最高裁判所第三小法廷 昭和28(あ)1881 判決
主 文
原判決並びに第一審判決を破棄する。
被告人A、同Bを各無期懲役に処する。
各被告人が占領軍軍事裁判所の確定判決によつて執行を受けた刑の中そ
れぞれ二年一一月を右各本刑に算入する。
訴訟費用中、第一審の弁護人山根七郎治に支給した分、第二審の弁護人
久保千里に支給した分の五分の二、証人C、同Dに支給した分の二分の一、当審の
弁護人八木力三に支給した分は、被告人Aの負担とし、第一審の弁護人小竹勝及び
証人Eに支給した分、第二審の弁護人久保千里に支給した分の五分の三、証人C、
同Dに支給した分の二分の一、証人Fに支給した分は、被告人Bの負担とする。
理 由
被告人Aの上告趣意について。
所論は、被告人は本件と同じ犯行についてすでに米軍第一騎兵師団軍事法廷で重
労働三〇年の有期刑を宣告せられその刑の一部の執行を受けたのに、講和条約発効
後再び同じ犯行について本件において日本裁判所に起訴せられ、第一審で無期懲役、
原審で控訴棄却の判決を受けたが、これは憲法の二重裁判禁止の規定に反する、又、
右軍事法廷の裁判は刑法五条にいわゆる外国判決であると思うからこの外国判決に
よる刑の一部の執行を受けた被告人に対しては同条但書により本件の刑の執行を減
軽せらるべきものである、というに帰する。
一、よつて審按するに被告人Aが昭和二四年五月一九日、被告人Bが同月二五日
いずれも本件と同一内容の犯罪事実につき、占領軍裁判所であるアメリカ合衆国第
八軍軍事委員会においてそれぞれ重労働三〇年に処する旨の有罪判決を受け、この
確定判決の執行としてその頃から昭和二七年四月二八日平和条約発効に至る迄、横
浜刑務所において服役した事実は原判決が記録によつて認定したところである。〔
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第一審判決が認定し原判決が認めた本件犯罪事実の要旨は、いずれも中国人である
被告人A、同Bは外二名と共に屋内に侵入して金品を強取せんことを共謀の上昭和
二三年四月二五日静岡県浜名郡a村所在G方に侵入し被告人A外一名においてGの
妻H及びIを脅迫し更に右被告人ら四名は共同して右両名の手足を縛り上げ雑品十
数点を強取した後家人をみな殺しにしようと決意し被告人ら四名相協力して先ず右
Iを突き刺して死に至らしめ、次で右HとIの長男Jとの各頸部に麻縄を巻きつけ
て締め付け、Hの長女Kの鼻孔口等に布団を被せその上に乗つて圧迫しこの三名を
即時窒息死に至らしめてその目的を遂げたものである(住居侵入強盗致死の一罪)
というにあり、一方、本件記録(三一三丁乃至三一五丁その他)によれば、占領軍
軍事裁判所たる米国陸軍第八軍第一騎兵師団軍事委員会が被告人Aに対し昭和二四
年五月一九日確定の判決によつて認定し禁錮重労働(イムプリズンメント・アツト・
ハアドレーバア)三〇年を宣告した犯行は、同被告人は、いずれも他の者と共謀し
て日本静岡県内及びその附近において昭和二三年四月二五日及びその頃彼及びその
他の者による強盗を行つた時悪意をもつて故意に又犯意をもつて不法に又予め計画
を立ててHを絞殺し、Kを絞め窒息させて殺しIを絞め又刺して殺し、又Jを絞殺
したものである(わが刑法二四〇条の強盗致死)というにあること明らかで本件犯
行は右軍事委員会が右三〇年の刑を宣告した犯行と同一であつてそれが右軍事委員
会の判決が確定し右三〇年の刑の一部の執行を終つて後わが国の裁判所で本件とし
審判されているのである。〕
なる程、憲法三九条は何人も同一の犯罪行為について、重ねて刑事上の責任を問
はれない旨を定めているが、しかし、これは同一犯行につき、わが国の憲法による
裁判権によつて二重に刑事上の責任を問うことを禁じた趣旨と解すべきであつて占
領軍軍事裁判所は、連合国最高司令官によつて設けられ、その裁判権は同司令官の
権限に由来し、わが国の裁判権にもとずくものではないのであるから占領軍軍事裁
