大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和34(オ)1254 判決

主 文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理 由

上告代理人美村貞夫、同八巻忠蔵、同山下義則の上告理由第一点について。

原判決の認定した事実によれば、上告人(被控訴人)会社取締役Dは昭和三元年

一〇月頃被上告人(控訴人)Bに、いずれも振出人訴外E株式会社、名宛人、裏書

人上告会社、その他の記載原判示のとおりの(一)額面金四三万三、八○○円、支

払期日昭和三二年一月二四日(二)額面金三六万七、八九〇円、支払期日昭和三二

年一月二八日の約束手形各一通をもつて木材を購入してこれを売却する方法で右手

形を現金化しその現金を上告会社に得させることを依頼して右手形二通を交付した、

被上告人は(これを承諾して受取つた上)右(一)の手形を訴外F木材株式会社に

譲渡して若干の木材を買受けて引渡を受け訴外G農林株式会社の市場でこれを売却

したが幾許の代金を入手したかは確認できない、又(二)の手形は被上告人が訴外

Hに対する債務の支払のために譲渡したが、これはその満期に振出人E株式会社に

より支払われているというのである。(上告会社が右手形二通の受取人となつた原

因関係事情については主張、認定がない。)

右事実関係によれば、(二)の手形については満期に支払われたことにより手形

関係は消滅し上告会社はその手形上の権利を喪つたものというべきこと論旨二所論

のとおりであり、殊に本件では、支払にあたり手形に受取を証する記載がなされて

いることを認めうる証拠方法(甲三号証)があるから、これによるときは右手形は

その支払をもつて何人にも対抗しうるものとなつたということができる。

そして、被上告人は上告会社から右手形を換金する趣旨の委任を受けていたのに

被上告人はその義務を履行しなかつたのであるから、右(二)の手形が支払われた

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結果、手形を換金すべき被上告人の受任義務は、その責に帰すべき事由により履行

不能となつたものと解すべく、右履行不能は、特段の事情なき限り、手形の満期に

おける支払の時に、生じたのであり、その損害額は当時手形の有していた交換価格、

すなわち手形額面に等しい金額ということができる。若し右手形の満期前における

Hの被上告人からの譲受が手形法一六条二項所定の善意取得の要件を具えていたと

すれば、その時に履行不能が生じ、その損害額は当時割引によつてうべかりし金額

相当のものであるといわねばならない(手形額面相当金額とはいえない。)

要するに、上告会社が訴外E株式会社から原因関係に基づく人的抗弁をもつて対

抗されるような事実関係が主張立証されていない右認定事実関係のもとでは上告会

社は(二)の手形額面に相当する損害を蒙つたものというを妨げないから原判決は

右の点において違法であり、論旨は理由がある。

同第二点について。

上告理由第一点が理由ある以上原審における釈明を行わなかつたことの違法をい

う所論については判断の要をみない。

同第三点について。

原判決は上告会社取締役Dは被上告人に判示手形二通をもつて木材購入売却の方

法で手形を現金化しその現金を上告会社に得させることを依頼して右手形二通を交

付した事実を認めながら「しかし何時までに行われ又何程の現金が上告会社に交付

せられるべきかについての約定はこれを認めるに足る証拠はない」旨判示したこと

は所論のとおりである。けれども、一般に、手形所持人が他人を介して手形の割引

をえようとする場合、その他人との間の委任契約においては、委任事務の履行期な

いし手形所持人に交付すべき金額を特定することは困難な場合が多く、遅くとも何

日までに、少くとも金何円という程度の約定がなされうるに過ぎず、その時期及び

金額は手形の満期及び額面金額等によつておのずから制限を受けるのを常とする。

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従つて、右認定のような委任契約における受任者が委任者に交付すべき金額、期限

等の約定の存否の判断に当つては右のことを考慮にいれなければならない。本件の

場合、上告人は原審において委任事務の履行期は「契約成立の日から一週間後の約」

と主張し、金額については「手形金相当の木材の購入代金額」と解される主張もし

ているとみることができるのであり、右委任事務履行の時期、金額の約定並びに委

任事務履行として被上告人が売却した木材の数量、金額等について論旨に引用する

ような証拠方法があることは記録上明らかである。してみれば、原審が、委任契約

の内容に関し前記のように判示した上、「売却した品質数量等を確めるに足る資料

なく又これにより幾何の代金を入手したかを確認するに足る証拠はない」として上

告会社の請求を排斥した原判決には、審理不尽、理由不備の違法があり、論旨は理

由があるものといわねばならない。

よつて原判決を破棄し更に審理をなさしめるため本件を原裁判所に差戻すべきも

のとし、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 垂 水 克 己

裁判官 河 村 又 介

裁判官 石 坂 修 一

裁判官 五 鬼 上 堅 磐

裁判官 横 田 正 俊

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