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最高裁判所第二小法廷 平成11年(行ヒ)145号 判決 2003年11月21日

上告人

新潟県知事

平山征夫

同訴訟代理人弁護士

高橋巽

村山六郎

橘義則

柳則行

野口祐郁

同指定代理人

杉山順爾

外3名

被上告人

新潟市民オンブズマン

同代表者代表

齋藤裕

同訴訟代理人弁護士

大澤理尋

中村周而

川上耕

足立定夫

和田光弘

遠藤達雄

土屋俊幸

山田寿

伊藤宏

高島章

近藤明彦

板垣剛

味岡申宰

馬場秀幸

高橋利明

清水勉

谷合周三

広田次男

大川隆司

小野寺信一

新海聡

秋田仁志

赤津加奈美

主文

1  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

第1審判決を次のとおり変更する。

(1)  上告人が被上告人に対して平成7年11月13日付けでした別紙1記載の文書の非公開処分(異議申立てに対する同8年12月27日付け決定で一部取り消された後のもの)のうち,同文書について次の部分を非公開とした部分を取り消す。

ア  会合及び贈答(平成7年度決議番号0026701の支出負担行為兼支出命令決議書に係るものを除く。)の相手方のうち国及び新潟県以外の地方公共団体の公務員であってその住所又は出身地のいずれの記載もない者の氏名及び所属・職名の部分

イ  債権者及び資金前渡職員の取引金融機関名,金融機関コード,預金種別,口座番号及び口座名義の部分

(2)  被上告人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟の総費用は,これを2分し,その1を被上告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋巽,同村山六郎,同橘義則,同柳則行,同野口祐郁の上告受理申立て理由について

1  本件は,新潟県(以下「県」という。)内に事務所を有する権利能力なき社団である被上告人が,旧新潟県情報公開条例(平成7年新潟県条例第1号。平成10年新潟県条例第40号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,上告人に対し,県東京事務所における平成7年度需用費の支出に関する一切の資料の公開を請求したところ,上告人が,平成7年11月13日,別紙1記載の文書(以下「本件各文書」という。)が上記公開請求に対応する公文書であるとした上,その一部につき非公開処分をしたため,被上告人が同処分(ただし,異議申立てに対する同8年12月27日付け決定により一部取り消された後のもの。以下,一部取消し後の上記処分を「本件処分」という。)の取消しを求める事案である。

2  原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)  本件条例10条柱書き並びに同条2号,3号及び6号の規定は,別紙2のとおりである。

(2)  上告人は,本件処分において,本件各文書中,①県の公務員を除く懇談会,意見交換会等の会合の出席者及び贈答の相手方の氏名,住所,経歴,出身地及び所属・職名(第1審判決別紙文書目録一(一)で除外されている部分を除く。以下同じ。以下,上記氏名等を「相手方氏名等」という。)の記載部分に係る情報については本件条例10条2号及び6号の非公開情報に,②需用費の支出に係る飲食業者等(以下「債権者」という。)の従業員の氏名,印影及びサイン(以下「従業員氏名等」という。)の記載部分に係る情報並びに③県東京事務所の需用費に係る費用を立て替えてその償還を請求した県の公務員の住所並びにその取引金融機関名,金融機関コード,預金種別,口座名義及び口座番号(以下「口座番号等」という。)の各記載部分に係る情報については,いずれも同条2号の非公開情報に,④債権者の口座番号等の記載部分に係る情報については同条3号の非公開情報に,並びに⑤資金前渡職員の口座番号等の記載部分に係る情報については同条6号の非公開情報にそれぞれ該当することを理由として,上記各記載部分(以下「本件非公開部分」という。)を非公開とした。

