最高裁判所第二小法廷 平成11年(行ヒ)70号 判決 2003年3月14日
上告人
協業組合カンセイ
同代表者代表理事
曙恒平
同訴訟代理人弁護士
本城孝一
同
大井相石
被上告人
公正取引委員会
同代表者委員長
竹島一彦
同指定代理人
鈴木亨
外六名
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人本城孝一、同大井相石の上告受理申立て理由について
1 本件は、出資金一〇〇〇万円で設立された協業組合で、水道施設工事業等を営む上告人が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)三条に違反する上告人の行為について、被上告人から法七条の二第一項に基づき同項所定の売上額に一〇〇分の六を乗じて得た額に相当する額の課徴金一九三四万円を国庫に納付することを命ずる審決(以下「本件審決」という。)を受けたため、上告人は同条二項(平成一一年法律第一四六号による改正前のもの。以下同じ。)一号の事業者に当たるから、本件審決のうち上記売上額に同項柱書き所定の一〇〇分の三を乗じて得た額に相当する九六七万円を超えて課徴金の納付を命ずる部分は同項に違反し、法八二条二号に当たるとして、本件審決中同部分の取消しを求める事件である。
2 法は、七条の二第一項において、事業者が商品等の対価に係るか又は実質的に商品等の供給量を制限することによりその対価に影響のある不当な取引制限等(以下「カルテル」という。)をしたときは、公正取引委員会は、当該事業者に対し、その実行期間における当該商品等の政令に定める方法により算定した売上額に一〇〇分の六(以下「基本算定率」という。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない(ただし、小売業及び卸売業については別の算定率による。)旨規定するとともに、同条二項において、課徴金納付命令の対象となる事業者が、同項各号に定める資本の額若しくは出資の総額が一定額以下の会社又は常時使用する従業員数が一定数以下の会社若しくは個人(以下、同項各号に定める事業規模に関する定めを「小規模要件」という。)であって、それに対応する同項各号に定める業種に属する事業を主たる事業として営むものに当たるときは、上記売上額に乗ずる割合を一〇〇分の六から一〇〇分の三(以下「軽減算定率」という。)に軽減する旨規定している。以上は、平成三年法律第四二号(以下「平成三年改正法」という。)により改正ないし新設されたものである。
原審の確定した事実関係等によれば、平成三年改正法による法七条の二の改正の趣旨等は、次のとおりであった。(1)平成三年改正法による法の改正は、カルテルに対する抑止力を強化することなどを趣旨とし、そのための具体的方策の一つとして、課徴金の算定における算定率を原則的に引き上げるとするものである。(2)引き上げ後の算定率は、規模の大きい企業によってカルテルが行われた場合に国民経済に与える影響が特に広く、かつ、重大であることや、これまで課徴金の対象となった違反事件の実態などを踏まえて、一定規模以上の企業の利益率を用いるのが適当とされ、資本金一億円を超える企業(小売業及び卸売業を除く。)の売上高営業利益率の平均値を基に、小売業及び卸売業を除く事業者について一〇〇分の六とされた。(3)他方、規模の小さい企業がカルテルを実行した場合、その経済的利得も相対的に小さくなる傾向があり、また、一般に企業の規模に応じて営業利益率にかなりの幅があることを踏まえて、規模の小さい企業に対する課徴金の額の算定について適切な措置を講ずることが妥当であるとされた。
3 原審は、次のとおり判断して、協業組合である上告人は、軽減算定率の適用を受け得る法七条の二第二項一号にいう「会社」又は「個人」のいずれにも当たらないから、本件審決は適法であるとした。
(1) 法七条の二第二項各号は、中小企業関係法令において一般的に用いられている中小企業者の範囲を定める規定に依拠して定められたものであり、これを適用する事業者を「会社」と「個人」に限定したものと解される。
(2) 協業組合は、地域独占体を構成し、又は大規模事業者が加入しているものであっても、組合固有の出資の総額及び常時使用する従業員数が小規模要件を満たす場合があるが、その組織実態としては、事業規模等において大規模事業者としての実質を備え、それに匹敵する経済的活動を行うことが可能である。このような協業組合の特質を考慮すると、協業組合については、組合固有の出資の総額及び従業員数の基準のみによってその事業規模等を判定することは必ずしも適当ではなく、課徴金の算定率を改正するに当たり、軽減算定率を適用すべき中小企業者の範囲から除外し、基本算定率を適用することに合理性がある。
