最高裁判所第三小法廷 昭和32(あ)2342 判決
主 文
被告人A、B、C、D、E、F、Gの本件各上告を棄却する。
被告人H、Iに対する各原判決中無罪を言渡した部分並びに被告人J、
K、L、Mに対する各原判決を破棄する。
被告人H、J、I、K、L、Mに対する本件入札妨害被告事件を東京高
等裁判所に差し戻す。
理 由
被告人Aの弁護人柳川澄の上告趣意は単なる法令違反及び事実誤認、被告人Bの
弁護人林幹二の上告趣意は事実誤認、被告人C、同Gの弁護人山下卯吉の上告趣意
は単なる法令違反、被告人Dの弁護人加藤礼敏の上告趣意は事実誤認、被告人Eの
弁護人小幡勇二郎の上告趣意は事実誤認、被告人F本人の上告趣意は単なる法令違
反及び事実誤認をそれぞれ主張するものであつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理
由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
(なお被告人C、同Gの弁護人山下卯吉の所論は、詐欺罪の成立するがためには、
被害者に財産上の損害を蒙らせたことが必要である旨主張するが、詐欺罪の成立に
は必ずしも財物の交付に因り被害者の全体としての財産的価値が減少することを必
要とせず、いやしくも人を欺罔して財物を交付させた事実ある以上は、その事実自
体により既に相手方に対し財産的損害を生ぜしめていると解すべきであり、この点
についての原判示は相当である。)
東京高等検察庁検事長岸本義広の上告趣意について。
論旨は原判決において刑法九六条ノ三第二項に関し判示するところは、当裁判所
判例(昭和二八年(あ)第一一七一号、同年一二月一〇日第一小法廷決定、刑集七
巻一二号二四一八頁)に違反する旨主張する。よつて案ずるに、原判決における、
刑法九六条ノ三第二項前段にいう「公正ナル価格」とは、入札なる観念を離れて客
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観的に測定せらるべき公正価格の意味ではなく、当該入札において公正にして自由
な競争入札の方法によつて形成されたであろう落札価格の謂に外ならないものと解
するのが相当である旨の判示は、右当裁判所判例に合致し正当である。しかし更に
原判決における、その公正なる自由競争によつて形成されたであろう落札価格とい
うのは、単なる無制限に放任された自由競争によつて形成される落礼価格ではなく、
入札者自身の採算を無視したいわゆる出血的入札価格を含まない各入札者の個人的
経済事情を基礎として工事実費にその入札者の企業の適正な利潤を加味して算定さ
れた価格による入札によつて形成されるであろう落札価格を意味するものと解する
のが最も妥当であり、同法条にいわゆる「公正ナル価格ヲ害スル目的」をもつて談
合するとは、当該入札において公正なる自由競争により最も有利な条件を有する者
が工事実費に適正な企業利潤を加算した額で落札すべかりし価格を越えて入札施行
者に対し不利益な価格を形成させる目的で談合をすることを意味するものと解する
のを相当とする旨の判示は、前記当裁判所判例の趣旨と相反する見解に出てたもの
というのほかなく(昭和二九年(あ)第三一九八号、同三二年一月二二日第三小法
廷判決、刑集一一巻一号五〇頁、昭和三〇年(あ)第二八号、同三二年一月三一日
第一小法廷判決、刑集一一巻一号四三五頁、昭和二九年(あ)第四八四号、同三二
年七月一九日第二小法廷判決、刑集一一巻七号一九六六頁各参照)、所論判例違反
の主張は理由あるに帰する。しかして原判決がその判示するが如き理由により、本
件談合は、結果において自由に放任すれば競争入札により形成されるであろう落札
価格を害したかも知れないが、被告人らにおいて経済的採算を無視しない公正なる
自由競争により形成さるべき落札価格を害する目的で談合を遂げたとか又は結果に
おいてこのような公正な価格を害したものである事実を肯認するに足りる証拠はな
いとして第一審判決を破棄し被告人らに対し無罪の言渡をしたことは判文上明白で
あるから、前記の如く原判決が刑法九六条ノ三第二項の解釈適用に関し当裁判所の
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判例の趣旨と相反する判断をした点は失当であつて判決に影響を及ぼすことが明ら
かであり、原判決中この点に関係ある被告人に関する部分は刑訴四〇五条二号、四
一〇条一項本文により破棄を免れない。
よつて、被告人A、B、C、D、E、F、Gについては刑訴四〇八条により、被
告人H、J、I、K、L、Mについては同四一三条本文により、裁判官全員一致の
意見で主文のとおり判決する。
検察官 平出禾公判出席
昭和三六年九月二六日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 垂 水 克 己
裁判官 河 村 又 介
裁判官 高 橋 潔
裁判官 石 坂 修 一
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