大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35(オ)1360 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人矢留文雄の上告理由第一点ないし同第四点について。

原審は、挙示の証拠により確定した事実に基づき、本件各約束手形の振出人欄の

ゴム印押捺部分の表示とB名下の印章押捺部分の表示との全体を綜合して、有限会

社D洋装店の代表取締役であるBが同会社の代表者として本件各約束手形を振出し

たこと、即ち本件各約束手形の振出人が右会社であると判断しているのであつて、

右判断は正当として肯認できるものであるから、所論はすべて理由がない。

同第五点について。

手形の振出人が何人であるかは、手形面の記載を外観から判断して客観的に決定

すべきものであるから、本件各約束手形の振出人欄の記載に用いられたゴム印が、

被上告人の個人営業の際に使用されたものであつたとしても、右決定についてその

ような事情を考慮すべきものではなく、原判決は、右ゴム印押捺部分とB名下の印

章押捺部分との全体を綜合して、有限会社D洋装店を本件各約束手形の振出人と判

断しているのであるから、所論のような違法はなく、論旨は採用できない。

同第六点について。

本件各約束手形の振出人が有限会社D洋装店であるとの原判決の判断が正当であ

ることは、前記説示のとおりであり、所論は結局、独自の見解に基づき原審の判断

を非難するに過ぎないから、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官横田正俊の補足意見ある

外裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

上告代理人矢留文雄の上告理由に対する横田裁判官の補足意見は次のとおりであ

- 1 -

る。

原判決によれば、原審は、本件各手形の振出人欄には判示のごとき記載とともに

「B」なる記名があるが、その名下の印章は「有限会社D洋装店代表取締役印」な

る職印であることが明白であつて、とうていB個人の印章とは認められないから、

右の記名捺印を包括して見るときは、これを被上告人個人の記名捺印と認めること

はできないと判示しているのであり、右判断はこれを肯認するに足る。単に個人の

氏名を記載して文書を作成すれば印章のいかんを問わず個人としての責任を負うべ

きであるとの所論は、手形法により行為の形式として行為者本人の署名又は記名捺

印が厳に要求されている手形行為の場合には通用しない独自の見解であつて、採用

のかぎりでない。また、原判決は前示判断に続いて本件各手形が前示訴外会社の振

出したものと認められるかどうかについても判示しているが、右は、本訴請求の当

否を判定するにつき必要のない判断であり、その判断の適否は原判決の結論に影響

を及ぼすものではない。されば、上告人の論旨中右判断を非難する部分が適法な上

告理由となりえないことは自ら明らかである。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 河 村 又 介

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 石 坂 修 一

裁判官 横 田 正 俊

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!