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最高裁判所第三小法廷 昭和32(オ)814 判決

主 文

原判決中、本件土地につき所有権移転登記抹消手続の請求を棄却する部

分は、これを破毀し、本件中、右に関する部分を福岡高等裁判所に差戻す。

その余の部分に関する上告を棄却する。

上告費用中、前項に関する部分は、上告人の負担とする。

理 由

上告代理人江川甚一郎の上告理由第一点及び第二点について。

論旨は、上告人は原審において、本件調停に際して第一審判示の上告人よりなす

べき挨拶に関する約束が成立したか否か及び右約束が道義上の意味あるに止まるの

であつて、法律上の義務を生ずるものでなかつたか否かにつき、新しい主張をなし

たにも拘らず、原審はこの主張に対する判断を示さなかつたから、原審に、この判

断を遺脱した違法があり、しかも道義上の意味あるに止まる右約束が第一審判示の

同居義務と牽連関係を持ち、かつ法律上の義務を生ずることは、実験則上あり得な

いにも拘らず、原審はこれを肯定して居るから、原審に実験則違反があるというに

帰着する。

記録及び原判決によれば、上告人が原審において所論の主張をなしたことは、所

論の通りである。しかしながら、第一審は、本件調停において、被上告人夫婦が右

同居義務を履行するには、同判示の経緯上、上告人が先に同判示の挨拶をなし、被

上告人の妻Dの実家と意思の疏通をはかることも重要であるとして、上告人に対し

その実行が勧説せられ、容易に応じなかつた上告人も遂にこれを承諾したことによ

り所論の約束が成立したものであり、この約束あることを前提として所論同居義務

が本件調停条項とせられたのであつて、右約束が調停調書に記載せられなかつたと

しても法律上無意味となるものではなくして、上告人が右約束に基く挨拶をしない

以上、たとえ被上告人が上告人と同居しないからといつて、被上告人の責に帰すべ

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き事由により調停条項を履行しないものとはいえない旨認定判断して居り、原審は

これを正当として原判決に引用して居るのである。このことによつて原審は、上告

人の所論主張を否定する判断を示したものとなすべきである。

しかも原判決挙示の証拠による右事実認定は、これを是認し得るのみならず、調

停調書に記載せられた条項の条件となり、法律上の効力を持つ前記の如き約束が、

調停に際し口頭上成立しながら、右調書に記載せられないことも亦、あり得ないこ

とではない。

従つて、原判決は正当であつて、所論の違法はない。

論旨は、すべて理由がない。

同第三点について。

論旨は、原審において上告人は、本件登記には知事の許可かないから無効である

と主張したのに対し、被上告人がこれを争う意思がなかつたにも拘らず、原審が被

上告人にその意思があつたものゝ如く判示して居るのは、違法であるというにある。

原判決事実摘示及び記録を精査するに、上告人は原審において、本件贈与の土地

は農地であつてこれについては所轄知事の許可を経た上所有権移転登記をなすこと

を要するに拘らず、それを経て居らないから、本件土地につきなされた本件所有権

移転登記は無効であると主張して居り、被上告人は、上告人主張の許可を経なかつ

た事実を明に争つて居らないのであり、弁論の全趣旨によるも、被上告人がその事

実を争つた迹はない。然るに原審は、所論許可のなかつたことについては立証なく

却つて土地を含む本件不動産につき贈与に基く所有権移転登記のある以上、農地で

ある土地の贈与については、知事の許可があつたものと推認し得る旨判断して居る

のであつて、民訴一四〇条一項本文、二五七条に違反して居る。論旨は、理由があ

る。而も本件土地中、農地に当るものは何れであるかを確定しなければ、本件土地

の所有権移転登記が有効であるか否かを判断し得ないにも拘らず、原審はこれ等の

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点につき判断を示して居らない。

よつて原判決中、本件土地につき所有権移転登記抹消手続の請求を棄却した部分

は、民訴四〇七条一項により破毀し、前記の点を確定せしめるため、本件中右に関

する部分を福岡高等裁判所に差戻し、その余の部分に関する上告は、同法三九六条、

三八四条一項によりこれを棄却すべく、なお同法九五条、八九条に従い、裁判官全

員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 石 坂 修 一

裁判官 島 保

裁判官 河 村 又 介

裁判官 高 橋 潔

裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 石 坂 修 一

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