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最高裁判所第二小法廷 平成10年(行ツ)16号 判決 1998年6月22日

東京都新宿区大京町二二番地の五

上告人

アキレス株式会社

右代表者代表取締役

八木健

右訴訟代理人弁護士

宇井正一

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 荒井寿光

右指定代理人

竹内秀明

右当事者間の東京高等裁判所平成八年(行コ)第一四五号異議申立棄却決定に対する処分取消請求事件について、同裁判所が平成九年七月一〇日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宇井正一の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件無効処分及び本件不受理処分が適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成一〇年(行ツ)第一六号 上告人 アキレス株式会社)

上告代理人宇井正一の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈に誤りがあり、また、最高裁判所の判例(昭和四六年(オ)第四七四号事件)に違反した違法がある。

すなわち、代理行為の瑕疵につき、特許法第一六条第二項は「代理権がない者がした手続は、手続をする能力がある本人又は法定代理人が追認することができる。」旨規定しているところ、被上告人から平成四年一〇月二日付で審判請求無効の処分の謄本(「本件無効処分」)が上告人代理人事務所に送達されたため、上告人が平成四年一二月九日付で代理人の代理権を追認する書類(「本件追認書」)を提出したが、これは、本件無効処分において記された不服申立期間である六〇日以内に提出したものである。したがって、本件無効処分は確定していないのであるから、本件追認書が平成五年一月五日付で不受理処分にされた際に付された「無効確定後の差出」なる理由が誤りであることは被上告人も認め、原審も認定するとおりであり、本件追認も、無効処分が確定する前の追認行為として有効であって、これを無効とした原審の判断は特許法第一六条第二項の解釈を誤ったもので、同規定に違反する。

この点につき原審は、『特許法一六条の規定による追認は、追認の対象となるべき手続が却下あるいは無効にされた後はなし得ないと解するのが相当であって、その理由は原判決説示(三七頁一〇行ないし三八頁七行)のとおりである。』と判示する。そこで、第一審の該当部分を見るに、『…特許法一七条二項、一八条は、特許出願、審判請求、その他特許に関する手続が方式に違反していたり、これについて納付すべき手数料を納付しない場合等に、相当の期間を指定してその補正を命じ、その期間内に補正をしない場合には手続を無効にすることができることを規定して、手続な不備について早期にその決着をはかろうとするものである。したがって、無効処分について、原告が主張するように、無効処分が確定するまでは補正が可能であるとすれば、無効処分についての異議申立を経て、取消訴訟が確定するまで補正ができることになってしまい、右のような特許法の趣旨が没却されてしまうことは明らかであり、原告の主張は採用できない。』と述べられている。

しかしながら、行政処分の効力は不服申立手段が尽きたときに確定すべきものであるにもかかわらず、右理由によれば、不服申立が未だ可能な段階で行政処分の効力は事実上確定したものとなり、もはや不服申立は実質的には不可能となる。かかる解釈は不服申立手段があってもこれを事実上無意味に帰するものであって許されない。

そもそも、異議申立期間内における追認は当該行政処分をした行政庁に対する追認であって、これに引き続き提起された抗告訴訟において追認するのとは自ずから異なることは明らかである。

確かに、特許庁における手続につき、異議申立を経て取消訴訟が確定するまで手続が可能であるとすることは不都合であるという原判決の引用する第一審の理由は、例えば「特許請求の範囲の補正」には該当するとしても、本件訴訟において争われている「追認の可否」には該当しない。「追認の可否」は代理権の問題として出願の基礎となる出願人の資格に関する問題であるのに対し、「特許請求の範囲の補正」は出願資格があることを前提とする出願内容の問題であり、両者は議論の前提を異にするものであり、一律に「補正」として論ずることはできないからである。

したがって、代理権の瑕疵につき本人の追認は当該行政庁における不服申立期間内にもすることができると解すべきであり、この点については手続の瑕疵が治癒されれば足りるのであるから、異議立を経て取消訴訟が確定するまで法律状態が不安定であるという反論は当たらない。すなわち、無効処分に対する六〇日という異議申立可能期間内に追認をすれば足りるのであるから、手続的不備の早期決着という特許法の趣旨に悖るものでもない。むしろ、かかる瑕疵の治癒を認めることが発明および出願人の保護という特許法の根本的な趣旨に適合するものであり、これを認めても第三者に不当な不利益を与えるともいえない。

この点で、本件追認書は準司法的手続である特許庁の審判が確定する前に提出されたものであるから、行政事件訴訟を含む訴訟手続において追認は瑕疵ある行為が確定的に排斥されるまでは上告審においても認められるという最高裁判所の判例(昭和四六年(オ)第四七四号事件、昭和四七年九月一日判決、民集二六巻七号一二八九頁)と軌を一にするものであるにもかかわらず、原判決はこれに反するものであって違法である。

なお、原判決は前記理由に続けて『仮にそうでないとしても、追認のの対象となるべき手続(本件でいえば、無権代理人の行為)自体が適法な時期になされていなければ、たとえ追認は適法な時期になされていたとしても、当該手続の効力が生ずる由がないことは当然である』と判示して、追認自体が認められても審判請求理由補充書が補正指令期間内に提出されていないという瑕疵は治癒されない旨述べている。しかしながら、特許法の採用する前置審査制度の趣旨に鑑みれば、特許請求の範囲を補正したこと自体が審判請求の理由を端的に示しているものと解されるから、「審判請求理由補充書」なる名称の書類の提出を絶対的な要件とすることは、発明保護を目的とする特許法の趣旨に反するあまりにも形式的な解釈である。本件においては平成三年一一月七日付手続補正書と同時に提出した上申書が実質的な審判請求理由補充書に該当するのであるから、有効な追認によって本件審判請求における方式的な瑕疵は完全に治癒されている。

仮に、「審判請求理由補充書」なる名称の書面の提出が必要であると形式的に解したとしても、前述のとおり本件追認書の提出によって代理権の瑕疵が治癒され、遡及的に代理権があったものとみなされるのであるから、本件においては、審判請求の無効処分に対する平成四年一二月二日付行政不服審査法に基づく異議申立書の添付書類として審判請求理由補充書が審判請求の無権代理人によって提出されており、その後、平成四年一二月九日に本人である控訴人会社が無権代理行為を追認しているから、無効処分確定前の平成四年一二月二日にすでに提出されていた審判請求理由補充書は追認の遡及効によって適法な提出の効果を生ずる。

さらに、追認が従前の手続の効力を承継しないと仮定しても、追認には遡及効がある以上、被控訴人は理由補充書の提出を命ずる義務を新たに負うことになると解すべきである。さもなければかかる遡及効は実効性を失うこととなり、遡及効が無意味と帰するからである。

以上の次第であって、原判決は違法であって、破棄されるべきものである。

以上

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