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最高裁判所第二小法廷 平成11年(受)320号 判決 2001年3月16日

上告人

大阪教職員組合

同代表者中央執行委員長

中道保和

同訴訟代理人弁護士

石川元也

渡辺和恵

井上直行

杉本吉史

被上告人

株式会社富士銀行

同代表者代表取締役

山本惠朗

同訴訟代理人弁護士

船越孜

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人石川元也、同渡辺和恵、同井上直行、同杉本吉史の上告受理申立て理由第一点、第二点について

1  原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。

(1)  上告人は、大阪府下の教職員により組織された教職員組合であり、被上告人は、銀行業務を営む株式会社である。

(2)  上告人は、被上告人に対し、平成二年四月三日当時、第一審判決別紙預金目録の番号1ないし20の定期預金債権(以下「本件各定期預金」という。)を有していた。

(3)  本件各定期預金のうち上記目録記載の番号1ないし8の定期預金(以下「本件1ないし8の定期預金」という。)は自動継続定期預金であって、満期日までに預金者から特段の申し出のない限り自動的に従前と同一の期間の定期預金として継続する旨の自動継続特約が付されていた。同番号9ないし20の定期預金(以下「本件9ないし20の定期預金」という。)は自由金利型定期預金であり、自動継続特約は付されていなかったが、被上告人は、上告人に対して、各満期日の到来の際に継続の手続を遺漏なく行うことを約束していた。そして、上告人は、満期日が到来する都度、被上告人に対し、継続の意思表示をした。

(4)  平成二年四月三日、日本教職員組合の申立てにより、上告人を債務者、被上告人を第三債務者とする債権仮差押命令(東京地方裁判所平成二年(ヨ)第二二三〇号)が発せられ、同月五日、同命令が被上告人に送達されたことにより、本件各定期預金に仮差押えの執行がされた。その後、被上告人は、上告人に対し、本件各定期預金について、満期日における継続を拒絶した。

平成六年三月二九日、日本教職員組合の申立ての取下げにより、本件仮差押えの執行が取り下げられた。

(5)  その後、上告人は、被上告人に対し、本件仮差押えの執行を受ける前に到来した直近の各満期日から平成六年三月二九日までの間の本件各定期預金の定期預金利息として一億三一四九万五七六三円の支払を請求した。これに対し、被上告人は、本件仮差押えの執行を受けた後に最初に到来した各満期日において本件各定期預金の定期預金契約は終了したとして、上告人に対し、同各満期日までの定期預金利息と同日以降の普通預金の利率による期限後利息の合計一六八七万二七九七円のみを支払った。

2  本件において、上告人は、定期預金契約に基づく約定利息として、被上告人に対し、1(5)記載の請求に係る定期預金利息金から既に支払を受けた金員を控除した残額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。

3  原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人の本件請求を棄却すべきものとした。

(1)  本件1ないし8の定期預金は、自動継続特約付きであるから、預金者である上告人が満期日後は継続しないことを特に申し出ないときは、期限の延長の申し出があったとみなし、被上告人において期限を延長したものとして取り扱うべきであるが、被上告人は、正当な理由がある場合には継続を拒絶(停止)できるものと解するのが相当である。そして、自動継続特約に基づく期限の延長は、期限到来時に、預金者が特段の申し出をしないという不作為をもって継続(期限の延長)という処分行為がされていると解するのが相当であるから、同特約による継続は仮差押債権者を害する処分行為に当たる。したがって、被上告人は、本件各定期預金が本件仮差押えの執行を受けたことをもって、本件各預金の継続を拒絶する正当な理由とすることができる。

(2)  本件9ないし20の定期預金については、被上告人が上告人に対し継続手続を遺漏なく行うことを約束していたものの、満期が到来した場合に当然に継続の扱いをする旨を約束したことまでは認めるに足りない。そして、被上告人は、上告人の同各定期預金の継続の申し出を拒絶したが、仮に銀行業務の公共性から被上告人において定期預金を継続すべき民事上の義務があるとしても、上記のとおり被上告人には拒絶する正当な理由があると認められる。

(3)  いずれにしても、本件仮差押えの執行を受けた後に最初に到来した各満期日をもって、本件各定期預金についての定期預金契約は終了したものである。

4  しかし、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)  自動継続定期預金における自動継続特約は、預金者から満期日における払戻請求がされない限り、当事者の何らの行為を要せずに、満期日において払い戻すべき元金又は元利金について、前回と同一の預入期間、定期預金として継続させることを内容とするものであり、預入期間に関する合意として、当初の定期預金契約の一部を構成するものである。したがって、自動継続定期預金について仮差押えの執行がされても、同特約に基づく自動継続の効果が妨げられることはない。

そうすると、被上告人は、本件1ないし8の定期預金に対して仮差押えの執行がされたとの一事をもって継続拒絶の理由とすることはできず、本件においては他に継続拒絶を正当とする事情も認められないから、本件1ないし8の定期預金について平成六年三月二九日までの定期預金利息の支払等を求める上告人の請求は理由があるというべきである。これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

(2)  本件9ないし20の定期預金について、原審は、被上告人が上告人に対し、各満期日の到来に際して継続の手続を遺漏なく行うことを約束していた事実(以下、この約束を「本件合意」という。)を認定した上、「満期が到来した場合に当然に継続の扱いをする旨を約したことまでは認めるに足り」ないと判示した。この判示は、本件合意が本件1ないし8の定期預金に付されていた自動継続特約ないしこれを同旨の特約ではなかったとの判断を示すものと解される。しかし、本件合意は、各満期に際して預金者たる上告人から被上告人に対し継続の申入れがあれば、それによって各満期日に従来の定期預金が継続されるとの趣旨(民法五五六条、五五九条参照)、あるいは、被上告人において上告人の継続申入れに応じるべき義務を生じるとの趣旨にも解釈し得るものである。そして、上告人が、本件9ないし20の定期預金について、各満期日の到来する都度、被上告人に対し継続の申入れをしていたことは原審の認定するところであるから、本件合意の趣旨ないし法的性質のいかんによっては、被上告人に正当な抗弁がない限り、上告人の申入れによって本件9ないし20の定期預金が継続されて以後定期預金利息が発生し、あるいは被上告人にこれを継続すべき義務が生じてその履行を拒絶した被上告人の債務不履行責任が問題となり得る筋合いである(記録によれば、上告人はその趣旨の主張をもしていると認められる。)。したがって、原審としては、本件合意の存在を認定した以上、その趣旨及び法的性質を審理した上、被上告人の抗弁の成否について判断すべきであった。しかるに原審がこのような措置をとらなかったことは、契約の解釈に関する法令の適用を誤り、ひいては審理不尽の違法を犯したものというべく、これは判決に影響を及ぼすことは明らかである。

5  論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そこで、本件1ないし8の定期預金については被上告人の支払うべき定期預金利息の金額について、本件9ないし20の定期預金については本件合意の趣旨ないし法的性質等について、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・梶谷玄、裁判官・河合伸一、裁判官・福田博、裁判官・北川弘治、裁判官・亀山継夫)

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