(3) 法七条の二第二項は、同条一項の例外規定であるから厳格に解釈する必要がある。「会社」とは、一般に、商法会社編の規定又は有限会社法によって設立されるものをいい、法においてこれと異なる解釈をすべきものとする規定は見いだせない。むしろ、法二条一項、七条の二第五項、一〇条、一四条等の規定に照らすと、法は、「会社」は「事業者」の一部を指すものとし、両者を同義に解釈する余地を除いている。したがって、法七条の二第二項各号にいう「会社」には、協業組合が含まれると解することはできない。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係等にかんがみれば、法七条の二第二項の趣旨は、事業規模の小さい企業に対して軽減算定率を適用することにあるところ、前記同条の改正の経緯等によれば、同項の規定の適用対象となり得る「会社」又は「個人」と事業規模においてこれらと同等というべき事業者との間で軽減算定率の適用上取扱いを異にしなければならないとする理由は見いだすことができず、同項の適用対象が同項の規定する「会社」又は「個人」に厳格に限定されていると解するのは相当でないというべきである。
原審の指摘するとおり、協業組合は、その固有の出資の総額及び従業員数をもって事業の規模を判断するのは適当とはいえず、単純に「会社」又は「個人」と同列に論ずることはできない。しかし、上告人の主張によれば、上告人の組合員は個人事業者であるところ、協業組合員が、各組合員が営んでいた事業を基盤としているものであることからすれば、個人事業者を組合員とする協業組合にあっては、当該組合固有のものに各組合員固有のものを合わせた常時使用する従業員の総数が同項の規定する「会社」及び「個人」に関する従業員数の要件に該当するときは、同項を類推して、当該組合には軽減算定率が適用されるものと解するのが相当である。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。論旨は、上記の趣旨をいう限度で理由がある。そして、上告人及びその組合員の常時使用する従業員の総数は、原審の確定するところではないから、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・滝井繁男、裁判官・福田博、裁判官・北川弘治、裁判官・亀山継夫、裁判官・梶谷玄)
上告受理申立て理由書
原判決には、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独占禁止法という)第七条の二第二項の解釈適用を誤った違法があり、これが判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
以下、理由を述べる。
一 本件の争点は、中小企業の実質を有する申立人に対する課徴金を算定するに当たり、独占禁止法第七条の二の規定のうち、第一項所定の算定率が適用されるのか、第二項所定の算定率が適用されるのかであり、右条項に規定された「会社及び個人」の解釈適用の問題である。(原判決七ページ参照)
二 原判決は、独占禁止法第七条の二について、①平成三年の同法改正の経緯、その立法趣旨、②中小企業関係法令との整合性、③会社と協業組合その他の組合との相違、④同条項の文理等を総合勘案すると、同条第二項各号の「会社及び個人」に協業組合が含まれると解釈することはできないと判示している(原判決三一ページ)。
しかしながら、原判決が判示の根拠とする、右①ないし④についてした判断内容(同二二ないし三一ページ)には、つぎのとおり誤りがある。
三 ①「平成三年の法改正の経緯、その立法趣旨」について
1 右法改正の経緯については、原判決八ページに申立人(原告)の主張として引用されているように、昭和五二年の法改正により導入された課徴金制度が同法違反行為の抑止効果からみて不十分になったこと(特に、規模の大きい企業によって行われるカルテルが国民経済に与える影響が重大であるにもかかわらず、大企業に対する課徴金の感銘力が弱まった)等から、日米構造問題協議におけるカルテル規制の実効性を図るための日本側措置の一つとして決定され、課徴金算定基準を大幅に引上げることを目的としたものである。
