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最高裁判所第二小法廷 平成11年(受)234号 決定 2000年11月10日

《住所略》

申立人

柚紡産業株式会社

右代表者代表取締役

柚岡一禎

右訴訟代理人弁護士

松丸正

阪口徳雄

住川和夫

井上洋子

池田直樹

井上善雄

竹橋正明

辻公雄

吉田之計

中世古裕之

岩本朗

徳井義幸

木村達也

津田浩克

小田耕平

白井皓喜

大阪市中央区北浜4丁目5番33号

相手方

住友商事株式会社

右代表者代表取締役

津浦嵩

右訴訟代理人弁護士

熊谷尚之

髙島照夫

石井教文

池口毅

佐藤吉浩

右当事者間の大阪高等裁判所平成10年(ネ)第1273号株主総会決議取消等請求事件について、同裁判所が平成10年11月10日に言い渡した判決に対し、申立人から上告受理の申立てがあったが、申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項の事件に当たらない。

よって、当裁判所は、裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定する。

主文

本件を上告審として受理しない。

申立費用は申立人の負担とする。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

●上告受理申立理由書(平成11年1月18日付)

平成10年(ネ受)第278号 株主総会決議取消等請求上告受理申立事件

上告受理申立人 柚紡産業(株)

相手方 住友商事(株)

平成11年1月18日

右上告受理申立人訴訟代理人

弁護士 松丸正

弁護士 阪口徳雄

弁護士 住川和夫

弁護士 井上洋子

他12名

最高裁判所 御中

上告受理申立理由書

第一 原判決は商法247条1項1号の解釈を誤ったものである。

一 商法247条1項1号の要件として主観的要件をもとめることは、同号の解釈を誤ったものである。

1 原判決は、従業員株主らの協力を得て株主総会の議事を進行させる場合に、一般株主の利益について配慮することが不可欠であるとして一審判決を維持しながら、どのような場合が、議事進行が法令に違反しまたは決議の方法が著しく不公平にあたるかについて、一審判決を変更した。

すなわち、原判決は、「株主総会招集権者が自ら意図する決議を成立させるために、右従業員株主に命じて、役員の発言に呼応して賛成の大声を上げたり、速やかな議事進行を促し、あるいは拍手するなどして、他の一般株主の発言を封殺したり、質問する機会を奪うなど、一般株主の株主権行使を不当に阻害する行為を行わせた場合は、取締役ないし取締役会に認められた業務執行権の範囲を越え、商法247条1項1号にいう法令に違反し又は決議の方法が著しく不公正な場合に該当するというべきである。」(原判決9頁)と判示する。

これは、<1>一般株主の株主権行使を阻害する行為、の他に、<2>株主総会招集権者が自ら意図する決議を成立させるために、という主観的要件を要件として新たに加えたものである。

2 主観的要件を加えたことは、法令解釈の明らかな誤りである。

なぜなら、主観の有無は、株主権行使が阻害されているという状態に対して、加重も軽減も何ら状態の変化を来たさないからである。株主総会が株式会社の最高意志決定機関であり、株主の議決権は株主が株主総会において意見を表明する手段として重要かつ根本的なものであるから、現実に株主権の正当な権利行使が阻害されたという事実こそ、また、事実のみが重視されるべきものである。

また、「総会招集権者が自ら意図する決議を成立させるために」という主観を要件に加えたところで、この要件の有無をいかなる手法で判断するのか。株主総会決議の法令違反性や著しい不公正さが争われている場面において、総会招集権者が自らの意図を吐露することは現実には想定できない。結局、株主総会がどのような背景事情の中で行われたのか、株主総会の議事運営方法がいかなるものであったのか、という客観的事実から判断をせざるをえないはずである。すると、それは、客観的事実から株主権の行使の阻害性を判断する作業と重なってくる。従って、主観的要件を別途に加える意義は存在しない。

二 原判決の事実認定を前提にし、かつ、原判決の判示する要件を前提としても、本件株主総会は決議の方法が著しく不公正である場合にあたる。原判決が認定した事実を法令解釈にあてはめた結果、本件株主総会に決議方法の著しい不公正性を認定していないのは、商法247条1項1号の解釈を誤るものである。

