大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和38(オ)1399 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人長谷川豊次の上告理由第一点について。

原判決の認定したところによれば、本件aノb番地宅地二三坪六勺には、上告人

がその売渡を受ける以前から訴外Dが所有し居住する木造二階建家屋が存在し、そ

の敷地につき同人と地主E等との間に一一坪七合の賃貸借が存続していたのであり、

また同地につき右Dと上告人との間には各自の賃借部分の範囲、その境界に争があ

り、被上告人の本件売渡取消に際しても、その測量について上告人の協力がえられ

ず、売渡を取り消すべき区域を明確にすることができなかつたため、やむをえず一

筆全部にわたり取消処分がなされたというのである。自作農創設特別措置法二九条

により、自作農となるべき者の申込によつてこれに売り渡さるべき宅地は、その者

が賃借権等使用権原を有し、かつその農業経営上必要なものに限らるべきは同法一

五条に徴し明らかであるから、右Dの所有建物の敷地の部分までを含めて上告人に

売り渡した被上告人の処分の瑕疵は重大であり、かつ相当明白なものであつたこと

が窺われる。従つて、このような瑕疵が判明する以上、被上告人は速かにその是正

をなすべきであり、上告人の協力がえられないため売渡を取り消すべき範囲を明確

にできないというだけで、その瑕疵を不問に付すべきではない。されば、そのため

にやむをえず右土地の全筆にわたつてした本件取消を必ずしも失当とはなしがたい。

論旨は、本件売渡取消処分は、右aノb番地宅地のほか、併せて上告人に売り渡

されたaノc番地宅地六七坪についても一括してなされたものであり、後者の土地

についても三坪の第三者の建物敷地たる賃借部分が含まれ、その売渡には前者の売

渡と同様の瑕疵があることは原判決の認めるところであるのにもかかわらず、同判

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決が右取消処分を各筆別に審査し、前者の分については適法、後者の分については

違法と判断したのは、理由に齟齬があるものという。しかし本件売渡取消の理由と

された第三者の賃借地は、売り渡された各筆につきそれぞれ関連なく別個に存する

ものであり、他面一個の売渡処分でも、少くとも売渡地各筆別ならば、その取消を

可分的に行ないえないものではない。そこで原判決は、本件売渡処分のもつとも著

しい瑕疵は前叙Dの家屋敷地の看過にあるものとし、この点の是正の必要と売渡の

取消によつて生ずる諸影響とをまず審査し、その取消の範囲をaノb番地の宅地売

渡に限るならば、被上告人の措置は相当として是認できないものではないと判断し

たものと認められる。従つて、これと別個の瑕疵の審査によつてなされたaノc番

地宅地の売渡取消についての判断との間に相異がみられるとしても、異とするに足

りない。論旨は採用できない。

同第二点について。

原審において被上告人は本件売渡取消処分の適法なこと、すなわち売渡処分に取

消に値する瑕疵あることの理由として、売渡地に第三者の賃借部分並びに地主が何

人にも賃貸しない部分合計一六坪八合一勺存する旨を主張したのであり、この事実

については、被上告人に主張立証の責あるところと認められる。これに対し、上告

人は右被上告人の主張を否認し、本件売渡地二筆の全部九〇坪六勺につきその亡父

F以来賃借権を有した旨を主張したのであるから、原判決は、上告人の亡父が本件

売渡地につき少くとも七三坪二合五勺の賃借権を有していたことは当事者間に争が

ないものとしたうえ、被上告人の主張を審査して、訴外D等の賃借部分の存在をそ

の挙示する証拠に基づいて認定し、その限度において上告人の主張を認めず、上告

人の立証によつても右の認定を左右しがたい旨を判示したのである。従つて、原判

決が前叙上告人の主張および立証を無視し、提出の証拠になんら判断を示さない違

法があるものとする所論は、理由がない。

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なお論旨は、原判決が上告人の提出に係る甲第一二号証、同第一三号証、同第一

七号の一、同第一号証、同第二号証等の各書証を排斥するについて首肯するに足り

る理由を示していないのは、判例違反であり、採証の法則を誤つものと主張する。

しかし、それら書証はそれだけでは上告人の主張事実そのままを確認するに足りる

ものとはなしがたく、原判決がそれら証拠をもつてはその認定を左右しえないと判

断したとしても、それがなんら経験則上異例な事実認定をしたことになるものとは

認められない。従つて、それら書証を排斥するのについて、所論のような説示をす

るまでもないのであつて、論旨引用の当裁判所裁判例は、この場合について適切で

はない。論旨は採用しがたい。

同第三点について。

被上告人が、本件aノb番地宅地の一部を訴外Dが賃借し家屋を所有していた事

実を知りながら、あえて同地の全部を上告人のために買収、売渡をしたものとは到

底認めえないことは、原判決の判示するところである。従つて、処分庁が処分当時

すでに知りえた処分の瑕疵を理由としてその処分を取り消すことは、禁反言の原則

に違背する旨の論旨は採用できない。

論旨は、そのほか、本件売渡取消処分は、売渡後八年も経過してなされ、その間

上告人は売渡地を自己の所有として公租を負担し、農業経営に使用してきた事実を

あげて、右取消処分を上告人に過大の犠牲を強いる違法のものと主張する。しかし

本件売渡の取消は、もともと自己の農業経営上の用地以外にわたつて買収、売渡を

求めた上告人の行為にも原因するものであるのみならず、それが売渡から長年月を

経た後の取消であるにしても、その間の状況の変化は、訴外Dの所有家屋並びに敷

地の使用関係が訴外Gにそのまま承継されたこと以外に存しないことは、原判決の

認定するところである。またその取消は、右宅地使用関係を売渡処分以前に復帰さ

せるだけで、上告人にその使用権原を失わせるものではない。これら事実と他面そ

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の取消が単に第三者の家屋敷地の使用関係を復旧させるのに役立つにとどまらず、

さきに説示したように、法の趣旨に背馳する売渡処分の重大な瑕疵を排除するため

にやむをえない措置と認めうることに思を致せば、本件aノb番地宅地の売渡の取

消を違法でないとした原判示は相当であつて、これを非難する所論は肯認しがたい。

なお論旨は、被上告人が本件売渡の取消処分のみを行ない、その前提をなす買収

処分の取消に及んでいない点を指摘して失当というが、買収処分の取消がまだ行な

われていないからといつて本件取消処分が違法となる理由のないことは、多言を要

しない。

論旨はいずれも採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の

とおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 横 田 正 俊

裁判官 五 鬼 上 堅 磐

裁判官 柏 原 語 六

裁判官 田 中 二 郎

裁判官 下 村 三 郎

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