最高裁判所第三小法廷 昭和35(オ)138 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人立入庄司の上告理由第一点について。
(イ) 上告人は、原審において、訴外Dは上告会社(被控訴会社)の販売課長
および営業部次長として、Eは取締役兼営業部次長の資格で、被上告人(控訴人)
に対し、上告会社名古屋営業所の取引一切は営業所長である訴外Fに任せてある旨
告げた事実がある旨主張し、これに対し、原判決が所論(1)の部分に摘録したと
おり認定判示したことは所論のとおりである。しかし、右判示事実と上告人の前示
主張事実を対比すれば、いまだ両事実の間に社会観念上同一性がないとはいえない
から、原審が当事者の主張しない事実に基づいて判断したとはいえず、また、原判
決が民訴一九一条に違背するとは認められない。
(ロ) 原審の右認定が実験則上ありえない事項を肯認したものとはいえない。
所論はいずれも採用できない。
同第二点について。
(一) 所論(a)(b)の点に関し、原審は、被上告人は上告会社の五〇周年
記念披露会に出席し、昭和二八年五月頃上告会社の資産が五、〇〇〇万円、一期の
売上高が一億円に上つていたことを知つたことを認めることができるが、右事実あ
ればとて、上告会社が金策することはありうることであるし、本件貸借当時は一般
に金詰りであつて、上告会社もその例外でなかつたことならびに一般の金融状況が
右のような状態であつたため、本件の利息も一般の手形割引料率に比較して必らず
しも高率でなかつたことが認められ、また、本件貸借に際し、被上告人から、訟外
Fに対し、上告会社の商品を売つて金融をつけたらどうかという話の出たことは明
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らかであるが、右事実はむしろ借主が上告会社であることを推定する資料と認める
ことができ、さらに、上告会社は遠隔の地にあるが、その名古屋営業所と訟外G紡
績株式会社との間には取引関係があり、被上告人は右訴外会社の資材課長として取
引の衝にあたつていたものであり、当初Fから右訟外会社に金借の申込があつたが、
拒絶されたため被上告人個人に金借の申込がなされたものであり、当時金融事情が
ひつ迫していた以上、被上告人個人に対し貸借の申込がなされたとしても必らずし
も不自然ではなく、叙上によれば、被上告人が上告会社の資産、売上高を知つてい
た事実、本件利息の利率が判示のとおりである事実、本件貸借に際し、被上告人が
Fに対し金融を得る方策として上告会社の商品の売却をすすめた事実、上告会社が
遠隔の地にある事実は、いまだもつて、被上告人において、Fが上告会社を代理し
て本件貸借をする権限があると信ずべき正当の理由あることおよび被上告人の善意
無過失であることを否定すべき資料とし難い旨判断したのである。右判断は正当で
あり、所論のような違法があることは認められない。所論は採用できない(所論引
用の判例は本件に適切でない)。
所論(c)の点について、所論a工場の預証が昭和二六年一一月頃のものである
からといつて、Fが右預証を被上告人に示した事実をもつて、Fに代理権ありと信
ずべき正当の理由の一資料としえないものではなく、また、原判決挙示の証拠によ
れば、昭和二九年五、六月頃一般に金融事情がひつ迫していた旨の認定は是認でき
る。所論は独自の見解に立つて原審の判断を攻撃し、かつ、原審が適法にした事実
の認定を非難するものであり、採用できない。
同第三点について。
Fが上告会社の販売員として被上告人の勤務先のG紡績株式会社のb工場に毎月
何回か訪れていたから、その時金借の話をすることができたとの点は、原審の認定
しない事実であり、所論は該事実に依拠して、引用の原審の認定判示の所論の違法
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があるというにすぎず、これを採用できない。
同第四点について。
原判決が、Fが被上告人に対し、銀行に届け出でてある印鑑証明の添付してある
委任状を呈示したとの事実を挙げたのは、本件貸借に際し、FがH銀行およびI銀
行から交付を受けた小切手帖を示した事実、被上告人がFから受け取つた小切手に
は「A油脂化学工業株式会社名古屋営業所之印」なる角印(G紡績株式会社に取引
用として届け出でてあつたもの)および上告会社名古屋営業所長Fなるゴム印が押
捺され、その名下にFの実印が押捺され、右印はすべて被上告人が取引上見て知つ
ていた事実および小切手帖の控には割印として右Fの実印が残つていた事実とあい
まつて、これをFに代理権ありと信ずべき正当の理由の一と判断した趣旨であるこ
とが明らかであり、右判断は正当として是認できる。該委任状が昭和二六年八月一
四日付のものであつたとしても、直ちに右判断の正当性を左右するものとは認めら
