最高裁判所第三小法廷 昭和34(あ)1610 判決
主 文
原判決中被告人についての検察官の控訴を棄却した部分を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理 由
広島高等検察庁検事長松本武裕の上告受理申立理由について。
公務員が職務上作成する文書であつて、権利義務に関するある事実を証明する効
力を有する文書は刑法一五七条一項にいう「権利義務ニ関スル公正証書」であり、
住民登録法による住民票は同条項にいう「権利義務ニ関スル公正証書」に当ると解
するのを相当とする。
記録によると、第一審判決は判決理由末段「一部無罪」の項において、起訴状に
基き被告人が被告人及びその家族七名は韓国人であつて日本国籍を有せず外国人登
録法の適用を受け住民登録法の適用はないのに虚偽の住民登録をしようと企て、判
示日時場所で判示の方法により判示住民票の原本に被告人及びその家族七名が住所
を広島市a町b番地に有する日本人である旨不実の記載をなさしめ、その頃これを
住民票綴に編綴同市役所宇品出張所に備付けしめて行使したものであるとの旨の事
実を認めたが、住民票は刑法一五七条一項にいわゆる公正証書に当らないから右判
示所為は罪とならないとして無罪を言渡し、原審もまた第一審判決の右見解を正当
とし、検察官の控訴を棄却すべきものとしたことが明らかである。
されば原判決が被告人らの右所為は罪とならず無罪を言渡すべきものとし検察官
の控訴を棄却したのは相当でない。検察官の論旨は理由があり、原判決中右の部分
は破棄を免れない。
よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官垂水克己の意見があるほか裁判官全員一致の意見によるもので
ある。
- 1 -
裁判官垂水克己の意見は次のとおりである。
私は、論旨についてではないが、本件を一審でなく原審に差し戻すべきものとす
ることに賛成である点について意見を附加する。
一審判決は、上告受理申立のあつた部分につき、単に公訴事実は罪とならないと
して法律点のみの判断をしているのでなく、証拠に基き公訴事実の存在を認め事実
判断をした上この事実は罪とならないとの法律判断をして無罪を言渡したのである。
この事実判断は控訴審で何れの当事者からも争われず事実誤認又は事実認定手続の
違法違憲があるとの主張はなされていない。法律判断に対してのみ検察官から控訴
があつた。この場合、控訴審としては、もちろん、事実点について一審判決を職権
調査し、事実誤認又は事実認定手続の違法違憲を発見したときは一審判決を破棄す
ることはできるが、それをしない以上、一審が判決の基礎とした右事実をもつて有
罪又は無罪の法律判断の基礎とし、これを有罪とするにおいてはこれに基いて量刑
の上刑を言渡すをもつて足りる筈である。
記録によれば、被告人に対する起訴状には刑法一五七条一項、一五八条一項の罰
条、罪名とともに一審判決理由末段「一部無罪」と題する部分に認めたのと同一事
実の記載があり、一審公判廷では公訴事実につき被告人は事実は相違ない旨陳述し、
次いで検察官の申請による書類、書面等(一審判決が右「一部無罪」部分の事実を
認める資料としたすべての証拠を含む)については被告人はこれらを証拠とするこ
とに同意しており、その他の証拠調がすべて適式に行われたことが明らかである。
その他、記録によれば、一審公判では、被告人は右「一部無罪」部分の事実を認
められるについても、この事実をかりに有罪と判断されるとしてもこれについて防
禦権の行使を妨げられた事跡は認められない。そして、一審判決の右無罪部分中の
事実判断の部分はこれを有罪判決における事実認定とするを妨げないだけの充分な
厳格証拠の綜合によつて採証法違反なくなされていること明らかである。
- 2 -
かような関係の場合であるから、本件を一審にまで差戻すべき訴訟上の利益はな
く、本判決の趣旨に従つて擬律の上量刑し刑の言渡をさせるためこれを原審に差戻
すのが相当だろうと思われる。
検察官 村上朝一公判出席
昭和三六年六月二〇日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 石 坂 修 一
裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 高 橋 潔
- 3 -