(3)  県東京事務所は,在京の国家機関及び企業等を対象とした情報収集,要請・要望,連絡調整,意見交換等を主たる事務事業としている。本件各文書に係る会合は,県東京事務所がその事務事業として又は事務事業の相手方との良好な関係を築くために行ったものであり,本件各文書に係る贈答は,県と特別の関係のある者に対し,社交儀礼又は良好な関係を維持増進することを目的として行ったものである。上記会合及び贈答の相手方は,いずれもその所属する国又は県以外の地方公共団体(以下「国等」という。)の部局や国等以外の法人その他の団体(以下「法人等」という。)の職務として会合に出席し,又は贈答を受けた。

(4)  本件各文書のうち食糧費執行伺いは,県東京事務所において食糧費を支出する際に作成している内部的な決裁文書である。これには,金額,実施(予定)年月日,会場,会合の名称,出席者の氏名,所属・職名等が記載されている。

(5)  本件各文書のうち支出負担行為決議書,支出命令決議書及び支出負担行為兼支出命令決議書には,支出負担行為若しくは支出命令又はその両方の年月日,件名,内容,決議番号,金額,支払先(債権者),(2)の③の職員又は資金前渡職員の氏名,住所,口座振り込みのためのこれらの者の口座番号等が記載されている。上記各決議書のうち,食糧費執行伺いが添付されていないものには,相手方の名簿が添付されており,これには,相手方の氏名,所属・職名が記載されているほか,その一部には,相手方の住所,経歴又は出身地が記載されているものがある。相手方の経歴が記載されているのは,「新潟県の集い」という名称の会合に係る相手方の名簿及び県東京事務所から県内で発行されている地方新聞の配布を受けている元県の公務員で現在中央省庁に勤務している者の名簿であり,県又は県内公的機関在職時の職名が記載されている。

(6)  本件各文書のうち請求書,領収書及び見積書(以下「本件請求書等」という。)は,債権者が,会合に係る飲食代金等の請求等をするため,任意の様式により県東京事務所に提出したものである。これには,請求等の年月日,債権者の氏名(名称)及び住所,請求等金額,その内訳,口座振り込みに係る債権者の口座番号等が記載されている。その一部には,請求等の担当者を示すために,従業員氏名等が記載されているものがある。

(7)  本件各文書のうち立替払費用償還請求書は,県の公務員が,その職務を行うに当たり緊急かつ予期しない需用費に係る費用を立て替えて支払った場合に,その償還を請求するために作成,提出したものである。これには,当該公務員の氏名,請求年月日,請求金額,費用の内容等が記載されている。

(8)  企業誘致事務に関する贈答は,平成7年度決議番号0026701の支出負担行為兼支出命令決議書に係るものだけであり,誘致折衝活動の対象である特定の企業に関する情報を収集するために接触した当該企業にゆかりのある人,当該企業の関連企業又は取引企業等の職員を相手方としたものである。企業誘致事務に関する会合は3件あるが,いずれも特定の企業を対象とした誘致折衝活動の存在を前提としない情報収集のためのものである。本件各文書のうち上記3件の会合に係るものには,会合の内容は記載されていない。

3  被上告人が本件で取消しを求めるのは,本件処分中,本件非公開部分(相手方氏名等のうちの出身地を除く。)を非公開とした部分であるところ,原審は,上記事実関係等の下において,①会合及び贈答(平成7年度決議番号0026701の支出負担行為兼支出命令決議書に係るものを除く。以下同じ)の相手方の氏名,経歴及び所属・職名の記載部分は,本件条例10条2号,3号(原審において,企業誘致事務に関する会合及び贈答に係るものにつき同号の非公開事由が追加主張された。)及び6号のいずれの非公開事由にも該当しない,②従業員氏名等の記載部分は,同条2号の非公開事由に該当しない,③債権者の口座番号等の記載部分は,同条3号の非公開事由に該当しない,④資金前渡職員の口座番号等の記載部分は,同条6号の非公開事由に該当しないとして,本件処分のうちこれらを非公開とした部分は違法であって取り消されるべきであるが,その余の本件非公開部分(相手方氏名等のうちの出身地を除く。)は,上告人主張の非公開事由に該当するから,本件処分のうちこれらを非公開とした部分は適法であるとして,第1審判決を上記の内容のとおり変更する判決をした。

