最高裁判所第三小法廷 昭和24(オ)162 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人中村慶七の上告理由は末尾添付記載の通りであり、これに対する当裁
判所の判断は次の如くである。
第一点について。
本件は「仮の地位を定むる仮処分」を求めるものであり、その争ある権利関係は
本件係争田地に対する所有権に外ならないことは、記録上明らかである。そして、
所有権以外の所謂耕作権に基いて仮処分を求める趣旨は記録上存在しないから、原
判決が所有権以外の所謂耕作権について判断をしないからとて、所論の如き判断遺
脱の違法はない。論旨は理由がない。
第二点について。
原審において上告人は(一)本件田地につき仮に被控訴人主張のような贈与の事
実がないとしても、被控訴人は取得時効の完成によつて所有権を取得した場合でも
其登記を経なければ控訴人に対抗できないと他から聞かされたので被控訴人はその
ように誤信して調停に応じたのであつて、さような誤信がなかつたなら被控訴人は
調停に応じなかつたのである。(二)被控訴人は昭和二二年三月四日D農地委員会
から同委員会は控訴人の調停申請によつて審議したところ本件田地は控訴人に返還
すべきものである旨決定したとの通知を受け、更に調停委員会において調停委員か
ら本件田地は少くとも元年間のうちに控訴人に返還すべきものであるということを
聞かされたので被控訴人は本件田地については法律上争の余地がないものと誤信し
て調停に応じたものであるから、右調停は意思表示の錯誤によるもので無効である
と主張していることは、記録上明らかである。しかし、原審においては所論田地の
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所有権は、上告人において時効により取得したものであるという主張事実、並に右
田地に対する自己の所有権が登記を経なければ控訴人に対抗できないものであり、
又これを被上告人に返還すべきものであつて、法律上争う余地がないものと誤信し
た事実、及び右のように誤信したことが、調停における意思表示の錯誤を生じさせ
たことについては全疏明によつてもこれを疏明するに足りないとして上告人の主張
を排斥したものであることは原判決自体によつて明らかであるから所論の事実が動
機の錯誤であるか又は意思表示の錯誤に当るものであるかの説明は左まで重要では
ないばかりでなく原審において上告人主張のような事実があつたとしてもそれは動
機の錯誤であると判断したことに誤りはない。論旨は理由がない。
第三点について。
証拠の取捨判断は事実審たる原審の自由に決し得るところであるから上告人の提
出した疏明方法を採用しないからとて採証法則に反するものではない。論旨は理由
がない。
第四点について。
記録に徴するに、所論の点に関する疏明はないから原審において所論の誤信につ
いての疏明がないと判断したことは正当である。そして、甲第一一号証末尾の記載
は、所論誤信の反証となることは原判決説示の通りである。要するに論旨は原審の
事実認定を非難することに当るから、上告適法の理由とならない。
第五点について。
論旨は結局原審の事実認定の非難にすぎないから、上告適法の理由とならない。
第六点について。
しかし、原判決は被控訴人主張のいわゆる調停条項を読聞かせたるにこれを受諾
したりというのは、必ずしも調停条項を文字通り音読して聞かせたことをいうので
はなく、調停条項の趣旨をよく了知せしめ当事者においてこれを承諾したことをい
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うのであつて、この趣旨の了知がなかつたことは証拠上これを認めることはできな
いと判示しているのであつて、所論のように音読の趣旨だけに限定したものではな
い。そして論旨後段は、証拠の取捨判断に対する非難にすぎないから、上告適法の
理由とならない。論旨は採用できない。
第七点について。
記録を調べて見るに、上告人は本件田地を亡兄又衛を経て被上告人から贈与を受
けた為め、又は少くとも贈与を受けたと信じた為め自己の物として使用し来つた旨
を主張しているが、被上告人から賃借した事実を主張した形跡はなく、原判決にお
いても上告人と被上告人との本件田地に対する関係は賃貸借ではないものと疏明さ
れたとしたのであり、その認定には何等法則違背はない。従つてその田地の返還に
ついて農地調整法第九条の適用はあり得ない。従つて原判決は所論の如き審理不尽
若くは法令違背はないから論旨は理由がない。
よつて民事訴訟法第四〇一条第八九条第九五条により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎
裁判官 井 上 登
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 穂 積 重 遠
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