最高裁判所第三小法廷 昭和33(オ)944 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人居谷隆信の上告理由について。
被上告人(被控訴人)は原判決判示の担保の目的で被上告人の有する判示不動産
の所有権を訴外Dに譲渡し且つ右不動産につき任意の処分権を与え同人がこれを処
分して得た売得金が判示債務の額を超えるときはその超過額を被控訴人において返
還を受ける旨を訴外Dとの間に契約し、同人に右不動産の権利証、登記手続に用い
るための受任者及び委任事項を白地とした被上告人名義の白紙委任状、印鑑証明書
を交付したとの事実、その他の原判決の認定した事実関係の下では、訴外Eには本
人たる被上告人を代理すべき基本代理権はあつたものというを妨げない。けだし、
右白紙委任状は委任事項のほか、受任者も白紙のものであるから復代理人選任の許
諾あるものというべく、訴外Dは自己の授権された範囲内なる「担保のための所有
権移転登記」につき訴外Eに代理権を授与したものといえるからである。
よつて、民法一一〇条の解釈の誤を主張する論旨について考えるのに、原判決認
定の事実関係の下では、訴外Eは当初上告人(控訴人)に対し訴外Dの代理人とし
て原判示の各書類を示して本件不動産を担保とする金員借入の申込をしただけであ
つて、被上告人を主債務者又は保証債務者とするような被上告人に甚だ不利な契約
をすることについてまで被上告人を代理して申込をした訳ではなかつたのであるか
ら、原判示のとおり、上告人としては、訴外Eには担保権の設定とその登記だけに
ついて被上告人を代理する権限あるに止まり被上告人を主債務者又は保証債務者と
するような契約についてまで被上告人を代理する権限はなかつたものであることを
察知できた筈であるというを妨げない。にも拘わらず、上告人はかえつて訴外Eに
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勧めてE自身を借主たらしめ同人との間に判示金員消費貸借契約を締結したのであ
るから、訴外Eが彼自身の借用金債務につき被上告人の代理人となつて上告人との
間に保証契約をするにつき前記白紙委任状の一通に原判示事項を補充記載して判示
公正証書を作成することは被上告人の代理人としての権限踰越であることを上告人
において予見できた筈であり、(これを予見できなかつた事情は原判決は認められ
ないとする。)仮りに、これを予知できなかつたとしても、被上告人とは一面識も
ない上告人としては、判示の如き事情の場合には、すべからく、契約締結に先立ち、
代理権限につき本人に問合せその他一応の調査をなすべきであるのにこれを怠り、
原判示によれば、上告人は、判示公正証書作成後上告人が契約の貸借金を訴外Eに
交付するに先立ち使用人Fをして被上告人につき前記不動産権利証、委任状、印鑑
証明書が被上告人の意思に基いて交付されたことを確かめさせたに止まり、右公正
証書作成前に上告人が被上告人に対し訴外Eの借用金債務を保証することの承諾を
求めたこともなく、又、右公正証書作成後訴外Eの前記無権代理行為の追認を求め
たこともないという如き事情であつたというのであるから、これに照らすときは、
上告人は訴外Eが被上告人を代理して判示保証契約を締結する権限を有するものと
信ずるについて正当の理由を有したものというをえないとした原判決の判断は失当
ということはできない。原判決には所論の違法なく、論旨は理由がない。
上告代理人影山彦三郎の上告理由第一点について。
論旨(一)が原判示の事実に民法一一〇条を適用しなかつた原判決は違法である
という点は前記上告代理人居谷隆信の上告理由について説示したとおりの理由によ
り論旨は理由がないものというほかない。
論旨(三)および(二)の前半は原審の事実認定の非難にすぎず上告適法の理由
とならない。同後半は前記(一)と同趣旨であつて(一)と同一の理由により論旨
は理由がないといわねばならない。
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同第二点について。
論旨は原判決のうち所論の事実認定の部分につき右事実は全然根拠がないと主張
し理由不備をいうが、原判決挙示の証拠によれば特段の釈明もしくは説示をもちい
ずして右事実を認定することができるので、原判決がこれを認めうる理由を特に示
さないことには何ら理由不備はなく、所論は結局事実認定、証拠の取捨判断の非難
に帰し採用するに足らない。その余の論旨は原判決の認定しない事実を主張しこれ
に基いて原判決を非難するもので上告適法の理由とならない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 垂 水 克 己
裁判官 河 村 又 介
裁判官 石 坂 修 一
裁判官 五 鬼 上 堅 磐
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