4  原審の上記判断(上告受理申立て理由に係る部分に限る。以下同じ。)中,相手方氏名等の記載部分に係る情報のうち,会合及び贈答の相手方が国等の公務員であってその住所又は出身地のいずれの記載もない者に関するものについて本件条例10条2号及び6号の非公開情報に該当しないとした部分,債権者の口座番号等の記載部分に係る情報について同条3号の非公開情報に該当しないとした部分並びに資金前渡職員の口座番号等の記載部分に係る情報について同条6号の非公開情報に該当しないとした部分は,是認することができる。しかし,原審の上記判断中,相手方氏名等の記載部分に係る情報のうち,会合及び贈答の相手方が公務員でない者及び国等の公務員であってその住所又は出身地の記載がある者に関するもの並びに従業員氏名等の記載部分に係る情報について同条2号の非公開情報に該当しないとした部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)  本件条例10条2号該当性について

ア  本件条例10条2号にいう「個人に関する情報」は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として上記「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。

もっとも,同条3号が,法人等に関する情報及び事業を営む個人の当該事業に関する情報について,上記「個人に関する情報」とは異なる類型の情報として非公開事由を規定していることに照らせば,本件条例においては,法人等を代表する者又はこれに準ずる地位にある者がその職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての非公開事由が規定されているものと解するのが相当である。

また,県政に対する県民の理解と信頼を深め,県政への参加を促進し,公正で開かれた県政を一層推進することを目的とし,そのために県民の公文書の公開を求める権利を明らかにして,県政に関する情報を広く県民に公開することとしている本件条例の趣旨,目的(1条参照)からすれば,本件条例が,県の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書について,県の公務員個人の社会的活動としての側面があることを理由に,これを非公開とすることができるものとしているとは解し難いというべきである。そして,国等の公務員の職務の遂行に関する情報についても,国等において同様の責務を負うべき関係にあることから,上記目的を達成するため,県の公務員の職務の遂行に関する情報と同様に公開されてしかるべきものと取り扱うというのが本件条例の趣旨であると解される。したがって,県及び国等の公務員の職務の遂行に関する情報は,公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,公務員個人が本件条例10条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号の非公開情報に当たるものとはいえないと解するのが相当である。

イ  相手方氏名等

本件各文書中の相手方氏名等の記載部分は,相手方が県東京事務所の会合に出席し,又は県東京事務所から贈答を受けたことに関する情報に係るものである。

国等の公務員以外の相手方に係る上記情報は,その者の社会的活動等にかかわる情報であり,その氏名,所属,職名等により特定の個人が識別され,又は識別され得るものが含まれているものと考えられる。そして,上記相手方が法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者であってその職務として会合に出席したり,贈答を受けたりした事実は,原審において確定されていない。そうすると,上記情報は,本件条例10条2号の非公開情報に該当するというべきである。

次に,前記事実関係等によれば,国等の公務員である相手方は,所属する国等の部局の職務として上記会合に出席するなどしたというのであるから,これらの相手方に係る上記情報は,公務員の職務の遂行に関する情報である。このうち相手方の住所又は出身地の記載があり,その氏名等と合わせて特定の個人が識別され,又は識別され得るものは,私事に関する情報を含むものとして同号の非公開情報に該当するが,その余のものは,同号の非公開情報に該当しないというべきである。なお,上記情報の一部に相手方の経歴を含むものがあるが,それは相手方が県又は県内公的機関に在職していた当時の職名であり,これをもって私事に関する情報ということはできない。

ウ  従業員氏名等

前記事実関係等によれば,本件請求書等のうち従業員氏名等が記載されているものには,債権者が自己の名義で行う請求等の内容のほかに,その請求内容等に関する問い合わせの便宜のため,担当する従業員の氏名等が記載されているというのである。そうすると,当該従業員に関する情報は,個人に関する情報であり,かつ,特定の個人を識別し得るものであるから,本件条例10条2号の非公開情報に該当するというべきである。