1 主観的要件

本件は、一審ならびに原判決の認定した後記事実からだけでも、「総会招集権者が自ら意図する決議を成立させるため」という要件を具備していると認めることができる。

第一に、相手方会社は、株主総会招集通知発送直後に銅地金取引による損失問題が明らかになり、マスコミを通じて報道されたため、例年よりも多数の株主が総会に出席すると予想していたこと。

第二に、相手方会社は、東京で2回、大阪で1回リハーサルをし、被上告会社の役員と従業員株主40、50名が出席するなかで、想定問答と「異議なし」「了解」の発言がなされていたこと。

第三に、本件総会の第一会場においては、従業員株主約70名が前半分に着席していたこと。

第四に、その従業員株主を中心に、直ちにあるいは間髪をいれず、一斉に「了解」「異議なし」「賛成」との声があがるつど、その声を株主の意思と理解して議事進行がされていったこと。

第五に、第4号議案までにおいても、第一会場、第二会場のいずれからも、申立人代表者以外の質問者はでておらず、議事進行が遅れたり、荒れたりした様子はなかったこと。

第六に、第5号議案についても、申立人代表者以外に発言を求める株主はいなかったにもかかわらず、秋山議長は、申立人代表者が発言を求めた際、質問者がいるかどうか確認するため、議場を見渡すということをしなかったこと。

これら、一連の事情からすれば、相手方及び代表取締役は、議事進行を司る立場のものとして、本件株主総会が例年どおり、迅速に、予定された議事進行の遂行が可能となり、かつ、議案が可決されることを切望していたことは経験則上明らかである。

2 一般株主の株主権行使の阻害行為

(一)原判決は、従業員株主を中心に一斉に「了解」との声が挙がった際の状況について、一審判決に対して、さらに「間髪を入れず」との認定を加えている。間髪を入れずに、「了解」との従業員株主を中心とした発声があったことをもって、議案承認と評価するのは、まさしく一般株主の発言を封殺し質問する機会を奪う手法である。

(二)また、原判決も「本件総会の議事進行及び決議方法は、議場の雰囲気とも相まって、一般の株主の質問の機会を事実上奪うおそれがある」ことを認めている。そこまで認めながら、結論において、決議の方法の著しい不公正性を認めないのは経験則違反である。

(三)さらに、第5号議案について、申立人代表者以外に発言を求める株主はいなかったにもかかわらず、秋山議長は、申立人代表者が発言を求めた際、質問者がいるかどうか確認するため、議場を見渡すということをしなかったことは、一般株主の発言の機会の確保という発想がないゆえであり、一般株主の株主権の行使を阻害する行為であることは明らかである。

原判決の判示によれば、「従業員株主に命じて、役員の発言に呼応して賛成の大声を上げたり、速やかな議事進行を促し、あるいは拍手するなどして、他の一般株主の発言を封殺したり、質問する機会を奪うなど」という表現で、株主総会が法令に違反し、または決議の方法が著しく不公正な場合を示している。これら原判決の要件にあてはめても、本件はなお決議の方法が著しく不公正な場合である。にもかかわらず、原判決がその結論を是認しないのは、経験則に反し、法令の解釈を誤ったものである。

三 原判決が、第5号議案に関して、秋山議長に対し、申立人代表者の発言は秋山議長の席までには届いていなかったと認定したことは、経験則の判断を誤って事実誤認を招いたものであり、商法247条1項1号の解釈・適用を誤ったものである。

議長にとって発言の有無は関心事であるから、少々の混乱の中であっても、申立人代表者の発言を求める声は、秋山議長の意識に達していたであろうことは容易に推定できる。またビデオテープ検証の結果からも認めることができる。

さらに、申立人代表者は手を挙げて発言を求めていたのであるから、秋山議長の目にとまらなかったのは不自然である。仮に秋山議長が会場を見渡さなかったためにその目にとまらなかったのであれば、議長としての職務怠慢といわざるを得ない。その結果、一般株主の質問権の機会を奪ったのであるから、株主総会の決議の方法に著しい不公正のある場合と評価すべきである。

第二 原判決は株主平等の原則(商法241条1項)の解釈・適用を誤ったものである。

株式会社は同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由のない限り、同一の扱いをすべきである(最高裁第3小法廷判決平成8年11月12日、四国電力事件)。

本件において、従業員株主約40、50名を相手方会社の3回のリハーサルに参加させたことが認定されている。しかし、従業員株主をリハーサルに参加させる合理的理由はない。

