大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和38(オ)222 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人河野春吉、同日笠豊の上告理由第一点について。

原審の認定した事実によれば、上告人はその所持していた被上告会社の振出、訴

外D株式会社の裏書にかかる金額五〇万円、満期昭和二八年五月一〇日の約束手形

(本件(1)の約束手形という。)および金額四〇万円、満期昭和二八年四月一〇

日の約束手形(本件(2)の約束手形という。)合計二通を、それぞれその満期の

頃、訴外会社の代表取締役Eに欺かれて、被上告会社振出名義の偽造手形二通(甲

第二号証の一、二)と引き替えに、これを書き換えて、Eに交付し、次いで、同人

は被上告会社にこれを返却したが、右手形書換契約は、書換手形が真正であると思

い誤つた上告人の要素の錯誤に基づくものである、というのである。右事実関係の

もとにおいては、上告人が本件(1)(2)の約束手形の所持を失つたからといつ

て、手形上の権利を喪失したとはいえず、上告人は右手形を保管している被上告会

社に対し右手形上の権利を行使することができる、とした原審の判断は正当である。

たとい、訴外会社が、石手形振出の際の契約による融通手形返還義務(訴外会社が

満期までに手形を取り戻して振出人たる被上告会社に返還すべき義務)の履行とし

て、これを被上告会社に返還したとしても、訴外会社は、右手形の権利者ではなく、

その権利者は上告人であるから、右返還により被上告会社の手形上の義務は消滅せ

ず、上告人は、被上告会社に対し、手形を所持しなくても、その権利を行使するこ

とができることには変りはない。原判決中このことについて判示がないからといつ

て、いまだ判決に影響を及ぼす程の理由不備、理由そごの違法があるとはいえない。

所論は採用できない。

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同第二点について。

上告人が除権判決を得て、手形の所持なくして権利を行使しうる旨の原判示は、

Eが本件(1)(2)の約束手形を破棄もしくは隠匿したと仮定(実際はかかる事

実はない)したうえでの傍論にすぎないことは原判文をみればすぐ判ることである。

この点を正解しないで理由そごをいう所論の失当であることは明らかである。また、

法令解釈の誤りをいう所論は、右傍論的判示につき、判示の趣旨を誤解して(原料

決は、詐欺を理由に除権判決を求めうる、といつているのではない。)議論を展開

するものであり、採用できない。

同第三点について。

被上告会社が、訴外会社に対し、本件(1)(2)の約束手形の満期後において、

悪意または重大な過失なくして手形金の支払をなし、同訴外会社より本件(1)(

2)の約束手形の返還を受けたとの点は、原審において主張判断を経ていない事項

であるのみならず、仮りに事実がそうであるとしても、これにより被上告会社は、

手形法四〇条により、本件(1)(2)の約束手形債務について免責を受けること

にこそなれ、この際、被上告会社は、手形免責と同時に不当利得償還義務を負担す

るものでないことは明らかである。所論は、原審において主張判断がなく、かつ、

判決に影響のない事項に基づき原判決を非難するものであつて、採用できない。

同第四点ないし第六点について。

時効は永続した一定の事実状態を尊重してこれを法律状態に高め、これにより社

会秩序を維持しようとする制度であり、かかる立場から債務者の消滅時効による利

得を実質的究極的に是認するものである。したがつて、右利得は原則として法律上

の原因に基づくものと解すべきである。本件(1)(2)の約束手形については消

滅時効が完成し、これにより、被上告会社は手形金債務を免れたものであるから、

上告人は被上告会社に対し不当利得償還請求権を有しない。所論の縷々論述すると

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ころは、畢竟、叙上と異なる見解に立脚して原判決の違法をいうものであつて、採

用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の

とおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 五 鬼 上 堅 磐

裁判官 横 田 正 俊

裁判官 柏 原 語 六

裁判官 田 中 二 郎

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