2 現行規定は、右目的を図るため算定方式は従前どおりであるが、算定率については、販売業(小売業、卸売業)を除く「大企業」の売上高営業利益率の平均を採用してこれを原則算定率(六パーセント)とする(第一項)とともに、大企業に該当しない「中小企業」については、「課徴金に関する独占禁止法法改正問題懇談会」の報告の趣旨(企業規模に応じて営業利益率に幅があることを踏まえ算定率に適切な措置をとるのが妥当)をうけ、原則算定率を軽減する算定率を設定する趣旨で第二項を規定したものである。
すなわち、第一項と第二項の適用区分は、カルテル規制の実効性を図るという趣旨に則り、「大企業」の平均利益率を原則算定率にすることとしたため、右企業規模に該当しない対象企業に対しては、大企業の平均利益率を軽減した算定率とすることが妥当として設けられたものである。したがって、対象企業の「規模の相違」だけが前提となっているのであり、それ以外の区分意図は全く存在していない。
このことは、改正における論議の経過(甲第一、二号証等)並びに改正規定を説明した諸資料(審第一、二号証等)に徴し明らかである。
3 ところが原判決は、法違反行為に対する抑止力強化のため、一定規模以上の企業(大企業)の利益率を原則算定率とすることとし、他方規模の小さい企業には、それと異なる算定率を定めることが妥当として、第一項と第二項とが設けられたことを正しく理解認定(二二ページ以下)しながら、第二項が適用されるべき中小企業の「範囲」について、中小企業関係法令において一般的に用いられているところにより、一定規模の「会社及び個人」と規定したことから、突如「会社及び個人」に限定されるのだと誤った判断を導いている。
4 前記、右条項の改正経緯、趣旨を正しく理解するならば、中小企業とされるべき「範囲」というのは、大企業とされるべきものとそれ以外の中小企業とされるべきものの、「企業規模の基準」をどのように設定するかの意味である。
「企業規模の基準」以外に、企業の(存立)形態(法形式)によって範囲を画そうなどという意識は、毛頭存在しないことは明白である。
ところが、原判決は、法概念としては極めて明確な「会社及び個人」という文言にのみ眩惑されて、立法及び規定の趣旨を全く没却してしまう誤った結論に陥っているのである。
企業規模の相違による適用区分を設けることが目的なのであるから、ア経済法及び競争政策の体系の中で用いられた企業規模の区分と整合性のあるものであること、イ安定的な指標すなわち頻繁に変更されないこと、ウ事業者に理解しやすいものであることという、中小企業の定義規定を設けるに当たって挙げられた説明は、いずれも「企業規模の基準」のことを念頭においてのことである。
したがって、中小企業関係法令において一般的に用いられている範囲によるというのも、そこで統一的に規定されている、資本(出資)と従業員の数額の基準を引用することに真の意図があったのであり、続けて規定されている「会社及び個人」という文言は、独占禁止法において用いられている事業者の一般的形態としての例示として、そのまま規定されたものと理解すべきなのである。(原審における申立人(原告)の第一準備書面二の3以降、及び本件審決の少数意見一の2(六ページ以下)参照)
5 原判決の判断及び相手方の主張は、右規定の趣旨を没却する誤った解釈であり、第二項の対象者が「会社及び個人」に限定されるなどというのは、立法の意図を逸脱した結論であることについて多言を要しない。
原判決の判断は、形式的文理解釈をしているのと全く同じであり、なぜに法改正の経緯や、趣旨を条文解釈の前提として検討したのか、理解できない態度と言うべきである。
四 ②「中小企業関係法令との整合性」について
1 原判決は、中小企業基本法(以下、基本法という)、中小企業団体の組織に関する法律(以下、中団法という)をはじめとする中小企業関係法令における、中小企業者の定義ないし範囲について、「会社及び個人」との規定では申立人である協業組合やその他の組合は含まないのであるから、中小企業関係法令で用いられている定義と同様の文言で規定をする独占禁止法第七条の二第二項は、「会社及び個人」に限定する趣旨であり、協業組合等を除外していると解さざるを得ないと判示している(二五ページ)。
2 しかしながら、原判決の右判断は、つぎの点で誤っている。
すなわち、第二項が基本法第二条一号や中団法第五条で用いられている文言と同一の文言を使用したのは、前記三4に記載したとおり、「企業規模の区分」についての整合性、安定性、理解の容易性を目的とした趣旨である。したがって、引用した意図は、企業規模の基準を示す、資本(出資)の額と従業員数を規定した部分にこそあるのであって、「会社及び個人」という文言に重要な意義があるのではない。このことは、立法過程における事実から明らかである。
