最高裁判所第二小法廷 平成11年(行ツ)271号 判決 2000年4月21日
上告人
池内一雄
被上告人
千葉県選挙管理委員会
右代表者委員長
須賀利雄
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、右各項に規定する事由に該当しない。
なお、次のとおり付言する。
特例選挙区の存置に関し、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。千葉県議会は、平成一一年四月一一日施行の選挙(以下「本件選挙」という。)に先立ち、同一〇年一二月一五日、同七年一〇月実施の国勢調査による人口に基づき千葉県議会議員の選挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号)及び千葉県議会議員の定数を減少する条例(昭和五三年千葉県条例第五三号)(以下、これらを合わせて「本件条例」という。)の一部改正(平成一〇年千葉県条例第四六号による、以下「本件改正」という。)をした。本件改正により、右国勢調査の結果に基づき選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)は、海上郡選挙区0.374、匝瑳郡選挙区が0.375、勝浦市選挙区が0.411となった。千葉県議会は、本件改正に当たり、これらの選挙区につき、配当基数の低下が主に首都近郊地域の人口急増による相対的なものであること、その行政需要、地域の特殊性、議員選出の歴史的経緯等を勘案し、特に首都近郊地域との均衡を図る観点から、公職選挙法(以下「法」という。)二七一条二項に基づくいわゆる特例選挙区として存置することにした。
法二七一条二項の規定は、人口の急激な変動に対応しつつ、郡市の地域的まとまりを尊重し、その区域の住民の意思を都道府県政にできるだけ反映させるみちを残す必要があるという趣旨の下に設けられているものである。このような特例選挙区の存置の適否は、議会の判断が、右法の趣旨に照らし、裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。もっとも、法一五条一項ないし三項の規定からすると、法二七一条二項は、配当基数が0.5を著しく下回ることになる場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解される。前記三選挙区の配当基数はいまだ特例選挙区の設置が許されない程度には至っておらず、他に、千葉県議会が本件改正に当たりこれらの選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。したがって、同議会が右三選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的行使として是認することができるから、本件改正後の本件条例がこれらの選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。
また、定数配分に関し、原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。前記国勢調査による人口に基づく特例選挙区を除くその他の選挙区間における議員一人当たりの人口の最大較差は1対2.758、特例選挙区を含む選挙区間における右最大較差1対3.73であった。右国勢調査による人口に基づく各選挙区の配当基数に応じて定数を配分した人口比定数(法一五条八項本文の人口比例原則に基づいて配分した定数)による議員一人当たりの人口の右最大較差は、前者が1対2.756、後者が1対4.14となる。言い換えれば、同項本文に従って、議員定数を配分した場合の議員一人当たりの人口の最大較差は、前者が1対2.756、後者が1対4.14となるはずのところを、千葉県議会が同項ただし書を適用して本件条例の改正を行った結果、その最大較差は、右のとおり、前者が1対2.758、後者が1対3.73になっており、前者の較差はほとんど変わりがなく、後者の較差は縮小されている。
法一五条八項は、憲法の要請を受け、定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、投票価値の平等を強く要求している。もっとも、選挙区、選挙区への定数配分に関する法の規定等からすれば、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は、特例選挙区が存しない場合でも一対三を超えることがあり得るし、特例選挙区を存置するときは、右の較差が更に大きくなることは避けられないところである。また、同項ただし書は、人口比例の原則に修正を認め、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとしている。したがって、定数配分規定が同項に違反するものでないかどうかは、当該規定が議会の裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。本件についてこれをみると、本件選挙当時における前記のような投票価値の不平等は、千葉県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は、法一五条八項に違反するものではなく、適法というべきである。
よって、裁判官福田博、同梶谷玄の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官亀山継夫 裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官梶谷玄)