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最高裁判所第三小法廷 昭和30(オ)24 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人依田克己の上告理由第一点の(1)について。

論旨は、本件建物に対する被上告人の所有権については登記がなく、第三者に対

抗できない瑕疵ある所有権であるということを論拠として、本件賃貸借には法律行

為の要素に錯誤があり、仮りに然らずとしても詐欺による法律行為としてこれを取

り消し得るものであると主張する。

しかし他人の所有物についても賃貸借は有効に成立するから、賃貸借の目的物が

賃貸人の所有であること、殊に登記を具えた対抗力ある所有物であることの如きは、

当事者が特にそれを賃貸借の要素と定めた場合の外は賃貸借の要素ではないと解す

べきである。また被上告人が本件建物を完全な所有物であると欺いて賃貸したとの

詐欺による法律行為の主張事実、すなわち、被上告人の本件建物所有権がもし対抗

力なきものならば上告人はこれを賃借しなかつたであろうのに、被上告人は対抗力

がある旨虚偽の事実を告げて上告人を欺き上告人はこれを誤信した結果本件建物を

賃借したとの事実は、上告人の原審において主張しなかつた事実であるから、論旨

は採用できない。

なお論旨は所有権を対抗できないような建物を賃貸借の目的としても契約を達し

難いというが、上告人は右賃貸借に基き約旨の期間内現実に本件建物の使用収益を

なし得たのであるから、右論旨も理由がないこと明らかである。

同第一点の(2)について。

不動産の二重売買において一方の買主が登記をしたときは、その者は完全に所有

権を取得し、他方の買主は始めから所有権を取得しなかつたものと解すべきことは

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所論のとおりである。しかし前記のように、他人の物についても有効に賃貸借が成

立するのであるから、訴外Dが昭和二六年一〇月一日本件建物の所有権保存登記を

経由したことにより被上告人が最初から右建物の所有者でなかつたことになつても、

それだけで本件賃貸借が始めから当然無効となる道理はない。そして本件賃貸借の

期間は昭和二三年一〇月一二日から同二五年一〇月一二日までであつて、訴外人の

登記の日よりも前であり、しかも上告人は現実に建物の使用収益をしたのであるか

ら、訴外人の登記により被上告人が始めから所有者でなかつたことになつても、す

でに経過した期間の賃貸借が無効となるわけはない。論旨は理由がない。

その余の論旨は原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するもの

と認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

おり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 河 村 又 介

裁判官 小 林 俊 三

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 高 橋 潔

裁判官島保は病気につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 河 村 又 介

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