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判所の裁判を経た事実について、重ねてわが裁判所が処罰することがあつても、憲
法三九条に違反するものでないことはすでに当裁判所の判例とするところである。
(昭和二七年(あ)六〇一〇号同二八年七月二二日並に同二九年(あ)二一五号同
三〇年六月一日各大法廷判決参照)。
右軍事委員会は占領軍軍事裁判所の一であるから被告人Aが右軍事裁判所で有罪
裁判を受けた犯行と同一の犯行について本件の起訴及び裁判を受けることは何ら憲
法三九条の二重処罰禁止の規定に違反するものではない。この点所論は理由がない。
二、次に、刑法五条但書による刑の執行の減軽の点について考えるに、わが国は
昭和二一年二月一九日附「刑事裁判権の行使」に関する連合国最高司令官の覚書の
発せられて以後昭和二五年一〇月一八日附「民事及び刑事裁判権の行使」に関する
覚書に基く「連合国人に対する刑事事件等特別措置令」の施行(同年一一月一日)
にいたるまでの間、即ち昭和二一年二月一九日から昭和二五年一〇月三〇日までの
間、連合国人に対して公訴権並びに裁判権を行うことを得なかつたものであるがこ
の間における本件に見るような連合国人に対する占領軍軍事裁判所の確定判決はわ
が国の裁判権による裁判でもなく外国の裁判でもないけれども刑法五条所定の「外
国判決」に準じ原則として、刑法五条を準用すべきものであることは当裁判所の判
例の趣旨とするところである。(前記大法廷の二つの判決参照)。
三、しこうして、被告人が「外国判決」に基いてその刑の一部の執行を受けた後、
わが国の裁判所が同一犯罪事実に対し、あらためて、無期の懲役又は禁錮の刑を言
渡す場合、被告人が右外国判決に基いて刑の執行を受けた事実を斟酌して、その受
刑の期間のうち、相当の期間を本刑に算入して、右期間は、刑法二八条仮出獄に関
する規定の適用については、既に「経過シタル」期間として通算されるものとする
ことも、また同条但書にいわゆる刑の執行の減軽にあたるものと解するを相当とし、
右のごとき場合その期間の算入は、何ら無期刑の性質に反するものではなく従つて
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同条但書に従い「刑の執行を減軽することを要するものと解すべきであること当裁
判所の判例とするところである(前記昭和二九年(あ)二一五号昭和三〇年六月一
日大法廷判決参照)。
してみれば、原判決が前記の通り被告人Aが本件と同一の犯行について右軍事裁
判所の確定判決による刑の一部の執行を受けたことを認めながら本件宣告刑が無期
懲役刑であるためその性質上刑の執行を減軽する余地がないとして本件の刑の執行
を減軽しなかつたのは違法であり、所論はこの点において理由があり刑訴法四一一
条一号によつて破棄を免れないものである。
被告人Bの上告趣意について、
一、所論第一段は、同被告人は昭和二四年五月二四日占領軍軍事裁判所において
殺人罪により重労働三〇年の有罪判決を受けたのにこれと同一の犯行について本件
で起訴せられ原判決を受けたのであるから原判決は二重裁判を禁止する憲法三九条
の規定に違反するものであるというにある。
よつて審按するに被告人Bが所論の通り本件と同一内容の犯罪事実について占領
軍軍事裁判所において有罪判決を受け、この判決の執行としてその頃から昭和二七
年四月二八日まで服役した事実は原判決が記録によつて認定したところである。〔
第一審判決が認定し原判決が認めた被告人B、同Aについての本件犯罪事実は前記
の通り(住居侵入強盗致死)であり、一方、本件記録(二八〇丁乃至三四三丁その
他)によれば占領軍軍事裁判所たる前記軍事委員会が被告人Bに対し昭和二四年五
月二五日確定の判決によつて認定し禁錮重労働三〇年を宣告した犯行は、被告人B