この点で、本件判決は法令の解釈・適用を誤ったものである。

第三 本件において必要な視点

従業員株主を中心とした間髪をいれない一斉の「異議なし」「了解」と声があがる中では、一般株主は発言はできない。原判決も「一般株主の質問の機会を事実上奪うおそれがある」と認めているところである。

本件株主(申立人代表者)は、このような異様な議事進行を排してまで発言しようと試みた。このような勇気ある一般株主についてすら、その発言・質問の機会を保護しないならば、一般株主は発言・質問の余地がないこととなり、ひいては、総会屋か会社の意を介した株主のみが発言することになる。これは、株主総会の運営の仕方が、かえって総会屋を生む素地をつくっていることになる。

このような従来型の株主総会は現代においては許されるものではない。情報開示をし、一般株主の参加をめざした株式会社への脱皮をはかるべきである。この点について、「株主総会における株主の発言権」加藤修、『法学研究』70巻12号45頁から47頁を引用する。

「株主総会は、法定の必要機関であり、その重要性については、誰もが充分に認識している。しかし、株主総会の実際上の運営については、一面において、慎重かつ入念に準備されるにもかかわらず、他面において、手間と暇のかかった茶番劇ともなっている。

株主総会の運営に、あれほど多大の労力と費用をかけるならば、株主総会が、空虚な茶番として結末するよりは、意思決定機関として実りある終了をむかえ、関係者の間に、株主総会が充分にその機能を発揮し、将来への指針を把握し得たとの実感の生ずることが望ましい。株主総会の運営につき、これまでの惰性に流され、前例尊重という安易な態度で対応することは、もはや許されないような状況となっている。株主総会の機能不全化を象徴するような事態が、昨今、随所に観察されるようになり、きびしい批判にもさらされている。

株主総会開催日の特定日への集中という事態は、もっとも周知のこととなった悪弊である。さらに、自社の従業員を株主総会に出席させ、議長席に近いところに何列かにわたり事前に着席させて自己都合の秩序維持を企図したり、あるいは、それら従業員株主に、「異議なし」と発声させたり、拍手させたりして、議事進行をうながし、極めて短時間のうちに株主総会を終了させるとの手法も、株主総会運営担当者の間では良く知られている。この手法も悪しき慣行である。また、株主総会における合理的議事運営ということから、一括説明や一括回答の利用もやむを得ない面もある。しかし、ただ、短時間のうちに筋書きとおりに株主総会をとにかく終了させるために、その手段が利用され、あるいは、濫用されるということであれば問題である。この手段は、会議体としての株主総会の機能を低下させ、最終的には全面的な機能不全を生じさせるからである。

同質的な人々により構成される限定された特定の地域において、特別な慣行や手法が採用され、独自の発展をとげることは、よく見られる現象である。しかし、それらの慣行や手法が、さらに広い地域、場合によっては、世界全般において、一般的あるいは普遍的に受け入れられている理念なり通念に反するとすれば、それらの慣行や手法は長続きすることなく、いずれは消滅することとなる。資本に関しては、世界単一市場が形成されたとも評価できる現状において、資本団体である株式会社も世界に受け入れられる規準や標準に従って運営されなければ、結局のところ、資本から見離され、誰からも見捨てられることとなる。

株主総会を機能不全化させているもう1つの大きな要因である「総会屋」と称される特殊株主の利用による株主総会運営も、当局による相次ぐ摘発や企業実務界における大反省の結果、その不合理性の認識のもとに正常化へ向かうものと解される。株式会社という企業にたかる悪漢である「総会屋」なる特殊株主とこれまでのように二人三脚のような協力関係を維持していくことは、世界的観点からのみならず、あらゆる観点からして許されず、排除されなければならない。

右に挙げたような諸事情の変化を踏まえて、株主総会運営の今後を考えると、個々の株主が、正常な雰囲気の中で、今まで以上に平穏な気持ちでのびのびと株主総会に参加し、発言することが出来るようになると考えられる。そして、そのような状況を生じさせないような事態が出てくるようであれば、それを取り除き、株主が、その発言権を株主総会において充分に展開できるような環境を作り出さなければならない。それを怠れば、株式会社の未来は暗いこととなる。」

本件もこのような視点から判断されるべきである。

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