原判決は、法改正の際、対象者の範囲につき企業規模の点だけを表現したり説明したりしているのは、その際には、協業組合等が対象となるかどうかについて、厳密な議論や説明が要求されていたとは考えられないから(二六ページ)などと、勝手な憶測をしている。
本件において明らかになっている立法関係資料(甲号各証参照)及び立法成立後の資料(審第一、二号証参照、特に第一号証の二、二三四ページ一三行目以下の注)を検討すれば、立法者においては、企業規模の基準以外をもって対象者を限定する意図を有していたとは認めることができない。だからこそ、それを前提とした表現や説明がされていると受けとめるのが自然な理解であり、原判決の判示は、牽強付会と言うほかない。
3 さらにまた、基本法第二条一号、中団法第五条の規定と同一の文言を使用しているからといって、そのことが独占禁止法においても、右法条におけるのと全く同様に解釈(協業組合等を除く)されなければならないという根拠にはならない。
基本法は中小企業の政策を表明したにすぎず、同法に基づきそれぞれの目的に従って各種中小企業立法がなされることが予定されている。制定された各中小企業関係法令は、その趣旨、目的に応じて中小企業者の範囲を規定することが予定されていて、基本法二条は同法の対象者となる者を例示する趣旨で、「おおむねつぎに掲げるものとし」て「会社及び個人」と規定している。したがって、同条項における「会社及び個人」は、例示としてそのまま文理解釈による理解をしても何ら問題はない。
一方、中団法第五条は、協業組合(及び商工組合)の組合員となる者としての中小企業者の定義をしている規定であるから、同条項における「会社及び個人」には協業組合自体は含まれないと解釈して当然である(商工組合については、同法第一一条第二号に協業組合を含む旨別に規定している)。
このように、それぞれ条文の持つ趣旨が異なり、そこで解釈されるべき意義も異なるのであるから、同一文言を用いていることのみをもって、独占禁止法の規定の趣旨を無視し、形式的解釈のみの整合性を求めることは誤りである。
したがって、独占禁止法第七条の二第二項の適用において、「会社及び個人」を、基本法等と同じにその文言どおりに限定して解釈すべきとする根拠にはならないと言うべきである。
五 ③「会社と協業組合その他組合との相違」について
1 原判決(二六ページ以下)は、第二項各号が中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定し、協業組合等を除外した実質的理由が存在すると判示している。その内容は、相手方(被告)準備書面(平成一〇年九月一七日付)、第三の主張を採用したものである。
2 相手方の右主張が、何ら実質的理由となるものでないことは、主張した相手方自身が一番よく承知していることである。
すでに述べたとおり、前記法改正は日米構造問題協議から出発して、「課徴金に関する独占禁止法改正法問題懇談会」の報告に基づき立法化されたのであるが、この過程において相手方の右主張が全く認識されていなかったことは明白である。立法経過に深く関わっている相手方においても、同様の認識(甲第五号証の二「課徴金算定手続の概要」参照)であったことはつぎのことからも容易に判明する。
すなわち、本件記録上明らかなとおり、相手方が実質的理由として右主張を提出したのは、原審の口頭弁論終結時(書面は約一週間前)に至ってである。もし、相手方の主張するところが実質的理由として認識されていたというのであれば、当初より堂々と主張されて然るべきである。しかし、本件審決に至るまでの相手方の主張は、全くの形式論を冗長に述べただけのものである。
平成一〇年七月三日の原審口頭弁論において、裁判所より相手方(被告)に対し、中小企業者を区分する実質的理由はあるのか、ないけれども現行規定上やむを得ないという趣旨の主張かについて問いが発せられ、その点についての主張があれば八月一四日までに提出することとの指示がされていたのである。
ところが、相手方はこの点について右期日までに主張を提出しないばかりか、申立人(原告)において、右主張はないものと受けとめて然るべき時期になって、突如として提出してきたのである。
右経緯から判断しても、相手方自身その主張するところが真に実質的理由となるなどと考えていないことは明らかである。
3 原判決が、実質的理由として指摘するところは、つぎのとおり何ら合理性を有しない。
