最高裁判所第二小法廷 平成12年(受)1589号 判決 2003年10月31日
上告人
株式会社整理回収機構
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
大野敏之
同
寺垣玲
同
小濱意三
被上告人
X
同訴訟代理人弁護士
直野喜光
主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人大野敏之,同寺垣玲,同小濱意三の上告受理申立て理由第二について
1 原審の適法に確定した事実関係は,次のとおりである。
(1) Bは,第1審判決別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。
(2) 被上告人は,昭和37年2月17日に本件土地の占有を開始し,同57年2月17日以降も本件土地の占有を継続していた。
(3) Bは,昭和58年12月13日,株式会社住宅ローンサービス(以下「訴外会社」という。)との間で,本件土地につき,訴外会社を抵当権者とし,債務者を有限会社菊水旅館とする債権額1100万円の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定してその旨の登記を了した。
(4) 上告人は,平成8年10月1日,訴外会社から,本件抵当権を,その被担保債権と共に譲り受け,同9年3月26日,本件抵当権の設定登記につき抵当権移転の付記登記がされた。
(5) 被上告人は,昭和37年2月17日を起算点として20年間本件土地の占有を継続したことにより,時効が完成したとして,Bに対して所有権の取得時効を援用した。そして,被上告人は,平成11年6月15日,本件土地につき「昭和37年2月17日時効取得」を原因とする所有権移転登記を了した。
2 被上告人は,本件抵当権の設定登記の日である昭和58年12月13日から更に10年間本件土地の占有を継続したことにより,時効が完成したとして,再度,取得時効を援用し,本件抵当権は消滅したと主張して,上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を求めた。
3 原審は,前記の事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1) 被上告人は,昭和37年2月17日から20年間占有を継続したことにより,本件土地を時効取得したが,その所有権移転登記をしないうちに,訴外会社による本件抵当権の設定登記がされた。このような場合において,被上告人が,本件抵当権の設定登記の日である昭和58年12月13日から更に時効取得に必要な期間,本件土地の占有を継続したときには,被上告人は,その旨の所有権移転登記を有しなくても,時効による所有権の取得をもって本件抵当権の設定登記を有する訴外会社に対抗することができ,時効取得の効果として本件抵当権は消滅するから,その抹消登記手続を請求することができる。
(2) 被上告人は,本件抵当権の設定登記の日には,本件土地の所有権を既に時効取得していたことからすると,その日以降の被上告人の本件土地の占有は,善意,無過失のものと認められる。
(3) したがって,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日から10年間占有を継続したことにより,時効が完成し,再度,取得時効を援用して,本件土地を更に時効取得し,これに伴い本件抵当権は消滅したものというべきであるから,被上告人は,上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を求めることができる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記の事実関係によれば,被上告人は,前記1(5)の時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。そうすると,被上告人は,上記時効の完成後に設定された本件抵当権を譲り受けた上告人に対し,本件抵当権の設定登記の抹消登記手続を請求することはできない。
5 以上によれば,被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。そして,前記説示によれば,被上告人の請求は理由がないから,これを認容した第1審判決を取り消した上,被上告人の請求を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・亀山継夫,裁判官・福田博,裁判官・北川弘治,裁判官・梶谷玄,裁判官・滝井繁男)