大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和34(あ)259 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

被告人の上告趣意第一、第二、第六、第七及び第九点について。

論旨はすべて、証拠の取捨判断について原審を非難し或は原審の事実誤認、訴訟

法違反を主張するに帰するのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について。

論旨は、原審の憲法三七条一、二項違反を主張する。しかし、憲法三七条一項所

定の「公平なる裁判所の裁判」とは、組織及び構成において偏頗のおそれのない裁

判所の裁判を意味し、具体的事件について、法律の誤解、事実誤認又は取調不十分

等があつたとしても、同条項違反のあるものとなし得ないことは、当裁判所の判例

の趣旨とするところである。(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法

廷判決、集二巻五号四四七頁、昭和二六年(あ)第三〇五一号同二七年一月一一日

第二小法廷判決、集六巻一号八〇頁参照。)また、憲法三七条二項は、裁判所が被

告人又は弁護人の申請した証人を、不必要と思料するものまでも悉く尋問するを要

する趣旨でないことも亦、当裁判所の判例の示すところである。(昭和二二年(れ)

第二三〇号同二三年七月二九日大法廷判決、集二巻九号一〇四五頁参照。)したが

つて、所論の如き事由を以つて、原判決が憲法三七条一、二項に違反するものとは

なし得ない。

論旨は理由がない。

同第四点について。

論旨前半は、第一審判決後、公判調書閲覧願を、ついで控訴審判決後、公判記録

閲覧申請をそれぞれ提出したにも拘らず、いづれに対しても裁判所の回答なく、後

者の場合、公判調書についての異議申立期間を経過する結果に至らしめたのは、被

- 1 -

告人の防禦権の行使を妨げ、刑事訴訟法に違反し、引いては憲法に定めた基本的人

権を侵害し、正義に反することゝなる旨主張する。

しかし、第一審判決後、公判調書閲覧願が提出せられ、これに対する裁判所の回

答がなかつたか否かは、記録上明かでないばかりでなく、かゝる事由は、控訴趣意

として主張されて居らず、原審も亦何ら判断して居らぬから、適法な上告理由とな

らない。また被告人が原判決後、公判記録閲覧申請(公判調書の閲覧を申請したも

のと認められる。被告人本人には、公判調書以外の公判記録を閲覧する権利はない。)

をしたにも拘らず、控訴審において、公判調書を閲覧させなかつたのは、妥当では

ない。

そこで職権を以つて調査するに、同閲覧申請が原審に受付けられたのは、昭和三

四年一月二八日であり、原審の最終公判期日(判決宣告)は、同月一三日であつた

ことが明かにされたから、刑訴五一条一項により、公判調書の記載の正確性につき

異議を申立てたにしても、同条二項に定める一四日の異議申立期間経過後であり、

既に公判調書の正確性を争えなくなつた後であつたことは、疑ない。かつ原審より

被告人に対し、所論の申請を最高裁判所になすべき旨の同月二八日附回答(原審に

おいての公判調書閲覧拒否と解すべきもの)を発送し、これが昭和三四年一月三〇

日被告人に到達して居ることは、被告人の認める所である。それにも拘らず被告人

は、当裁判所において被告人のため弁護人を選任し、被告人自身公判調書を閲覧す

る権利を喪失するに至るまで、この回答に対し何等異議を述べた形跡がない。しか

も、当審において国選弁護人が記録を精査して、上告趣意書を作成提出して居る。

かゝる場合、被告人をして公判調書を閲覧せしめなかつたとの一事を以つて、直

ちに、被告人の防禦権の行使を妨げたものとはいえないのであつて、違憲の主張は

その前提を欠くのみならず、判決に影響する手続違反があつて、原判決を破棄しな

ければ著しく正義に反するものとも認められない。

- 2 -

論旨後半は単なる法令違反、事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に

当らない。

論旨はすべて採用できない。

同第五点について。

諭旨は、原審の憲法一一条違反を主張するけれども、その実質は訴訟法違反、事

実誤認を以つて原審を攻撃し、原審の証拠判断を非難するに帰するのであつて、刑

訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第八点について。

論旨中、被告人を逮捕した手続の違憲、違法を主張する部分があるけれども、所

論の如き場合、逮捕の違憲、違法そのものを、上告理由とすることのできないこと

は、当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭和二三年(れ)第七七四号同

二三年一二月一日大法廷判決、集二巻一三号一六七九頁参照。)それのみならず、

記録を精査しても、本件逮捕が、所論の如く刑訴二一二条に違反するとせらるべき

事由を認むるに足る資料がない。

その余の部分は、違憲をも主張するけれども、原判決のどこが、憲法のどの条規

に違反するかを明かにして居らぬばかりでなく、その実質は、訴訟法違反、事実誤

認の主張を出ないのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

論旨は、すべて採用できない。

弁護人北村巖の上告趣意について。

論旨は、事実誤認、訴訟法違反の主張に帰するのであつて刑訴四〇五条の上告理

由に当らない。

また記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとお

り判決する。

- 3 -

昭和三四年六月三〇日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 石 坂 修 一

裁判官 島 保

裁判官 河 村 又 介

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 高 橋 潔

- 4 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!