(2)  本件条例10条6号該当性について

ア  相手方氏名等

前記事実関係等によれば,本件各文書中の相手方氏名等の記載部分は,いずれも県東京事務所が在京の国家機関や企業等を対象とした情報収集,連絡調整等の事務事業として又はこれに関連して行った会合及び贈答の相手方に係るものであるというのであるから,これに関する情報は,本件条例10条6号の「事務事業に関する情報」に当たることが明らかである。

ところで,上記情報のうち前記(1)イで述べた本件条例10条2号の非公開情報に該当するものは,同条6号該当性を判断するまでもなく非公開とすることができるものであるから,同号との関係で更に検討する必要があるのは,上記情報のうち相手方が国等の公務員であってその相手方氏名等に住所又は出身地のいずれの記載もない者に関するものである。

まず,上記会合のうち,企業誘致事務に関係しないものは,上記のとおり純然たる儀礼的な会合ではなく,内密の協議等を目的とした会合であることをうかがわせる事情もない。また,企業誘致事務に関するものについては,前記事実関係等によれば,これは,特定の企業を対象とした誘致折衝活動を前提としたものではなく,一般的な情報を収集するための会合であり,その内容自体は文書中に記載されていないというのである。そうすると,上記の国等の公務員を相手方とした上記会合に係る相手方氏名等の記載部分を公開しても,同号所定のおそれを生ずることは考え難く,これに関する情報は,同号の非公開情報に該当しないというべきである。

次に,前記事実関係等によれば,本件各文書中の上記贈答に係る相手方氏名等の記載部分に記載されている公務員は,その所属する国等の部局の職務として贈答を受けたというのである。そうすると,上記贈答は,当該公務員個人に対してされたものではなく,同人が所属する国等の部局に対してされたものというべきである。そして,当該部局名及び贈答内容については,本件処分において既に公開されているのであるから,上記の国等の公務員を相手方とした上記贈答に係る相手方氏名等の記載部分を公開しても,新たに同号所定のおそれを生ずることは考え難い。したがって,これに関する情報は,同号の非公開情報に該当しないというべきである。

イ  資金前渡職員の口座番号等

本件各文書中の資金前渡職員の口座番号等の記載部分は,県東京事務所において資金前渡による現金支払を担当する特定の職員が職務上使用するために開設した金融機関の口座に係るものである。この口座番号等の記載部分が公開されても,県の事務事業の円滑な実施を困難にするなどのおそれを生ずることは考え難い。したがって,これに関する情報は,同条6号の非公開情報に該当しないというべきである。

(3)  本件条例10条3号該当性について

前記事実関係等によれば,本件請求書等は,債権者が任意の様式により作成したものであり,債権者は,県に対し,これにその口座番号等を記載して請求等行為を行っているというのであり,顧客が県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を開示したなどの特段の事情があることは,原審において確定されていない。そうすると,本件各文書中の債権者の口座番号等の記載部分に係る情報は,本件条例10条3号の非公開情報に該当しないというべきである。

5  以上によれば,原判決中上告人敗訴部分に係る原審の前記判断のうち,会合及び贈答の相手方が公務員でない者及び国等の公務員であってその相手方氏名等に住所又は出身地の記載がある者に関する情報並びに従業員氏名等の記載部分に係る情報について同条2号該当性を否定した部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,これと同旨をいう限度で理由があり,原判決中上記部分は,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち,本件各文書について会合及び贈答の相手方が国等の公務員であって住所又は出身地のいずれの記載もない者の相手方氏名等並びに債権者及び資金前渡職員の口座番号等の各記載部分を非公開とした部分は違法であるから,同部分は取り消すべきであるが,その余の本件非公開部分を非公開とした部分に違法はないから,同部分に係る被上告人の請求は棄却すべきである。原判決主文第一項は,本判決主文第1項のとおり変更すべきである。

(裁判長裁判官・亀山継夫,裁判官・福田博,裁判官・北川弘治,裁判官・梶谷玄,裁判官・滝井繁男)

別紙1,2<省略>

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