大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和22(オ)27 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告理由は「一、証拠の取捨判断及事実の認定は事実承審官の権限に在るとはい

え、其証拠取捨は何人をも首肯せしめる所謂社会の通念に合致した常識的な一定の

採証法則に従はねばならぬ。二、さて本件の主要な争点は「本件不動産に付昭和二

十一年八月中旬、被上告人の代理人又は表見代理人たるDと上告人との間に売買契

約又は売買の一方の予約が成立したか否か」である。三、此点に関し第一審に於て

上告人の主張に則した証拠はEの証言のみであつて他のFG、Hの証言は之が証拠

となし得ない証言をしたので上告人の主張が採用せられなくても止むを得ないもの

があつた。四、然るに控訴審に於ては証人E、F及上告本人はすべて上告人の主張

に吻合する供述をしているしG証人も原審証言と異り「Eガ心配シテ追掛ケテ来マ

シタ。ソシテFト話ヲシテDニモ何カ頼ンデ居タ様デアリマシタ(中略)夫レデ証

人ハDニ控訴人モ立腹シテ居タカラFノ兄モ心配シテ追掛ケテ来タノデアルカラ家

ヲ返シテヤツテ呉レト云フ事ヲ誰ニ頼マレタ訳デモナク証人が親切心ニ口添シテヤ

リマシタDハ先方デ早イ内ニ来レバ返シテモイイト云フ事ヲ申シマシタ(下略)」

云々と証言して居り否定的な証言とは云い得ない。斯様に控訴審の証拠関係は上告

人に有利に転回しているのである。勿論控訴審に於ても原審証拠が提出されている

のであるが全部を綜合して考慮しても尚上告人に有利な証拠が多いのである。(加

之上告本人の供述以外の他の証言は控訴審の判決をした裁判官はすべて直接訊問は

立会はれず書面審理となつているのである)事実認定は控訴裁判所の専権に属すと

はいえ、多数の有力な証拠を排して少数な証拠に何等の理由なく信憑方をおいたの

は不当である。殊に原審判決は「控訴人(上告人)は該不動産に付同月中旬被控訴

- 1 -

人の代理人又は表見代理人たる右Dとの間に於て売買契約又は売買の一方の予約が

成立した旨主張するから審按するに、之と同趣旨の原審に於ける証人E原告本人A

及当審に於ける証人E、同F、控訴本人Aの各訊問の結果は原審及当審に於ける証

人D、同Gの各証言に対比して措信し難い」云々と説示したがGの控訴審に於ける

証言は何等反証的な証言をしていないのに拘らず反対証拠としたのは不法である理

由齟齬又は不備があると信じます」というのである。

しかし、原審は証拠調の結果を斟酌して自由な心証によつて証拠を取捨判断した

のであつて、採証法則に反するところはない。又証拠の取捨については一々その理

由を判決に示す必要もない。原審証人Gの証言は、それによつて上告人主張の事実

を必然に認定させるほどの明確なものではないので原審がこれと他の証拠とを綜合

して、上告人援用の証拠を排斥する反証としたからとて理由齟齬又は不備の違法は

ない。論旨は結局、原審の自由裁量に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難

するに帰着するので理由がない。

よつて、民事訴訟法第四百一条第九十五条第八十九条により主文のとおり判決す

る。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎

裁判官 井 上 登

裁判官 庄 野 理 一

裁判官 島 保

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!