最高裁判所第二小法廷 平成13年(あ)2010号 判決 2006年9月08日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人岩田務ほかの上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。また,記録を調査しても,次のとおり,本件について刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
1 記録によれば,被害者両名の着衣に付着していた繊維の鑑定,不審車両の目撃供述等からして犯行に使用された自動車は被告人の使用していた車両と同車種,同グレードのものであると特定できるところ,当時これを保有していたのは,死体遺棄現場付近や福岡県飯塚市内及びその周辺において被告人を含む極めて少数の者に限られていたこと,被告人の使用車両からは血痕及び尿痕が発見されているところ,上記血痕は被害者1名の血液型と一致している上,同血痕が同人のDNA型と同じ特徴を備えており,上記尿痕が被害者の1名又は両名の失禁によるものと考えていずれも矛盾しないこと,被告人は日常的に誘拐の犯行時刻ころに誘拐の現場付近を被告人の使用車両で通行していたこと,被害者両名の死体などに付着していた血液からは被告人の血液型と同じ型のものが検出され,また,その血液中から被告人のDNA型の一部と一致するとみて矛盾しないものが発見されていることなどが認められる。これらの情況事実は,各々独立した証拠によって認められるものであり,かつ犯人を一定の者に限定し得るものであって,それぞれが,被告人が犯人であることを強く推認させ,又は犯人たり得ることを示すものといえる。そして,被告人に犯行当時のアリバイ等犯人性に疑問を生じさせる事情が認められないことも併せ考えると,被告人が犯人であることについては合理的疑いを超えた高度の蓋然性があるということができるから,これと同旨の原判決の事実認定は,正当として是認することができる。
2 本件は,被告人が,登校途中の小学校1年生の女子児童2名(いずれも当時7歳)を略取又は誘拐し,同女らをやく殺した上,その前後に同女らに対しわいせつな行為に及び,その後各死体を山中に遺棄したという事案である。上記犯行は,罪質が極めて悪質であり,性的欲望を遂げようとした卑劣な動機に酌量の余地はなく,抵抗する力の弱い同女らのけい部を手で締め付けて窒息死させたという殺害の態様も,冷酷,非情かつ残忍なものである。結果はもとより重大であり,同女らの受けた苦痛及び無念の情は察するに余りある上,極めて非人間的な所為によりまな娘を失った遺族らの被害感情も厳しく,社会に与えた衝撃も大きい。被告人は,捜査段階から一貫して犯行を否認しており,自責の念はうかがえず,遺族らに対し全く慰謝の措置を講じていない。以上のような事情に照らすと,被告人の罪責は誠に重大であるといわざるを得ない。そうすると,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官岩永建保 公判出席
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)