は昭和二三年四月二五日或はその頃静岡県のa村に於て他の数名と共謀し、故意、
熟慮の上、兇悪な、不法な予謀悪意を以てIを謀殺の意思を以て絞殺し更に鋭利な
器具を以て彼女を刺殺したものである(わが刑法一九九条の殺人)というにあるこ
と明らかで本件犯行もまた右軍事委員会がその三〇年の刑を宣告した犯行と同一で
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あつて、それが右軍事委員会の判決が確定し右刑の一部の執行を終つた後わが国の
裁判所で本件として審判されているものである。〕
二、所論第二段は被告人Bが右占領軍裁判所で受けた禁錮重労働三〇年の裁判は
刑法五条にいわゆる外国裁判である、同被告人はこの裁判確定の日から昭和二七年
四月二八日釈放されるまでの間だけ右三〇年の刑に服して来たのであるから刑法五
条但書によつて当然本件無期懲役刑の執行は減軽せらるべきであるのに原判決が減
軽しなかつたのは違法である、というにある。
しかし、憲法三九条は同一犯行についてわが国の憲法による裁判権によつて二重
に刑事上の責任を問うことを禁じた趣旨であり、占領軍軍事裁判所は、わが国の裁
判権に基くものではないから、占領軍軍事裁判所の裁判を経た事実について、重ね
てわが裁判所で処罰しても憲法三九条に違反するものでないことは、前示被告人A
の上告趣意について当裁判所の判例を示して説示した通りである。この所論は理由
がない。
所論の原判決認定にかかる被告人Bに対する占領軍軍事裁判所の確定判決がわが
国の裁判権による裁判でもなく外国の裁判でもないけれども、これは刑法五条所定
の「外国判決」に準じ、原則として、同条を準用すべきものであること、並びに、
被告人が「外国判決」に基いてその刑の一部の執行を受けた後、わが裁判所が同一
犯行に対し、あらためて無期の懲役又は禁錮の刑を言渡す場合に、右外国判決に基
く受刑の期間中相当の期間を本刑に算入することも同条但書にいわゆる刑の執行の
減軽にあたり、従つて右の如き場合右受刑期間を本刑に算入して同条但書による「
刑の執行を減軽」することを要するものであることは、前記被告人Aの上告趣意書
について当裁判所の判例を示して説示した通りである。
してみれば、原判決が前記の通り被告人Bが本件と同一の犯行について右軍事裁
判所の確定判決による刑の一部の執行を受けたことを認めながら本件の刑の執行を
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減軽しなかつたのは違法であり、所論はこの点において理由があり、原判決は刑訴
法四一一条一号によつて破棄を免れないものである。
三、所論のその余の部分は事実誤認と量刑不当の主張に過ぎず、いずれも刑訴法
四〇五条の理由に当らない。
被告人B弁護人竹沢哲夫の上告趣意第一点について。
所論は、要するに占領軍裁判所の判決はわが国裁判所の判決と同じ性質、効力を
持ち、少くとも本件については国内裁判に準ずる裁判と解しなければならない、そ
して刑訴法三三七条一号により免訴の言渡をなすべきところ原判決が有罪を言渡し
たことは憲法三九条の一事不再理の原則をふみ破つた違法あるものである、という
にある。
被告人Bが前記占領軍軍事裁判所で前記の通りの有罪判決を受けたのと同一の犯
行について本件で重ねて起訴せられ原判決を受けたことは所論の如く同被告人の上
告趣意第一段において説示した通りである。しかし右軍事裁判所の判決後右と同じ
犯行について重ねて本件起訴、有罪裁判をしても憲法三九条に違反するものでない
ことは被告人Aの上告趣意について及び被告人Bの上告趣意第一段について説示し
た通りである。従つて本件について原判決が刑訴法三三七条一号による免訴の判決
をしなかつたのは正当であつて、所論は理由がない。
同第二点について。
所論は、被告人Bは右軍事裁判所の判決で言渡された刑の一部の執行を受けたの
であるから原判決は刑法五条但書を適用し当然本件の刑を減軽すべきであるのにし
