最高裁判所第二小法廷 事件番号不詳 判決
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和二四年一一月二一日札幌高等裁判所凾館支部の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次の通り判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人土家健太郎の上告趣意について
しかし、憲法第二五条にいわゆる国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するというのは、国民一般に対し概括的に健康で文化的な最低限度の生活ができるように国政を運営しなければならないというのであつて、個々の国民に対して具体的、現実的にかかる義務を負担しているものでないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和二三年(れ)第二〇五号同年九月二九日大法廷判決判例集二巻一〇号一、二三五頁)、又憲法第三六条の残虐な刑罰とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味し、法律の範囲内の量刑は、それが被告人の側から見て重い刑であるとしても直ちにこれを残虐な刑罰ということはできないこともまた当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月三〇日大法廷判決判例集二巻七号七七七頁)。
従つて原判決には所論のような憲法違反は存在しない。
その他の論旨は、刑訴法第四〇五条に該当しないし、又同法第四一一条を適用すべき場合とも認められない。
よつて刑訴法第四〇八条に従い口頭弁論を経ないで判決で上告を棄却すべきものと認め、主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
上告趣意書
被告人 為国治男
右の者に対する所得税法違反上告事件につき左の通り上告趣意書を提出致します。
原判決は被告人が作成した月算成績表第十三頁乃至第十五頁の記載を唯一の証拠として同人の昭和二十三年度の所得額は金五十八万百八十五円八十九銭であり、その所得税額は金二十八万七千七百十七円にして、被告が免れたる所得税額は既納所得税額金一万五千二百七円を控除したる金二十七万二千五百七円である事実を認定し罰金六十万円の刑罰を言渡した。
然れども、右月算成績表の記載を見るに収入の部において二月分は利息売上金一万四千六百四十円、三月分金二万四千八百五円五十三銭、四月分金三万三千六百四十六円三十銭といふ風に、又支出の部では税金を除く外一月分生活費として一万千六百二十一円、二月分生活費一万八千二百八十六円六十三銭、三月分生活費一万七千二百八十六円五十銭、四月分二万五千二百七円五十銭といふ風に記載せるに過ぎない。これによつて見れば経験法則上当然必要とする税金以外の営業必要経費が、右支出として計上せる生活費の中に包含せられているものなりや将又別個に存在したものなるや否や全く不明である。
然るに原判決は右実験上明白なる法則を無視して漫然右生活費を以て必要経費なりとしこれを収入金額より差引いた金額を以て所得金額なりと認定したのは結局法規を無視し、証拠に基かずして判決した違法あるは勿論、被告人は一件記録により明かな如く全く同情すべき情況にあり且無資産者となり到底金六十万円の負担能力なきに敢てその科刑をなしたるは憲法に所謂国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障を剥奪せんとする実に残酷なる刑罰と評すべきものなるが故に原判決は憲法違反として破毀せらるべきものと信ずる。
右上告趣意書提出致します。
昭和二十五年二月八日
右弁護人
土家健太郎
最高裁判所第二小法廷 御中