最高裁判所第三小法廷 昭和29(オ)351 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告人の上告理由第一点について。
論旨は、原判決は重要な事項、すなわち憲法及び地方自治法施行後において、(
1)上告神社が被上告財産区所有の本件土地を従前どおり無償使用することができ
るか(2)上告神社が被上告財産区に対して財産分離清算を要求したとき被上告財
産区はこれに応ずる義務があるか、という問題について判断を遺脱した、と主張す
る。けれども、(1)原判決は「地方公共団体の財産を神社が使用することは憲法
八九条、地方自治法二一二条に違反する」と判断したことは判文上明瞭であり、そ
してこのことは本訴請求の当否とは直接に関係がないから、原判決がこの点につい
て説示しなかつたのは当然である。(2)の義務については、原判決は、昭和二二
年四月一二日法律五三号(以下単に法律五三号という)及び同年勅令一九〇号は明
らかに国有財産のみを対象としているからこれらは地方公共団体の所有財産に適用
されない、またこれらは憲法八九条、地方自治法二一二条の趣旨によつても当然こ
れに準用されるものとは解し難い、地方公共団体の財産を神社が使用することは右
憲法及び地方自治法の規定に違反するがそのことから直に地方公共団体は当該財産
を神社に無償譲与する義務が生ずるものとはいえない、との旨判断を明示している
から、所論のような判断遺脱はない。論旨は理由がない。
同第二点について。
地方自治法二一二条は普通地方公共団体の所有財産は宗教上の組織若しくは団体
(以下宗教団体という)の使用、便益若しくは維持のためその利用に供してはなら
ない旨を規定しているけれども、このことから当然に同条は同法施行の際従来宗教
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団体の使用していた地方公共団体の公有地を宗教団体に無償譲与すべき義務を定め
たものと解することができないこと原判決の説示するとおりである。すなわち、同
条は一般的に公有財産を宗教団体に利用させることを禁止する規定であつて、もと
より公有財産を宗教団体に無償譲与すべき義務を地方公共団体に課した規定ではな
く、同条自体においては、如何なる地方団体が如何なる関係ある宗教団体に対し如
何なる公有財産を譲与すべき義務を有するかについて何ら規定するところはない。
法律五三号、昭和二二年勅令一九〇号は特別に明文をもつて国有財産についてのみ
社寺等に譲与する場合についてその要件を規定したものであり、右法律、勅令は地
方自治法二一二条の趣旨からは公共団体所有の財産に準用されるものと解すべきで
ない。従つて如何なる地方団体が如何なる関係ある宗教団体に対し如何なる公有財
産を譲与すべきかについて例えば法律五三号のような法規が設けられない以上、個
個の宗教団体が特定の地方公共団体に対しその所有の特定の財産の譲与を請求する
権利が発生するに由がない訳合である。してみれば、かかる法規がない今日、かり
に憲法八九条、地方自治法二一二条が地方公共団体所有財産の譲与について何らか
の抽象的義務若しくは立法義務を定めたものと解してみたところで、それだけのこ
とからは上告神社が被上告財産区に対し本件土地の無償譲与を受ける権利が発生す
る訳のものではない。従つて論旨中違憲の主張は前提を欠く。
なお、記録によると内務次官・文部次官は昭和二二年四月二日附地方長官宛通達
で地方公共団体所有の土地についても寺院等に無償で貸付けてある国有土地に準じ
て譲与の取扱をするよう指示し徳島県教育民政部長は同月一七日右通達を地方事務
所長及び市町村長宛伝達しているけれども、これらの通達はもとより法令としての
効力を有するものでなく、ただ地方公共団体としては国有財産に準ずる取扱をする
ことを妥当とするとの一般方針を指示したに過ぎないものであるから、これによつ
て寺院等(法律五三号施行後は神社も)が譲与を請求する権利を有するに至るいわ
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れなく、かりに地方公共団体が通達に違反したとしてもこれを違法ということはで
きない。地方自治法及び法律五三号の施行によつて当然に地方公共団体が譲与義務
を負うに至つたとの論旨は理由がない。
その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」
(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法
にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 垂 水 克 己
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 小 林 俊 三
裁判官 本 村 善 太 郎
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