大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和22(れ)88 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人吉崎勝雄同後藤英三同堂野達也上告趣意書第一点は原判決は事実認定の証

拠として第四八八丁裏に「一、原審第一回公判調書中被告人Bノ供述トシテ御読聞

ケノ公判請求書記載ノ公訴事実ハ其ノ通リ相違ナイ」との供述を引用し更に第四九

〇丁裏に「公判請求書中公訴事実トシテ(中略)強取シタルモノナル旨ノ記載」を

引用している。之は形式上公判請求書自体を証拠となしたるものに非ざる如くであ

るが被告人が右の公訴事実を其の通り相違ないと認めることは公判の冒頭に於て全

般的に否定するものか肯定するものかを訊問し抽象的に肯定或は否定するもので何

等具体的な意味を持つものではない。従つて単にこの供述のみから公判請求書を証

拠として引用することは実質的には公判請求書自体を証拠としたものと変ることは

ない故に原判決は単に原告官たる検事の意思表示乃至は判断に過ぎざる公判請求書

を証拠としたものであり、従つて証拠とすべからざるものを証拠となした違法があ

ると言うのであるが、原判決が本件公判請求書記載の事実を引用したのは右書面を

証拠として引用したのではなく第一審の公判において裁判長が右書面を読み聞けて

した訊問に対する被告人の供述の趣旨を明かにするためであり、而も原判決は右の

部分の外被告人の供述を詳細に記載した第一審公判調書の他の部分をも引用してい

るので、原判決には所論のように採証についての違法はなく論旨は理由がない。

同第二点は原判決は事実認定の証拠として第四九一丁表に於て被害者Aに対する

司法警察官の聴取書中同人の陳述中「私ハ七畳間ニ就寝云々」及同丁裏「奥ノ十畳

間云々」を引用している。要するに此の七畳或は十畳で犯罪は実行されたと云ふの

である。然るに本件記録に編綴せられある原審裁判所の検証調書を閲するに同家に

は七畳及十畳なる部屋は存在しない。従つて原判決に於ては実在しない場所で犯罪

- 1 -

が行はれたと云ふことになり、A居宅を犯罪の場所とする理由と証拠が一致せず即

ち理由齟齬の違法あるものにして破毀を免れないと信ずると言うのである。しかし

証人の供述の一部に誤りがあつても、その部分と関係のない事実を供述の他の部分

で認定することは少しも差支えのないことである。原判決は所論Aの聴取書の外原

判決に示したその他の証拠をも引用して本件犯罪が原判示A方居宅内で行われた事

実を認定したのであつて、犯行の場所として所論居室を判示したのではないから仮

に右聴取書中の供述に所論のような誤りがあるとしても、理由齟齬の違法とはなら

ない。

右の理由は裁判官全員の一致した意見であるので、刑事訴訟法第四百四十六条に

より主文の如く判決する。

検察官十蔵寺宗雄関与

昭和二十二年十一月十一日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎

裁判官 井 上 登

裁判官 庄 野 理 一

裁判官 島 保

裁判官 河 村 又 介

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!