なかつたのは違法であるというにある。
この点の法律問題についてはすでに被告人Aの上告趣意について当裁判所の判例
(昭和二九年(あ)二一五号同三〇年六月一日判決)を引用して説示し、なお被告
人Bの上告趣意第二段について説示した通りであつて、原判決が被告人Bに対する
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本件の刑を減軽しなかつたのは違法であり、所論はこの点において理由があり、原
判決は刑訴法四一一条一号により破棄を免れないものである。
同第三点について。
所論は単に原判決は自首に関する刑法四二条の解釈を誤つたものであり、自首の
事実を認むべきであつたとして、刑訴法四一一条に該当する事由のあることを主張
するものであつて上告適法の理由とならない。
同第四点について。
所論は単なる量刑不当の主張であつて同じく上告適法の理由とならない。
被告人A弁護人八木力三の上告趣意について。
所論は何ら上告の理由を主張するところがないから上告適法の理由とならない。
叙上の原判決を破棄すべきものとした点以外の点については記録を調べて見ても
事実誤認量刑不当等について刑訴法四一一条にいわゆる原判決を破棄しなければ著
しく正義に反する事由があるものとは認められない。
被告人Bの補充上告趣意書、同被告人の補足上告趣意書及び同被告人弁護人竹沢
哲夫の補充上告趣意書はいずれも上告趣意書を差出すべき最終日を正当の事由なく
して過ぎることおよそ三月、八月及び一二日であると認められるからいずれもこれ
について別に判断を与えない。
よつて刑訴法四一一条一号、四一三条但書により被告人両名に対する原判決を破
棄し、当裁判所において更に自ら本件について判決することとする。
原判決の確定した事実を法律に照らすと各被告人の所為はそれぞれ住居侵入の点
は刑法一三〇条、六〇条に、強盗致死の点は同法二四〇条、六〇条に該当し右は互
に手段結果の関係にあるので同法五四条一項後段、一〇条により最も重いIに対す
る強盗致死罪の刑に従うべく被告人Aに対してはその犯情に応じて死刑を選択処断
すべきところ、同被告人は本件犯行当時一八歳未満(満一六年一一月余)の少年で
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あつたから少年法五一条に従い無期懲役刑を科し、又、被告人Bに対しては諸般の
情状を斟酌して無期懲役刑を選択し同被告人を無期懲役に処すべきものである。し
かして、被告人両名は原判決の認めたように、前記の通り、本件と同一の犯行によ
つて占領軍軍事裁判所の各確定判決によりそれぞれ禁錮重労働三〇年に処せられ各
判決確定当時(即ち本件当審記録中の昭和三〇年六月一四日附横須賀刑務所長の回
答書によれば被告人Aは昭和二四年五月一九日、被告人Bは同月二五日)より昭和
二七年四月二八日横須賀刑務所を出所するまでの間被告人Aにおいて二年一一月一
〇日だけ、又、被告人Bにおいて二年一一月四日だけ右各刑の執行を受けたもので
あるから、各被告人に対しては刑法五条但書により右各三〇年の刑の中すでに執行
を受けた部分中いずれも二年一一月は本件各無期懲役刑の執行を減軽する趣旨にお
いてこれを本刑に算入すべきものである。よつて訴訟費用の負担については刑訴法
一八一条に従い主文のとおり判決する。
この判決は全裁判官一致の意見によるものである。
検察官 安平政吉出席。
昭和三〇年九月二〇日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 垂 水 克 己
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 小 林 俊 三
裁判官 本 村 善 太 郎
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