル被害顛

末ノ記載トヲ綜合シテ之ヲ認メル」ト判示シテ被告人ニ有罪ノ言渡ヲ為シタノデア

リマス然シ原判決ガ右ノ如ク証拠ニ援用シタAノ被害始末書ニヨレバ「……昭和二

十二年五月二日午後十時半頃ヨリ翌三日午前二時頃自宅台所ニ置キタル左記一、中

古自転車二六吋黒塗リ両ブレーキ付壱輛時価壱千円相当ヲ何者ニカ窃取セラレマシ

タノテ……」トアルノミデアツテ即チ自己所有ノ中古自転車ガ盗難ニ遭ツタト言フ

ダケデアリ否モツト正確ニ謂ヘハ該自転車ヲ紛失シタト言フ警察署ニ対スル届出ニ

止マリ該被害始末書ニヨツテハ被告人ガ犯人ナルヤ否ヤ全ク不明デアリマス換言ス

レバ右Aノ被害始末書ハ同人ガ自己所有ノ中古自転車ヲ紛失シタト言フ証拠ニコソ

ナレ被告人ガ該自転車ヲ窃取シタトノ証拠ニハ全クナラナイノデアツテ従ツテ必ズ

シモ被告人ニ不利益ナル証拠トハ言ハレナイノデアリマス

然ラバ原判決ハ被告人ニ不利益ナ被告人ノ自白ノミヲ唯一ノ証拠トシテ犯罪事実

ヲ認定シタコトニナルノデアリマス抑々被告人ノ自白ナルモノハ或ハ権力ニヨツテ

強制サレ余儀ナク述ブルコトアリ或ハ早ク勾留ヲ解カレ度イバカリニ心ニモナイコ

トヲ述ブルコトモアリ必ズシモ信ヲオケイモノデアルガ故ニ新憲法ノ下ニ於テハ被

告人ニ不利益ナ唯一ノ証拠ガ本人ノ自白デアル場合ニハ有罪ニセラレナイ旨ガ保証

サレタモノト思料シマス若シ原判決認定ノ如ク単ニ或人ガ或物ヲ紛失シタト言フ事

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実ダケノ証明デ他ハ其物ヲ盗ンダト言フ本人ノ自白ガアレバ有罪ニ出来ルトスレバ

捜査官ハ単ニ被害届ダケヲ徴シ他ハ専ラ被害届ニ合フ様ナ本人ノ自白ノミヲ強要ス

ルコトニナルノハ必然デアツテコレデハ旧法当時ト何等変リノナイコトニナリ新憲

法ノ精神ハ全ク蹂躪サレ人権ノ保証ハ有名無実ニナルノデアリマス之ヲ要スルニ原

判決ハ憲法ノ精神ニ反シ「日本国憲法施行に伴う刑事訴訟法の応急措置に関する法

律」第十条ニ違背シテ有罪ヲ言渡シタ違法ガアリマスノデ破毀サルベキモノト信ジ

マスと言うのであるが、原判決は、被告人の原審公判廷における自白を唯一の証拠

として、犯罪事実を認定したものではなく、Aの被害届をも傍証として事実を認定

したのであるから、論旨は、当を得ないものである。次に上告趣意書は、Aの被害

届丈けでは、被告人が本件の自転車を窃取したと認定する証拠にはならないもので

あるから原判決は結局被告人の自白のみによつて、犯罪事実を認定した違法のもの

だと主張するけれども、日本国憲法施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法

律第十条第三項に規定してある本人の自白とは、被告人の公判以外の自白を指すの

であつて、被告人の公判廷における自白を含まないものと解すべきであるから論旨

は理由なきものである。

同第二点は、原判決ハ其理由中ニ於テ「被告人ハ……A方居宅内ニソノ表出入口

カラ侵入シ同家台所ニ置イテアツタ同人所有ノ中古自転車一輌(時価約金千円相当)

ヲ窃取シタモノデアル」ト判示シタノミデアツテ窃盗ノ目的ガ極メテ不明確デアリ

マス即チ中古自転車ハ社会ニ無数ニ存在スルモノデアルカラ少クトモ判決理由中ニ

犯罪事実トシテ窃盗ノ目的物ヲ示スタメニハ中古自転車トシテ他ノ中古自転車ト識

別シ得ル程度ニ具体的ニ判示スル必要ガアルト思料シマス原判決ガ証拠トシテ援用

スルAノ被害始末書ニハ「中古自転車二六吋黒塗リ両ブレーキ付」トアルガ同ジク

原判決ガ証拠トシテ援用スル被告人ノ原審公判廷ニ於ケル供述ニヨレバ単ニ自転車

ヲ窃取シタト言フダケデアツテ該自転車ガ果シテ中古ナリシヤモ不明デアツテ況ン

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ヤ二六吋ナリシヤ黒塗ナリシヤ両ブレーキ付ナリシヤ否ヤハ全ク明確デナイノデア

リマス従ツテ之等ノ窃盗ノ目的物ニ付イテハ一見他ノ物ト明確ニ判別シ得ル程度ニ

判決理由中ニ記載スベキニ拘ハラズ前記ノ如ク之ヲ明確ニセザル原判決ハ結局理由

不備ノ違法ガアリ破毀サルベキモノト信ジマスと言うが、原判決は窃盗罪の目的物

表示として、A所有の中古自転車一台と記載して居るので被告人の窃取した他人の

財物が如何なるものであるかを、具体的明確に示されて居ると言うべきであつて、

これ以上自転車の色合とか何吋のものであるとかの点まで示さなくとも、論旨の如

き違法はないものである。以上は裁判官全員一致の意見であるので、刑事訴訟法第

四百四十六条により主文の通り判決する。

検察官橋本乾三関与

昭和二十二年十二月二十三日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎

裁判官 井 上 登

裁判官 庄 野 理 一

裁判官 島 保

裁判官 河 村 又 介

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