最高裁判所第三小法廷 昭和24(れ)69 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
弁護人市川蓬朗の上告趣意第一点の(一)について。
論旨は、本件犯罪事実が本人の自白を唯一の証拠として認定せられているという
前提の下に、原判決を非難している。しかし原判決は各被告人につき、各本人の自
白の外に、共犯者たる相被告人の自白その他の原判決挙示の多くの証拠を綜合して
犯罪事実を認定している。共同被告人の供述も本人の自白を補強する証拠となり得
ることは、既に当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一一二号、昭和二三年七月一
四日大法廷判決)に示されている通りであるから、原判決は所論のように憲法第三
八条第三項に違反するものではない。のみならず原判決が証拠として採用した被告
人の自白は、原審公判廷における自白である。そうして公判廷における自白が、憲
法第三八条第三項にいわゆる自白の中に含まれないことは、当裁判所のしばしば判
例に示した通りであつて、今なおこれを改める必要を認めない。よつて原判決には、
所論のように採証の法則に違背し理由不備の不法を犯した点はない。又原判決認定
の事実は、その挙示の証拠によつて既に十分証明せられるから所論のように審理不
尽ありとも認められない。論旨はいずれも理由がない。
同上第一点の(二)について。
記録を調べてみると、被告人A及びB(所論の被告人四名の中C及びDは上告を
取下げた)が、昭和二二年九月一一日緊急逮捕せられて昭和二三年八月三一日保釈
せられる迄、引続き拘禁せられていたこと所論の通りである。
そうして原判決が証拠として採用した右の各被告人の自白は、昭和二三年八月一
二日に開かれた原審第二回公判における供述であるから、十一個月余に亘る拘禁の
後の自白である。しかし本件は極めて複雑な、且つ国際的な事件であつて、事件発
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生後逮捕された者は被告人等の外四十数名、関係者として取調を受けた者は数百名
に上つている。その上一方に於ては事実の確定が困難なために現場の検証や多数の
証人の喚問等に多大の日時を必要としたこと、他方に於ては被告人等の経歴、職業
等諸般の事情を考慮してその間勾留を継続する必要があつたであろうことも察する
に難くないが、仮りに右の拘禁が不当に長いものであつたとしても、被告人等は逮
捕された日(昭和二二年九月一一日)に既に、警察官に対して本件犯行を自白し、
更らに検事に対しても(同月一三日より二一日迄の間に)又第一審第一回の公判(
昭和二三年一月一七日)に於ても、略ぼ同様の自白をしている。それ故に原判決が
証拠として採用した原審における自白と右の拘禁との間には因果関係のなかつたこ
とが明かに認められる。かような場合には、仮りに拘禁自体は不当に長いものであ
つたとしても、刑訴応急措置法第一〇条第二項にいわゆる「不当に長く抑留若しく
は拘禁された後の自白」には該らないと解すべきである(昭和二二年(れ)第二七
一号同二三年六月二三日言渡最高裁判所判決参照)から、原判決が右の自白を証拠
として採用したことは所論のように採証の法則に違反するものではない。論旨は理
由がない。
同上第二点について。
事実審たる裁判所が審理の結果、旧少年法第七一条(論旨は旧少年法第六六条に
よる同法第三七条の処分と言つているけれども、これは被告事件の審理中勾留に代
えて行う一時的処分であつて、裁判の確定と共に効力を失うこと同法第七二条によ
つて明かである。従つて右は同法第七一条の保護処分の誤りであると認められる)
に従つて事件を少年審判所に送致するか、又は自ら刑事処分に付するかにつき、慎
重な判断を為すべきことは、所論の通りである。しかしそれは事件を刑事処分に付
することの前提たる手続に過ぎないのであつて、刑事処分そのものではない。従つ
て刑事処分としての判断たる判決中に、所論のような判断又は判断理由を示すべき
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必要はなく、そのことを命ずる法規も存しない。従つて原判決が右のような判断を
判示しなかつたからとて、所論のような違法はない。論旨は理由がない。
以上の理由により、最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項、旧刑事訴訟法第
四四六条に従い主文の通り判決する。
この判決は、憲法第三八条第三項の自白には公判廷における自白をも含むとする
裁判官井上登(昭和二三年(れ)第一六八号、同年七月二五日言渡最高裁判所判決
参照)及び裁判官穂積重遠(昭和二三年(れ)第一五四四号、昭和二四年四月二〇
日言渡最高裁判所判決参照)の少数意見を除く外、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
検察官 安平政吉関与
昭和二四年七月一九日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎
裁判官 井 上 登
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 穂 積 重 遠
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