れず、これに反する所論(a)は独自の見解であつて、採用できない(所論引用の
判例は、大審院民事聯合部昭和一九年一二月二二日判決、民集二三巻六二六頁をも
つて変更され、後者は最高裁判所第二小法廷昭和三二年一一月二九日判決、民集一
一巻一九九四頁によつて踏襲されているものである)。
また、Fが委任状等を呈示したのは被上告人が同人の代理権の有無につき疑問を
抱いたからであるとの点は原審の認定しないところであるから、該事実に依拠して
被上告人の過失を主張する論旨(b)も失当であり、採用できない。
同第五、六、七点について。
所論引用の各判示事実をもつて、Fに代理権ありと信ずべき正当の理由にあたる
とした原審の判断は正当であり、これに反する所見のもとに原判決を非難する所論
はいずれも採用できない(所論引用の判例は本件に適切でない)。
同第八点について。
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原判決の判断は所論(a)引用の判例と相反することなく、また、原判示を正読
すれば所論(b)にいう理由そごの違法がないこと明白である。所論は採用できな
い。
同第九点について。
所論引用の原審の判断は正当である。原判決によれば、被上告人は上告会社の披
露会に出席し昭和二八年五月頃上告会社の資産が五、〇〇〇万円、一期の売上高が
一億円に上つていたことを知つたというのであるから、別段の事情がないかぎり、
被上告人は本件貸借にあたりあらためて上告会社の営業規模、財産状況等を確かめ
る義務あるものとはいえない。また、被上告人が前示のとおり上告会社の資産、売
上高を知つた事実があればとて、上告会社が金借することはありうること原判示の
とおりである。
右と異なる見地に立つて被上告人の過失を主張し、原判決に違法があるとする所
論は採用できない(所論引用の判例は本件に適切でない)。
同第一〇点について。
所論引用の原審の判断は正当である。所論(イ)(ハ)はFの代理権限につき原
審の認定したところと相容れない事実を前提として被上告人に過失があつたと主張
するものでしかなく、採用できない(所論(ロ)引用の判例は本件に適切でない)。
同第一一点について。
所論(1)(2)(4)については、所論第二点につき示した判断と同様であり、
再説の要をみない。所論(3)については、原判決は、本件貸借はFが上告会社の
代理人として申し込んだ旨判示しているのであるから、もとより所論民訴法の規定
の違背はない。所論は採用できない。
同第一二点について。
原審の証拠関係に照らすと、被上告人が七パーセントのリべートを受領していた
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ことを認めるに足りない旨の判断は是認できる。所論は原審が適法にした証拠の取
捨判断ならびに事実の認定を非難するものであり、採用できない。
同第一三点について。
所論(イ)は、所論第二点に対して示したと同一の理由から採用できない。所論
(ロ)引用の原審の判断は正当であり、所論は原審の認定しない事実に依拠し、独
自の見解のもとにこれを非難するにすぎず、採用できない。所論(ハ)摘記の原審
の判断も正当であり、所論は採用できない(引用の判例は本件に適切でない)。
同第一四点について。
(二) 民法一一〇条の正当の理由は必らずしも本人の作為または不作為による
ものであることを必要としないのみならず、本件はむしろ、上告会社がFに対し銀
行取引の権限を与え、あるいは、同人に不正行為があつたにもかかわらず、これを
ひた隠しに隠していた上告会社の行為に基因するものであるとして、上告会社の主
張を排斥した原審の判断は正当である。所論(1)引用の大審院判例の趣旨とする
ところは当裁判所の採用しないところであり(最高裁判所第一小法廷昭和二八年一
二月三日判決、民集七巻二三一一頁参照)、右原審の判断の正当性を左右しない。
また、所論(2)は判決に影響を及ぼさず、かつ、原審の認定していない事実を前
提とするものであり、採用できない。
同第一五点について。
所論引用の原審の判断は正当であり、理由不備の違法も見出し難い。所論は採用
できない(なお所論は引用の判例の趣旨を正解しないものである)。
同第一六点について。
論旨は、民事事件において、高等裁判所が上告裁判所としてした判決に相反する
判断をしたことをもつて独立の上告理由としうるとする誤解に出でるものであり、
採用するに由ない。
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よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 石 坂 修 一
裁判官 五 鬼 上 堅 磐
裁判官 横 田 正 俊
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