最高裁判所第三小法廷 昭和36(オ)206 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人小松正次郎の上告理由第一点について。
所論は、原判決は、控訴人(被告、上告人)が本件約束手形を振出したことを自
白したと判示するが、約束手形振出の自白は、「法律行為」の自白であつて「事実
行為」の自白ではないから、自白に拘束力はない。原判決は、上告人の右自白の取
消を許さなかつたのは、法令違背、審理不尽、理由不備である、という。
しかし、「振出を認める」ということは、振出行為即ち、本件約束手形の振出を
構成する事実行為を認める趣旨に帰着するから、原判決には所論のような違法はな
い。
同第二点について。
所論は、「上告人は、乙一号証手形の対価として別に一万六〇〇〇円を払つてい
るから、甲一号証手形(本件手形)は、乙一号証手形と対価関係に立つ交換手形で
はない。」との上告人の原審における主張につき、原判決は判断を遺脱した。また、
甲一号証手形は乙一号証手形と対価関係に立つ交換手形であるとの認定は、経験法
則違反であり、審理不尽、理由不備である。かつ、甲一号証の認否に関する自白の
取消の主張について判断を遺脱したというのであるが、原判決は、甲一号証手形と
乙一号証手形とは対価関係に立つとはいつていない。ただ交換手形であるといつて
いるにすぎない。訴外D株式会社が乙一号証手形の支払を余儀なくされる場合に備
えて、その求償権の担保として甲一号証手形を交換手形とする場合もあり、この場
合は別個に謝礼金が払われたからといつて別に経験則違反はありえないし、また、
原判決は判示の事実認定に際し、謝礼金のことについてふれなかつたからといつて
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判断遺脱があるとはいえない。なお、原判決は、甲一号証の成立を上告人の自白に
よらず証拠により認定しているのであるから、この点に関し原判決の違法をいう所
論はその前提を欠く。原判決に所論の違法はない。
同第三点について。
所論は、原判決は、本件手形は上告会社の代表者Eが専務取締役Fに手形振出の
代理権を授与し、FはGを機関として手形を振出した旨認定したのは証拠によらな
い事実認定である、というが、原判決挙示の証拠、ことに原判決認定のGがFの命
により正式の様式を備えた手形を発行している事実に徴し判示のような事実認定が
肯認できなくはないから、原判決に所論の違法がない。
同第四点について。
所論は、原判決は、上告会社内部の手形振出に関する厳重な手続を履践していな
い本件手形をもつて、「交換手形」として振出されたものであると認定し、これが
単なる受取証にすぎないとの上告人の主張を排斥したのは、経験則違反、審理不尽、
理由不備である、というが、原判決は、上告会社が、上告会社内部の手形振出の手
続を践まなかつた理由について説示しており、これによれば、原判決の前記事実認
定は肯認できるから、原判決に所論の違法があるとはいえない。
同第五点について。
所論は、上告人は原審において、被上告人は訴外D株式会社に対し何ら債権を有
しないのに本件手形を取得したものであると主張し、また、被上告人が右Dに対し
債権を有していたとの自白は取消すと述べたのに、原判決はこれらに対する判断を
遺脱したというが、右の点は手形譲渡禁止の特約に関する被上告人の悪意の有無認
定のための徴憑事実に関するものであつて、徴憑事実に関する主張に対する判断は
明示的に判示する必要がなく、原判決は、証拠により被上告人の善意を認定立てい
る以上、原判決に所論の違法があるとすることはできない。
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同第六点について。
所論は、信託法一一条違反の主張につき、これを立証する有力な書証(乙六号証
二)があるのに、その記載に反する事実認定をした、というのであるが、原審にお
ける被上告会社代表取締役本人の供述に照し乙六号証の趣旨を原判決判示のように
解した原審の判断を違法とすることはできないから、原判決に明白な書証に反する
違法があるとすることはできない。所論指摘の判例は本件に適切でない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 五 鬼 上 堅 磐
裁判官 河 村 又 介
裁判官 垂 水 克 己
裁判官 石 坂 修 一
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