最高裁判所第二小法廷 平成10年(許)2号 決定 1999年5月17日
抗告人 上田裕康
右代理人弁護士 苗村博子
同 若杉洋一
同 石原真弓
相手方 株式会社大和銀行
右代表者代表取締役 海保孝
右代理人弁護士 待場豊
同 安部将規
同 網本浩幸
同 井上圭吾
同 船戸貴美子
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告人及び抗告代理人苗村博子、同若杉洋一、同石原真弓の抗告理由について
一 本件は、信用状発行銀行において、輸入業者が破産宣告を受けた後、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、輸入業者が転売した輸入商品の売買代金債権の差押えを申し立てた事案である。記録によれば、本件の経過は次のとおりである。
1 協光株式会社は、相手方との間で、信用状取引についての基本約定を締結し、同取引によって負担する債務を担保するため、相手方に対し輸入商品等に譲渡担保権を設定する旨を合意した。
2 相手方は、協光が後記債権差押命令添付の商品目録記載の各商品(以下「本件商品」という。)を輸入するについて信用状を発行し、平成九年一〇月二四日から同月三〇日までの間に、協光に対し、米ドル建て約束手形三通(邦貨換算による手形金額合計一〇九二万四三七一円)の振出しを受ける方法により、輸入代金決済資金相当額を貸し付けた。
3 相手方は、右各貸付けをするのに伴い、協光から、右約束手形金債権の担保として、各対応する本件商品に譲渡担保権の設定を受けた上、協光に対し、本件商品の貸渡しを行い、その処分権限を与えた。
4 協光は、平成九年一〇月二四日から同年一一月一一日までの間に、松下産業株式会社に対し、本件商品を売り渡した。
5 協光は、平成九年一〇月三〇日、破産の申立てをし、同年一一月一二日、破産宣告を受け、抗告人がその破産管財人に選任された。協光は、右破産の申立てをしたことにより、相手方との銀行取引約定に基づき、前記約束手形金債務について期限の利益を失った。
6 相手方は、平成九年一二月九日、前記約束手形金債権を被担保債権とし、譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、協光の松下産業に対する本件商品の売買代金債権の差押えを申し立てた。大阪地方裁判所は、同月一〇日、相手方の申立てを認め、譲渡担保権に基づく物上代位として、債権差押命令を発付した。
二 右の事実関係の下においては、信用状発行銀行である相手方は、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された輸入商品の売買代金債権を差し押さえることができ、このことは債務者である協光が破産宣告を受けた後に右差押えがされる場合であっても異なるところはないと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原決定に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫)