最高裁判所第三小法廷 昭和32(オ)454 判決
主 文
原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差戻す。
理 由
上告代理人竹下伝吉、同大矢和徳の上告理由第一点、第二点について。
上告人の本訴は、原判決添付の別紙目録記載の各土地を、これを占有する当該被
上告人に対しそれぞれその地上の同目録記載の建物を收去して明渡すことを求め、
若し右の請求が容れられないときは、予備的に右各土地をこれを占有する当該被上
告人に対しそれぞれ原判決記載の期限の到来するときは当該地上の建物を收去して
明渡すことを求めるものであつて、その主張するところは、主たる請求原因として
は、上告人Aと被上告人らの間には本件土地の賃貸借はなく、上告人Aの住職が被
上告人らとなしたという賃貸借は檀信徒総代の同意及び宗派主管者の承認がないこ
と、予備的請求の原因として、かりに右土地賃貸借は民法第六〇二条所定の賃貸借
として、上告寺と被上告人らとの間に効力があるとしても上告人主張の時期にそれ
ぞれ満了すること等を主張したほか、上告人はその堂宇は戦災に罹り、寺院復興の
必要上本件土地の明渡を求めるか、ないしは被上告人らからその土地の明渡を求め
てこれを売却し資金を調達してこれを以て寺院を復興する必要があるとの趣旨等原
判決事実摘示欄記載のような事実を主張しているところ、原審は、証拠上上告人は
D宗E派に属する寺院であつて、昭和二一年六月二七日に、当時施行中の宗教法人
令に基きその旨の登記を経由し、宗教法人法の施行に伴い同二八年八月四日にその
登記を経たこと、上告寺の住職Fは被上告人B1に対しては同二二年四月頃、被上
告人B2に対しては同二三年七月七日、被上告人B3に対しては同年七月頃、原判
決目録記載の各土地をそれぞれ上告人主張のように賃貸し、被上告人らはそれぞれ
その地上に建物を所有してその敷地である右の土地を占有すること、上告人Aの檀
信徒総代全員は右の賃貸借の後である昭和二六年一〇月頃本件土地に関する賃貸借
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に同意を与えたこと、しかし本件土地賃貸借について所属宗派主管者の承認は得て
いないこと等の事実を確定し、右賃貸借は宗派主管者の承認をえていないから上告
人である寺と被上告人らとの間において無効であるとなした。そして上告人は本件
土地を除外した残りの寺有地に十分堂宇を建設し得る余地を持ち、かつ本道からの
通路も整然としていて、本件賃貸借ありとしても上告寺の再建の妨げとなつていな
いのに拘らず、再建資金調達の便宜上寺有地を一括処分すべく計画し、道路に面し
た本件土地の明渡を求めて一団の更地として処分する方が高価に売却できるとの一
方的利慾から被上告人らの犠牲においてその目的を実現しようというに憚らないと
して上告人の請求は信義に反し権利の濫用に当ると判断しているのである。しかし
ながら原審は証拠上、上告人は寺院再建資金を得るためには寺有地を値よく売却し
てこれを獲得しなければならない経済的環境にあつたもので、その方途についてい
ろいろな案をたて検討したが、結局住職Fは檀信徒総代等と昭和二六年一〇月頃上
告寺の復興再建を協議した結果、本件土地を含む全寺有地を一括して売却処分し他
に安価な土地を求めて再建すべく、同二八年六月八日寺有地一括処分について宗派
代表役員の承認を求め、同年九月一〇日その承認を得た旨の趣旨の事実を認定して
いるのであつて、原判文にあらわれた事情を仔細に検討すれば、上告人としてそれ
以外の再建方法を求めることは困難である事情にあつたことを窺うに難くなく、し
かも上告人は本件土地を売却しなければ再建資金を調達することができない趣旨を
主張していることは前記事実摘示並びに記録上(三四六丁)明らかなところである
のに、原審が前示のように本件土地明渡請求は単に上告人の一方的利慾に出たもの
であると漫然判示して上告人の本訴請求は信義に反し、権利の濫用に当ると判断し
たことは未だ到底納得することができない。(なお原審は、上告人は宗派主管者に
対して本件賃貸借について承認を求める手続をする義務があるとなすけれども、そ
のように解すべき法律上の根拠ありとなし難い。)これを要するに原審には当事者
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の主張について審理を尽さず、ひいて法令の適用を誤り、理由不備の違法があるも
のといわねばならないものであつて、原判決は破棄を免れない。
よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官高橋潔は死亡につき、評議に関与しない。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 石 坂 修 一
裁判官 五 鬼 上 堅 磐
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