大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和34(オ)797 判決

主 文

原判決中第一目録の木造瓦葺二階建工場一棟建坪二八坪外二階坪二一坪

につき所有権が被上告人にあることを確認し上告人に対し所有権移転登記手続を命

じた部分を破棄する。

原判決中その余の部分に対する上告を棄却する。

訴訟費用は第一、二、三審を通じ上告人の負担とする。

理 由

上告人の上告理由第一点について。

原判決は、上告人自身がその主張のような弁済供託をした事実は認定できず、挙

示の証拠によれば、被上告人は本件(一)の不動産の所有権を取得した後、判示の

ような経緯から、訴外Aに対し、右不動産のうち土蔵一棟を取毀物件として代金八

万五、○○○円で売却する契約を締結したが、Aが、右代金に相当する金員を、上

告人の被上告人に対する抵当債務一五万円の内金として代位弁済すると称して、弁

済供託する挙に出たので、被上告人は、右供託金を受領するとともに、Aに対し、

これを前示売買代金として受領する旨の領収証を交付したことが認められる旨判示

したのである。論旨は、上告人が原審認定のごとき弁済供託の事実を主張したもの

のごとくいつて、叙上判示に理由そごの違法ありと論難するが、上告人がそのよう

な主張をした形迹を認め難い以上、論旨は採用できない。

同第二点について。

Aが前示弁済供託をしたのは、被上告人がすでに本件(一)の不動産の所有権を

取得した後であること、右弁済供託は判示のような経緯によってなされたものであ

ることおよび被上告人が右弁済供託受諾後、Aに対し判示のような趣旨で領収証を

交付したこと等原審が認定した事実関係のもとにおいては、被上告人が右弁済供託

金を受領したからといつて、直ちに、本件(一)の不動産の所有権を放棄したと認

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めなければならないものではない。原判決には理由不備、理由そごの違法はなく、

論旨は採用できない。

同第三点について。

原判決挙示の証拠によれば、所論乙第三号証は上告人が被上告人の印章を冒用し

て作成したものと推認しうる旨の原審の認定は是認しえられなくはない(原判決事

実摘示には「乙第三号証は印影の真正であることは認める」旨の被上告人の陳述が

掲記されているが、記録に徴すれば、被上告人は乙第三号証の印影が、自己の印章

によつて顕出されたものであることこそ認めているが、自己の意思に基づいて成立

したことを極力争うものであることが窺われ、原審もその趣旨を汲んで、乙第三号

証の印影の成立の真否を審究し、上記のような認定に到達したものと解せられる)。

右のごとく文書の印影が、名義人の印章を冒用して他人において顕出した事情が明

らかになつた以上、民訴三二六条の規定を適用して文書の成立の真正を推定するに

由ないものといわなければならない(所論引用の判例は本件に適切でない)。それ

故原判決には所論の違法はない。その余の論旨は、乙第三号証の成立に関し、原審

の認定しない事実を述べて、原判決を攻撃するものであり、結局、論旨はすべて採

用できない。

同第四、第五、第七、第八、第九、第一〇点について。

所論は、すべて、原審がその裁量の範囲内においてなした証拠の取捨判断ないし

事実の認定を非難するものであり、上告適法の理由となし難い。

同第六点について。

記録によれば、被上告人は、第一審以来、本件(一)の不動産につき所有権の確

認と所有権移転登記手続を請求してきたところ、原審の昭和三三年七月九日の口頭

弁論期日において、同年六月三日付控訴の趣旨変更申立書に基づき、目的物件中か

ら主文第一項掲記の工場一棟を削除する旨陳述したことが明らかであり、右は、口

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頭弁論期日においてなされた訴の一部取下とみるべきであるが、右期日に出頭した

上告人の原審訴訟代理人らにおいて、三ヵ月間内に異議を述べた事跡が認められな

いから、右取下に同意したものとみなされ、取下は効力を生じたものといわなけれ

ばならない。そうすると、原審が前示工場について所有権確認ならびに所有権移転

登記手続を命ずる判決をしたことは、当事者の申し立てない事項につき判決した違

法があるといわなければならない。この点に関する論旨は理由があり、原判決中右

の部分は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九二条但書に従

い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 石 坂 修 一

裁判官 河 村 又 介

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 五 鬼 上 堅 磐

裁判官 横 田 正 俊

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