原判決(二七ページ以下)は、実質的理由となるものとしてつぎの二点を挙げている。すなわち、協業組合については、一定の取引分野において、ある業種に属する事業者の全て又はその大部分のものが一つの組合を設立し協業を図る場合、いわゆる地域独占体を構成することが考えられること、中団法第五条の五、六の規定により、中小企業者以外の者も組合員として加入することができることから、大規模事業者としての実質を備えそれに匹敵する経済活動を行うことが可能であることである。
右のうち前者、すなわちいわゆる地域独占体を構成することが考えられるとする点は、何ら理由とはならない。なぜなら、地域独占体とは、一定の取引分野において全て又はその大部分の事業者が組合を設立することで競争相手が実質存在しない状態のことを言うのであって、企業規模の大小とは直接は関係がないからである(地域独占体となること全てが、大企業規模化を意味するものではない)。
したがって、右の点を中小企業者から除外すべき根拠とすることは適切でない。
理由として考えられうるとすれば後者の点だけである。
4 後者の点、すなわち組合員として中小企業者以外の者が組合に加入しうることから、出資額や従業員数だけの基準では企業規模を律することはできず、協業組合を小規模事業者から排除することに合理性があるとするのも誤りである。
原判決は、組合員に大規模事業者が加入している組織は企業規模において大規模事業者としての実質を備え、大規模事業者に匹敵する経済活動を行うことが可能としているが、協業組合の実態としてそのようなことがどの程度あるのか何ら論証されていない。また、右のような事態は、会社という組織形態をとった場合にはありえないのか、例えば、大企業の子会社や持株会社については同様の問題が生じないと言えるのか疑問がある。
本件申立人は、原判決が想定するような協業組合でなく、正真正銘の中小企業者である極めて薄弱な可能性(協業組合の殆どは申立人のような中小企業であると思われる。)を根拠として、本来的に中小企業者に適用されるべき規定の適用がなぜ「一律」に排除されなければならないのか、合理性を見出だすことができない。
5 また、原判決は、「会社及び個人」という形態に該当しない事業者には、独占禁止法第七条の二第二項の適用はない(三一ページ参照)というのであるが、その合理的理由となるとする構成員の特質(大企業者も一定の範囲で加入できる)は、協業組合以外の他の組合の全てに当てはまるものではない。(さらに、公益法人等のいわゆる中間法人も課徴金納付命令の対象者となるが、これらに大規模事業者が構成員として加入することは考えられない。)
原判決の指摘する特質を有しない事業者も、「会社及び個人」という形態でない限り、原判決によれば一律適用を排除することになるが、その全ての対象者について第二項の適用を排除する合理的根拠が存在するとは考えられない。
原判決によれば、適用を排除される「会社」以外の殆どの中小企業者に、大企業の平均利益率による算定率が適用される結果になるが、このことは立法の趣旨からして容認できるものではない。
なぜなら、同条項はもともと、前記改正問題懇談会の報告、「企業規模に応じて営業利益率に幅があることを踏まえ算定率に適切な措置をとるのが妥当」としてなされた立法措置であるのに、中小企業に大企業の平均利益率が適用される結果になってしまうのでは、妥当な立法措置とは言えなくなってしまうからである。
六 ④「第七条の二第二項の文理」について
原判決の右の点についての判断(三〇ページ以下)は、全くの形式論理である。法の解釈は具体的妥当性を有するのでなければならず、文理解釈に終始すべきではない。
本件において、申立人は他の八名のもの(いずれも株式会社)と共同してした行為に対し課徴金を加せられたのである。申立人と他の者との企業規模に相違はないのに、申立人のみに「大企業」の利益率に基づく算定率が適用される結果を招来するのは、著しく具体的妥当性に欠ける結論である。
そのような結果が生ずるのは、本来の意図を規定する際の、立法技術上の不手際に目をつぶり、形式的文理解釈にのみとらわれているからである。
本件申立人に対し、拡張ないし類推解釈によって第二項を適用することは、法の解釈として十分可能であり、そしてそのことこそがまさに司法の作用として求められているのである。
七 以上のとおり、原判決が結論の根拠とする内容はいずれも誤りであり、それに基づく原判決の結論は正当とは認められない。
よって、原判決を破棄し、本件審決の取消(一部)を求めるものである。